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ISHIWARA

皇紀2583年(1923年)12月13日 帝都東京


平賀譲造船少将を交えた有坂邸密談……陸海軍の垣根を越える秘密会合は次第に真剣さを増していく。


 平賀は造船において電気溶接の重要性と技術進展を望み、同時に用兵の都合に基く重装備を廃しようと考えている点を中心に自身の経験からの問題点を述べ、東條英機中佐、有坂総一郎に理解を求めた。


 陸軍においても電気溶接技術の進歩は大きく影響を与えるだけに総一郎は東條を通じて陸軍技術本部の原乙未生中尉へ働きかけを要請するのであった。


「有坂よ……先の改造ブルで原中尉は随分気を良くして、シャーシの開発に勤しんでいるようだが……電気溶接そのものよりも発動機に頭を抱えておるそうだ……これを何とかしてやらんと、いくら電気溶接で軽量化と量産性を確保しても話にならんと思うぞ?」


 東條は自身のメモから関係しそうな部分を探し出し、総一郎に問題点を指摘したのであった。


 以前の改造ブルドーザの一件から原と公私とも頻繁に交流し陸軍の近代化の主軸は機動戦力だと原に一種の洗脳をしていた。特に極寒の満州で満足に機能する発動機と駆動系を開発することを要求していたのである。


 原はこれによく応え、不凍液の開発や凍結防止の工夫、防塵フィルターなど彼の部下や出入りの業者を交えて研究開発していたのだ。


「発動機は……ディーゼルが望ましいでしょうか? それともガソリン?」


「出来れば大出力の小型ディーゼルが望ましいであろうな……ガソリンだと……ノモンハンのBT戦車の様に火炎瓶ごときで発火するからな……それに……ガソリンは貴重だ……出来れば航空機に回してやりたい」


 東條は自身の経験と記憶からディーゼル発動機を望んだ。史実通りのそれである。彼の方針は正しいと言える。この世界と言えど、燃料事情から考えればガソリンを主燃料とするのは適切とは言えないからだ。


「東條さん、その判断は適当だと思います……我が帝国の燃料事情から考えてガソリンよりもディーゼルを優先すべきでしょう……。そして、共通規格の発動機を作り、それを用途別に出力を変えて戦車などの機甲戦力用、トラックやトラクターなどの民生用に何種類か適当な馬力で揃えることを提案します」


「統制型発動機か?」


 それまで黙って鍋を突いていた平賀が核心を突く一言を放った。


「確かに、統制型発動機は必要だな……だが、アレの開発は……」


 東條は苦虫を嚙み潰したような表情になる。


「ええ、昭和14年から16年頃の話ですね……」


「独ボッシュ社との契約が取れなければ……いや、ドイツとの協調の結果のライセンス契約であるから……現状では難しいのではないか?」


 東條は問題点を正確に把握し、それがゆえに統制型発動機に対して悲観的だった。前提条件が整っていないからだ。


「確かに日独関係とナチス党の動きがカギを握ります……が、それとは別に動けば……」


「あのドイツだぞ? 我が帝国が人造石油製造技術を寄越せと要求しても応じなかった……ともに戦うべき時に……」


 東條はドイツへの不信感を多少なりとも持っている様子が見て取れる。だが、同時にドイツの高い技術力がゆえに彼らを頼みにしているところも垣間見える。


「いずれにせよ、我が国の企業が発動機を製造する上で、ドイツの技術は有用であり、それを欲している事実は変わらんわけだ……」


 平賀はこともなげに帝国の最も痛いところを突いた。


「英米の技術も必要ですが、ドイツの技術と製品もまた重要……いずれ、私も渡欧してこのあたりの契約を取ってこなければならないでしょう……その時にドイツ側との仲介役が必要となりますが……」


「有坂君、現状で米国とのつながりを持つべきではないか? クーリッジ大統領の米国であれば親日的であるからな……これがルーズベルトに代わったらいくら実利を取る米国企業であっても制限がかかるであろうからな……」


 平賀は時機を読みドイツよりもアメリカが先だと言った。


「確かに……今であれば震災の同情で親日的であることから交渉も容易かもしれませんね……」


「それと……私も計画主任を離れて渡米するようにと命じられるだろうから……史実では既に欧州へ渡っている頃だからな……むしろ遅いとすら思えるが……いずれそうなるだろう……であれば、その時に君が同行すれば紹介、仲介出来るだろう……どうだろうか?」


 平賀は自身の置かれている状況から想定される未来を利用するようにと申し出てきた。


「ふむ……であれば、年明けか2月くらいになるだろうな……うむ……ドイツであれば……石原がいるな……奴を頼ると良い……此度の戦にはアレを用いるべきだろう……」


 東條は石原と口にした。これに総一郎は目を見開き聞き返した。


「石原……石原莞爾ですか?」


「あぁ、奴は今時分はドイツ駐在の武官だ。何れあれの才能が必要になる……満州事変もいずれ起こす必要があるからな……どこかの誰かは満州でコソコソとなにやらやっておるそうであるからなぁ?」

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