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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2584年(1924年)

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対峙する者

皇紀2584年(1924年)8月3日 帝都東京


「東條、いや、東條大佐殿」


 講義を終え講堂を出た東條英機大佐を呼び止めたのは永田鉄山中佐である。


 バーデン・バーデンの密約以来、疎遠となっていた東條と永田は陸軍大学校教官として轡を並べることとなり10ヶ月が経とうとしている。この間、東條は大佐に昇進し、23年に中佐に昇進したばかりの永田とは立場が逆転していた。東條が陸大教官、参謀本部と陸軍中央に属している間、永田はスイスから帰国後、教育総監課を経て陸大教官となったのである。


 史実であれば永田の帰国から若手将校グループ双葉会が発足し、それが勢力を拡大し木曜会との事実上の合併に伴う一夕会……そして永田と小畑敏四郎の決別によって皇道派と統制派、更に独自路線を行く満州派と陸軍主要派閥が出来上がる時期だが皮肉なことにこの世界ではそういう動きは起きていない。


 いや、正確に言えば、皇道派に相当する勢力は史実よりも早く成立してしまっているが……。そんな状況で永田はバーデン・バーデンの密約で東條と決別して以来、独自派閥の構築を狙っていたが、史実と異なり彼の派閥工作は実質失敗していた。


「永田さん……」


 東條は正直なところを言えば永田との関係が微妙であることからどう接するべきか悩み、彼と距離を置き避けていた。


 幸運なことに東條は多忙な日々であり、意図的に避けていなくても永田との接点は実際に少なかったのだ。東條は参謀本部、陸大、技術本部、有坂家、有坂重工業、陸軍との取引のある企業と帝都を駆けずり回る毎日であったからだ。


「まぁ、そう固くなるな……貴様の方が今は上官だ。部下への示しがつかなくなる、相応の対応で構わん」


 永田はそう言いながらもやはり自分の方が1期上であると言外に先輩を立てろと要求している。


 面倒くさいとは思いながらも東條は顔に出さぬ様に努力しつつ答えた。


「では……永田中佐、どの様な御用件で?」


「うむ、俺が陸軍中央に戻ってきてから貴様の行動を見てきたが……去年の地震以来、内務省とのつながりや相沢の一件など暗躍している……そして、技本を通して有坂重工業と癒着しているともな」


「人聞きの悪いことを言わないでいただきたい……内務省は震災対策の兼ね合いから人脈が出来ただけであります。有坂に関しても同様で、癒着などと……そもそも有坂と懇意であるのは陸軍中央や技本の要請によるもの……シベリア出兵が勝利に終わったのも有坂の貢献によるものであるのは永田中佐も御存知でありましょう?」


 東條と有坂のつながりは実際にはかなりズブズブの癒着同然ではあるのだが、陸軍中央や技本、各工廠などは有坂との太いパイプを持つ東條を窓口に厄介事を持ち込んでいることから陸軍で問題視している人物はそれほど多くはない。だが、一部の青年将校からは三大財閥に迫る勢いの政商と認識され敵視されているのも事実であった。


 そして、永田もまた有坂重工業を敵視している者の一員であり、同時にそれを佐官や尉官連中に煽っている側の人間であったのだ。


「先日、帳簿を見たのだが、有坂へのカネの流れには不可解な部分が多い。勿論、有坂から陸軍へのカネの流れもまたな……。しかも、あの機関短銃……あれはドイツで少数生産されているモノによく似ているが、なぜ、そんな新兵器を新興の成金如きがポンポンと量産出来る? しかも、制式採用もされていないにも関わらず、受注生産ではなく、有坂の献納同然に納めているのだ?」


 流石は永田鉄山である。他の誰もが疑問に思わずに喜んで受け取って前線に送り込んだ新兵器に目を付けてきた。


 カラクリを知っている東條は流石にこればかりは説明が難しかった。そもそも、自分が有坂に近づいたのも早すぎる新兵器(オーパーツ)へ疑問を抱き、現物を見て記憶持ち(転生者)と確信したからだ。


「有坂は明らかに怪しい。そもそも、先日視察したが、あの広い工場と多様な工作機械の数は一体何なのだ? 財閥傘下企業でもあのような尋常ではない工場はそうないぞ!」


 東條も本当のことは言えないだけに返答に窮する。


「それだけではない、貴様が荒木、真崎両将軍は危険だから擁立するなと言ったことを忘れてはおらんであろう? 今や両将軍は英雄扱いではないか! 小畑も彼らに取り入って彼らの派閥に属している……こんなはずでは……東條……貴様には人を見る目がないのではないのか?」

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