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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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え?付いてくる気だったの?

皇紀2583年(1923年)12月13日 帝都東京


 東條英機中佐は石原莞爾起用という奇策を提案、同時に満州における準備工作まで把握しているとちらつかせてきた。


 この事態に有坂総一郎は流石に動揺を隠せなかった。


 総一郎の満州における準備工作……撫順炭田での軽油増産、遼河油田試掘……これを把握されているとは思っていなかったのだ。満鉄を巻き込んでの帝国本土インフラ整備というカモフラージュによって表面化していないと考えていたからだ。


――まさか、出光佐三氏から漏れたか?


 総一郎は出光の可能性を考えた……だが、出光商会の経営規模は地方企業に過ぎない。そして、彼の主要な顧客は満鉄や内地の鉄道会社、そして民間であり、陸軍との接触は殆どなかった。


「何を驚いているのだ? 満州で石油が出ないか、前世でも試掘はしている。結果はあるであろうというものだったが、結局開発されず仕舞いだった……当然、貴様もそれくらい知っておるだろう? そして、それを基に何らかの行動に出る……そう考えただけだ……実際に満州に行っておるしな」


 東條はさして面白いことでもないという感じで答えを出してきた。


「流石はカミソリ東條……怖い怖い」


 平賀譲造船少将は真面目腐った表情でお道化る様に言う。


――恐ろしいものだ……彼の記憶とそれに基づくメモは侮れない……。迂闊なことは出来ないな。


 総一郎が慎重に動こうと心に決めた瞬間であった。


「旦那様、外遊なさるのは結構なのですけれど……私、お産の時期が近いのですから少なくとも年を越してからになさってくださいな……」


 それまで総一郎の酌をしつつ鍋を突いていた結奈は釘をさすように総一郎の外遊の延期を要求したのであった。


「先日も突然大連まで連れていかれたのですから、今回は自重なさってくださいまし」


 どうやら結奈は関東大震災を挟んだ時期に大連へ連れていかれたことが不満であったらしい。なんだかんだで付いて来てくれてはいたもののその時の不満は解消されてはいなかったようだ。


 総一郎は島安次郎や出光と満州事変・満州国建国を睨んだ準備工作を文化祭前のノリで好き勝手やっていたことで、彼女は大連に置いてけぼりだったのだ。


「あ……いや、う……うむ……」


 帝国議会で気に入らない野郎(鳩山と犬養)相手に喧嘩腰で演説をした総一郎であっても自身の妻の正論には弱かった。弱すぎたのである。


 これには居並ぶオッサン二人も居心地が悪い。


――謀議の場じゃなくなったこの空気を何とかしろよ。


――細君の機嫌を取れよ、酒とすき焼きが不味くなるだろ。


 二人のオッサンはそれぞれに勝手なことを視線で総一郎に送ってくるのであった。


「あぁ、わかった……3月以降に検討するようにするから頼むからその突き刺さる視線はやめてくれないか? なぁ、結奈?」


「3月ですか……ええ、それなら認めないでもないですわね……で、その時は連れて行って下さるのかしら?」


 その時、男たち三人の心は一致した。


――え? 付いてくる気だったの? マジで?


 三人の視線を受けた結奈は自身の発言で何を思われているのか分かった様であった。


「旦那様を野放しにしたら、それこそ好き勝手するだけして、自分の隠蔽工作は完璧! 任せとけ! なんて思って帰って来るに決まっていますもの……」


――あぁ、確かに……。こいつ、割と抜けてるからな……。


 東條は内心で頷いたのであった。

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