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異常事態

 金属が擦れ合う硬質な音が響く。発生源は鎧で身を包んでいる一人の騎士。丁寧に兜まで被りっぱなしのため、それが誰なのか判別しきれない。


「ルーくんお疲れ様。勇者くん達の相手はどうだったかな?」


 そんな全身鎧に声を掛ける少女が一人。バタフライマスクで顔の上半分を隠し、御伽話に出てくるような魔女の三角帽とゆったりしたローブで全容がほとんどわからない。声を出さなければ女と判断するのも難しい。


「マーリン。お前、わかってて言ってるだろ?」

「まぁね」


 悪戯っ娘のようにぺろっと舌を見せる魔女っ娘。彼女こそ、レミエル率いる精鋭部隊“ラクテウス・オルビス”が一人、マーリン・シエロ・グラース。ちなみに、騎士の方はルドラだ。


「でも、一応感想を聞かせてほしいなぁって思ったんだよ」

「前と変わらん。弱い。それだけだ」

「そんなに?」

「そもそも、俺達は《覚醒者》の称号を持ってるんだ。レベル50にすら到達してない奴らが相手になるわけないだろ」


 そう。今ここにいるルドラとマーリン、そして、今はいないがステロペスも《覚醒者》の称号を持っている。十年間の鍛錬や魔物討伐による経験値によって、今のルドラ達のレベルは空恐ろしい数字になっているのだ。


「ま、レミエルはもっと怖いけどな」

「レーちゃんだけじゃないよ。グラズヘイムの天使格は全員《超越者》だからね」

「中でも最高位の七大天使は一番ヤバいな」

「レーちゃんとかレーちゃんとかレーちゃんとか?」

「イヤ他にもいるだろ。六人も」


 ガンガン関係ない方向へ話が進んでいく。ルドラはそれを制し、マーリンへと向き直る。


「で、何か用なんだろ?」

「あ、そうそう。レーちゃんが例の部屋に来てって」

「了解だ。で、ステロペスはいるのか?」

「スーくんは今頃カトレアじゃないかな? レーちゃんにフルール皇国内で調査するように言い渡されてたし」

「あのアマが知りたがってた“ラクテウス・オルビス”のことか?」

「多分ね。ていうかアマって……」


 王宮内にもかかわらず一国の王女を“あのアマ”扱いする騎士。というかルドラ。嫌悪感があるにしても、とってもグレーゾーンなことを言うルドラに慌てて辺りを見回すマーリン。知られれば完全に不敬罪。聞かれていないか心配するのは当然だろう。


「調べるまでもないのにね」

「俺達はな」


 それもそうだろう。なんせ、その調べようとしている“ラクテウス・オルビス”がカケル達のことだということはとっくにわかっているのだから。それでもレミエルがステロペスに調査するよう言ったのは、単純に体裁を取り繕っているだけだ。


「とにかく、レーちゃん待ってるから」

「あぁ。行くか」




 ルドラとマーリンが王宮の地下に存在する王族とレミエル達四人しか知らないとある部屋に到着する。扉を開くと、まず目に留まるのは奥で浮かんでいる暗く輝く巨大な夜色の宝玉だろう。その前にはレミエルがいる。顔は隠しておらず、夕姫と全く同じ顔立ちがルドラとマーリンを見ていた。


「勇者の相手お疲れ様。ルドラ」

「疲れねぇよ。あんな奴らじゃ」

「そう」


 目を伏せて一言だけ返すレミエル。そのまま背後の宝玉へと振り向く。宝玉の周囲には魔法陣が展開され、そこから魔力がどんどんと宝玉に吸収されている。


「一週間、保たなかったわね」

「ごめんねレーちゃん。私の力不足で」

「どうせ魔力吸収は再開してた。ただそれがちょっと早まっただけよ」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「いずれにしたって、アタシ達じゃ止められない。このコア(・・)もカケル様が持ってる《バレットオブカタストロフィ》じゃないと破壊できないと思う」


 どれだけ魔力を込めて魔法を放っても、レミエルはこのコア(・・)に傷一つつけられなかった。それどころか余計に魔力を与える結果になってしまったため、破壊を諦めたのだ。他の天使(配下)達はそれぞれに役割があり、ここに来ることもできず、王国の見張りもあったことから情報を流すことさえできなかった。


「アタシ達の意思に反して計画・・は順調。既に手が出せないところまで進んでしまったわ。後は、魔人族の領土を奪って資源を確保するだけ」

「ほぼほぼ終わりじゃねぇかよ」

「そうよ。ルドラが勇者潰しに成功してれば、計画・・もおじゃんだったのに」

「仕方ないだろ。あんな奴を潰すとか、難易度高くて困るわ」


 やれやれと肩を竦めながらかぶりを振るルドラ。勇者草薙誠一。レミエル達が召喚された勇者達の中で最もバカだと思っている男だ。正義感が強く、思い込みが激しい。それがレミエル達から見た誠一である。


 王国の危機だと悲壮感を(演技で)漂わせたプリムの言葉を鵜呑みにし、あろうことかクラスメイトまで巻き込んだのだ。厄介なのは、クラス全員(カケル達除)の心を動かす程のカリスマを持ち、プリムの言葉を疑う気がないこと。そして、ステータスが異常に伸び始めたことだ。


「あの勇者バカは、マジで愚王女に惚れ込みやがった。どんだけコテンパンにしてやっても、いいとこ見せようとむしろ燃え上がってくんだよ」

「あの男だけ隷属化が解除できなかったのって……」

「愚王女を根っから信じてるからだな。多分だけど、“解呪ポーション”すら飲んでないぞ。アレは」

「私、頑張って作ったんだけどなぁ……」


 ルドラの言葉に、くすんとワザとらしく声を上げて泣くマーリン。レミエルとルドラからジトッとした視線が注がれていることには、多分気付いているだろう。


 元々王国側は、圧倒的な実力差故に召喚された勇者達の模擬戦の相手はルドラ達には任せず、適当に選んだ王国騎士団の誰かと相手をしてもらって、徐々に慣れさせるつもりだったのだ。だが、そこにレミエルが待ったをかけて、無理矢理ルドラを模擬戦の相手にさせた。理由は勇者達の戦意を挫くため。


 勇者として召喚されたのにもかかわらず、たった一人相手に何十人でかかっても倒せないどころか、攻撃する前にやられてしまう。そんなことを毎日のように続けられれば、自分達は戦いに向いてないと戦意を無くす。事実、何人かは戦いを拒否し始めていた。


 そんなところに、隷属化されている事実とそれを解除するための“解呪ポーション”が秘密裏に配られた。ほとんどの勇者は事実を知り、自分達が何をさせられようとしているのかを理解し、王国に対して恨みを持つ者すら現れた。ただ一人、勇者たる誠一のみが全く信じず、むしろプリムに確認しようとした。自分達の目的を知られるわけにもいかないため、全力で阻止したが。


「まあそれに関してはもうどうでもいいわ。アレはもうどうにもならない」

「その通りだ。諦めよう」

「えぇ。何よりそうせざるを得なくなったわ」

「何でだ?」

「ウリエルから召集が掛かってね。もうこの王国とおさらばしないといけなくなったのよ」

「カケル兄達が“グラズヘイム”に戻ってきたのか?」

「違うわ」


 喜色満面の表情で目を輝かせるルドラの言葉をふるふると首を横に振って否定するレミエル。ガクッとなってしまったルドラは責められまい。


「当分は戻ってこないだろうって」

「じゃ、何で召集なんか」

「ガブリエルの消息が途絶えたのよ」

「な……」

「そんな……」


 今までガブリエルが何の音沙汰もなしに何処かへ消えるということはなかった。受けた依頼が長引きそうな時は必ず“グラズヘイム”に連絡があったのだが、今回に限ってそれがない。


「他の天使達が探しに行った結果、ガブリエルがいるだろうと思われるダンジョンを見つけたそうよ」

「そこに行くのか?」

「そうよ。そのダンジョンの難易度は“グラズヘイム”の比じゃない。突破するのが難しい以上、数を揃えて行くしかない」

「面子は?」

「ウリエルは“グラズヘイム”から離れられない。ミカエルも立場的に長期間ギルドマスターの席を空けるわけにはいかない。このことから、二人を除いた全天使が行くことになったわ」

「俺達は?」

「アンタ達は他の奴らと強さの桁が違うから当然参加よ。ステロペスも既に“グラズヘイム”で待機してる」


 そこで宝玉の方を向いていたレミエルが、体ごとルドラ達に向き直った。


「一時凌ぎだけど、このコア(・・)に最大級の封印を施してすぐに“グラズヘイム”へ帰還する。王国はもう捨て置くわ」

計画・・はどうするの?」

「止めようがないなら何をしようとムダよ。何より、ガブリエルより王国を優先するなんてありえない」

「そうだね……」

「話がまとまったみたいだね」


 突然、これまで聞かなかった声が室内に響く。三人がそちらを向けば、一人の天使がいた。


 女性にしては男子平均並みくらいはある長身で、凛々しく顔が引き締まった精悍な顔立ちの少女だった。少女ではあるものの、パッと見は美少年という感じだ。胸部の膨らみがなければ、ほとんどの人間が男と思ってしまいそうだ。


「お迎えご苦労様。ラグエル」


 レミエルが今しがた現れた麗人に労いの言葉を掛ける。


 ラグエル。彼女は、先程ルドラ達が話していた“グラズヘイム”にいる天使格の中でも最高位である七天使の一人だ。


「私の役目だからね」

「早速だけど転移魔法の準備をしてもらっていいかしら?」

「少し時間が掛かる。その間に宝玉の封印を済ませるといい」

「わかったわ」


 ラグエルが転移魔法陣を展開し、魔力を注ぎ始める。その間にレミエルは、ストレージから六本の杖を取り出す。その六本を魔力で操作し、宝玉を囲うように地面に刺さる。


 六本の杖から魔力が迸り、その中心部から魔法陣が浮かび上がる。魔法陣から強烈な光が放たれ、その輝きが部屋を満たす。


「“トゥース・ジュレ・シャトー”!」


 レミエルがそう唱えると、宝玉が一瞬で凍結する。加えて、宝玉の周囲に展開していた魔法陣も活動が停止し、魔力吸収が止まる。レミエル達がコア(・・)と呼んだそれは、完全に氷で閉ざされた。


「カケル様に貰った大切な杖を無駄にする魔法だけど、背に腹は代えられない」

「相変わらずとんでもない封印魔法だね」

「そこまで高尚なものじゃないわ。あの魔法杖を六本も使わないとできないし、何より、よく保って三週間が精々だもの。場合によってはもっと短くなるし」

「それでも凄いことだよ。さ、転移の準備は整った」


 ラグエルの言葉に頷き、レミエルは既に魔法陣の上で待機しているルドラとマーリンの近くへ行く。


「行こうか」

「えぇ。お願い」


 魔法陣が輝き、それが消えた時には、もうレミエル達の姿はなかった。

大分カオスな展開になってきちゃいましたね(^-^;


反省も後悔もしてませんが(`・ω・´)

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