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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2584年(1924年)

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提唱者と実践者

皇紀2584年(1924年)8月3日 帝都東京


 永田鉄山中佐の東條英機大佐への一言はきついものだった。


 仮にこれが前世であったならば、永田であっても憲兵隊のお世話になるか、万年2番と揶揄された西尾寿造大将の様に更迭されたことだろう。ちなみに西尾は「そんなことは毎朝塵箱を漁っとる奴に聞け!」と新聞記者に怒鳴ったことが原因で更迭されている。


 口は禍の元とはまさに。


「永田さん、あなたの国家総動員、高度国防国家論……アレを実現するには如何ほどの国力が必要であるか、それを支える工業力、技術力はどこにあるのでしょうか? 私はあるとすれば、財閥などではなく、有坂重工業だと考えております……実際にあの工場を目にしたのなら、よくお解りでしょう?」


 東條は永田が有坂重工業を視察したというそれを基に永田をやり込めることにする。


「ぐっ……」


「有坂重工業を指揮する有坂総一郎にはお会いしたことがありますか? ないのであれば、一度会ってみることをお勧めしますよ。我が帝国に何が足りないのか、陸軍が欲しているものに必要なことを彼はあらゆる点で明快に示してくれると思いますよ……まぁ、永田さんがそれを受け入れられるか、それが気掛かりですが」


 東條はここで何か言っても大喧嘩になるだけだと考え、総一郎に丸投げするとともに、永田の自説に足りないものを明確に彼に自覚させることが何よりも大事だと思っていた。


 永田の高度国防国家論、国家総動員体制構築論などは史実において陸軍の統制派の精神的支柱であったが、残念なことにそれを支える実力があらゆる点で大日本帝国には足りていなかったのだ。


 永田の主張した支那討伐によって支那をコントロールし、それを用いて対ソ政策に充てるという考えも理屈は通っているが、結局は理屈倒れだったと東條は嫌というほど認識していた。


 そもそも、史実で永田が荒木貞夫陸軍大臣へ支那討伐を主張した時に「支那を武力で討伐など出来るわけがない。それに米英が黙ってはいない。当然、国際社会から孤立する」と正論を言われる始末だった。


 東條は史実における永田の穴だらけの理屈で一番苦労した経験から永田にだけは主導権を握らせてはいけないと心底思っていたのだ。


「それは、貴様が有坂に誑し込まれておるだけだろう! 長州閥どもみたいに財界と癒着する貴様にはあきれてものが言えない! 貴様の講義は腑抜けたことをダラダラと垂れ流しておるし、陸軍軍人として恥を知れ!」


 永田の言葉に東條は意固地になったハゲは面倒だなとウンザリするが、それでも一応は陸大受験時の恩もあることから聞かなかったことにした。


「永田さん、現実を見てください。シベリア出兵の勝因は何ですか? アレは有坂重工業、いや、有坂総一郎という人物があなたの国家総動員体制や高度国防国家論を実践したからこその結果ではありませんか? 切れ者のあなたがそれを理解出来ないとは思えませんが、どうも今のあなたは焦りから目が曇っているようですね……」


 だが、東條も人の見る目がないと言われた事実には少しばかりカチンと来ていたこともあり、皮肉で返すことだけは忘れなかった。


「物量戦・総力戦を支えた有坂と戦場で結果を残した英雄将軍の影響力が日増しに強まっている陸軍の現状から考えると、まぁ、永田さんが立場を失っているのは仕方がないことでしょうね……」


 そう言い、東條は永田を置いて次の仕事の場へ向かった。

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