セトの依頼
思い付いたことを矛盾が発生しない範囲で物語に放り込める。
見切り発車の利点(?)だと思います。
フルール皇国のとある森の上を高速で移動する二つの影。
一つは白い翼を羽ばたかせる十代半ばの少女。もう一つは箒に乗って飛行している見た目的には十歳前後の少女。というか、夢佳とアリスだ。
『速すぎますよ! 魔力がガンガン減っちゃってますから少し速度を落としてください!』
『……もちろん断る』
『何ですか、その斬新な断り方! そこは“だが断る”じゃないんですか!?』
『……その言葉の使い方、原作的には間違いだから』
『だからこそのパロディだと思います!』
『……ただの日常会話だし、パロディとか気にしなくてもいいんじゃ』
風がビュービュー煩くて生声は全く聞こえず、念話で会話をする二人。念話スキルを使っているのはアリスの方で、レベルは8。そのレベルだと半径三メートル以内でないと使えないため、高速飛行する夢佳に全力で付いて行っているアリス。
夢佳はゲームで翼人種《アーラ・ヒューマン》を選んでおり、飛行能力が付随されていた。対してアリスは飛行能力が全くない普通のヒューマン。
どうやって飛んでいるかというと、タネは箒だ。
フライトブルームという魔法装備で、付与されている魔法は重力魔法による重力操作。念話のスキルを使って操作し空を飛び回ることができる。ただし、飛んでいる間は魔力を消費し続け、魔力の消費量を増やせば加速する。織音が作った攻撃力ほぼ皆無のネタ装備だ。
織音もカケル程ではないが生産系のスキルを取得しているため、遊び程度で装備を作ることが多い。ラファエルやミカエルが装備していた頭上の光輪もちょっと天使っぽくなるという理由だけで作られた織音作のネタ装備である。こちらも防御力はほぼ皆無。
ただし、この箒は織音に直接頼んで作ってもらったものではない。入手方法はカケル達の造ったダンジョン型拠点“グラズヘイム”だ。
ダンジョン内に数多置かれている宝箱から入手できるものの一つである。夢佳とアリスの二人は、ゲーム内で最も“グラズヘイム”を攻略したプレイヤーであり、二人が持っている装備のほとんどは“グラズヘイム”で手に入れたものだ。故に、カケル達からはかなり危険視されていた。
閑話休題。
二人は今、皇都カトレアに向かって一直線に進んでいる。理由は二つ。
『カケルさん達は本当にカトレアにいるんでしょうか?』
『……わからない。けど信じるしかない』
『あの兎さんが嘘を吐いているかもしれませんよ?』
『……わざわざ依頼してまで?』
『嘘の情報を餌にする。低くとも可能性はゼロじゃないですよ?』
『……そんなこと言い出したらキリがない。私達が得られる情報なんてたかが知れてる。ならもう現地民の言葉を信じるしかない』
『むぅ……』
アリスは難しい顔をしながら、今までのことを思い出す。
王都脱出後、ティスターナまでは徒歩移動をしていた二人。しかし、ティスターナの先に“時蝕の森”が見えた時、踏破するのに時間が掛かりそうだと思った二人は森の上を飛んで移動したのだ。そして、森を(飛んで)抜けた先、地上には城壁が築かれており、そこには大きな都市があった。
それを国境だと推測した二人は、このまま飛んで城壁を越えるのもマズいだろうと判断し、国境街カンビオに手続きをして入った。その際、入場料のあまりの高さに驚いたのは言うまでもない。勿論、カケル達同様ゲームで得たお金もこの世界に引き継いでいたので問題はなかったが。
カンビオに入った二人は、手近な宿を見つけて一泊した。ここまで全く寝ていなかった二人はぐっすりと眠って体力と気力と魔力を充実させ、情報を得るためにカンビオの街へ繰り出した。
とりあえず、多くの情報が集まっていそうな冒険者ギルドを探し出し、足を運んだ二人はカケル達が体験したようなギルドテンプレには遭遇せず、しかし、カケル達と関わりのある受付嬢セトのいるカウンターへ。
「冒険者ギルドカンビオ支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ある人達を探していて、その人達の情報を求めてここに来ました」
「人探しの依頼ということですか?」
「いえ、何かしら知っていることがあればそれを教えてもらいたいだけなんです」
「?」
白いウサ耳ごと首を傾げるセト。アリスの言うことを図りかねているのだろう。それを感じ取ったアリスはさっさと本題に入ってしまおうと口を開く。
「ここに貴女と同じような白い髪と赤い瞳を持った男の人が来ませんでしたか?」
「白い髪と赤い瞳……」
「はい」
「その方と貴女はどう言ったご関係で?」
さっきまでの人当たりが良さそうな表情から一転。目を細め、拒絶するような冷酷な表情になる。この時、既にセトはカケル達のことを知っており、カケル達の情報を知ろうとしている目の前の夢佳とアリスをメルラークの回し者だと勘違いしたセトは、二人を警戒対象にしてしまったのだ。
「えっと……何と言えばいいのでしょうか……その……」
「……アリス。変わる」
「夢佳さん?」
何で言い淀むのか。それだと余計に警戒されるだけだと考えた夢佳はアリスを脇に押し退ける。途端、アリスは少し不機嫌になるが、夢佳に何を言ってもムダだろうとこれまでの経験で感じたため、自分は黙ることにしたのだった。
「……名前は諸星カケル。後、白川夕姫と天草織音っていう女の子二人と、彦部ダイキっていう男の子がいる。私達は、その四人と同じ境遇にある者」
「少し、場所を変えましょうか」
そう言ってセトはカウンターから出てきて、夢佳とアリスを別室へと案内する。
応接室に案内された二人はセトと向かい合うようにソファーへと腰掛け、出された紅茶を静かに飲む。三人が喉を潤し、カップを机に置いた後、セトが未だに警戒心が抜けていない表情のまま口を開く。
「まず、お聞きします。貴女方はどのような目的で、そのカケルなる人物を探しているのですか?」
「……同郷の人として単に会いたいだけ」
「同郷?」
「……私達はこの世界の人間じゃない」
「ちょっ、夢佳さん! 何言っちゃってるんですか!?」
あっさりと素性をバラした夢佳に対して動揺しながらツッコむアリス。対して夢佳は「何か問題でも?」と言いたげな表情でコテンと首を傾げる。
「……遅かれ早かれその内バレる。意図的に早めただけ」
「それは……」
「……アリス。情報を得るにはこちらも何かしらの情報を開示する必要がある。対価なしで得られるものなんてない。違う?」
「そうかもしれませんが……タイミングというものが……」
「……気にする必要ない。それよりも早く諸星くん達に合流してメルラークの計画を伝えないと」
押し問答をしたところで既に喋ってしまっている以上、何を言っても手遅れだ。そのこともあり、アリスはもう何も言うまいと口を挟まないと決めた。
「夢佳さんと言いましたか? そのメルラークの計画とは何ですか?」
「……ん。気になるなら話す。どうせ噂としてばら撒くつもりだったから」
そして、夢佳はレミエルから聞いた王国の計画を事細かに話し出す。ついでに自分達とカケル達の詳しい関係と、これまでの経緯も。
「そんなことを考えていたのですか、あの屑共は……」
「……屑共って」
「なんか、口調変わってませんかセトさん?」
突然丁寧な口調の中に混じった汚い言葉に引き気味の夢佳とアリス。それを察したセトはワザとらしい咳払いをし、話を続ける。
「しかし、その計画が事実である証拠はどこにもありませんから、全て信じるということはできません。それに、そのレミエルという人物も気になります。王族の本当の目的を隠すための嘘という可能性が……」
「……ん。確かに可能性はゼロじゃない。けど、限りなくゼロに近いと思う」
「その根拠は?」
「……レミエルは、夕姫と全く同じ顔立ちだった。とても無関係とは思えない」
「っ……」
加えて、レミエルは夢佳達が召喚されたその時、その場にはいなかった。にもかかわらず、カケル達の存在を知っていて、なお協力的だったことも話す。
「……私はレミエルを信じる」
その一言には強い意志が籠っていた。それに気圧されたセトは参ったとばかりに両手を上げる。
「わかりました。もう何も言いません。全て信じるというわけにはいきませんが、事実確認ができない以上、この話を続けても無意味でしょうから、ひとまず終わりにしましょう」
「……ん。そうしてもらえると助かる」
「では、もう一つ。貴女方が異界の人間であることの裏付けがありません。証拠はありますか?」
「……ステータス見ればわかると思う。見る?」
「はぁ……結構です。とりあえず、信じることにします」
「……何故?」
「貴女の言葉には裏を感じなかったので、一応は信じることにしました」
「……そう」
それに、もし間違えていたのなら、単に自分の見る目がなかったというだけのことですから。そう言ってセトは警戒を解く。
「さて、夢佳さん。そして、アリスさん」
「「……」」
「言ってしまうと、私はカケル様のことを知っています。もっと言えば、どこにいるかも知っています」
「……どこ?」
「それを教える前に、冒険者登録と、私の依頼を一つ受けてもらいたいのです」
一も二もなく夢佳が頷き、冒険者登録をすることに。
カケル達の時と同じように、セト自身が夢佳とアリスのスキップ申請の相手をし、戦闘の結果からSランクでの登録となった夢佳達。元いた応接室に戻ってきて、セトの依頼内容を確認することに。
「闘技大会への出場ですか?」
「はい。三日後に皇都カトレアで闘技大会が開催されます。お二人にはそれに参加してもらい、できれば優勝していただきたいのです」
「なぜですか?」
「その大会の主催者は私の姉であるフェレイラ姉様なのですが、今回の闘技大会で用意された優勝者へ与える装備に不具合があったそうなのです。フェレイラ姉様は大商家の長のため、これが周囲に露見してしまうと築き上げてきた信用が一気に崩れ落ちてしまいます。ですから、お二人にはその武器の回収をしてほしいのです」
「……わかった」
「え、ちょ……」
らしからぬ狼狽を見せるアリス。そのアリスに対して夢佳は諭すように言葉を発する。
「……アリス。諸星くん達の情報と引き換えに依頼を受けることは決まったことだから、断れないよ」
「ですが、まだ情報はもらっていませんし、引き返せる段階だと思いますよ?」
「……それだけじゃない」
「と言いますと?」
「……個人的に興味がある。闘技大会に」
その言葉には強い意志が籠っていた。ともすれば、レミエルを信用できると言った時の数倍は。かくして、闘技大会への参加と優勝を狙うという依頼を受けると同時に、カケル達の居場所を聞き出した夢佳とアリスであった。
思い返せば、依頼を拒否することはできたのだろうが、完全に後の祭りである。そのことにため息を吐きながらも、アリスは夢佳に離されまいと魔力を込めて加速しながらカトレアへと向かう。
『……ねぇアリス。あれ』
『はい? 何ですか?』
『……あそこにある浮遊島。“グラズヘイム”に似てない?』
『え?』
夢佳の指差す先、カトレアと思しき都市の西側に浮かぶ複数の島。それはかつて、二人が攻略に乗り出した“グラズヘイム”によく似ていた。
『確かにそっくりですけど、あれってHGOの中で造られたカケルさん達の拠点ですよね? 仮に本物だとしても何でこんなところにあるんですか?』
『……さあ』
『さあって……』
『……わからないものはわからない。セトの依頼が終わったら調べてみる?』
『そうしてみましょうか。気になりますし』
『……わたし、気になります。ってことだね』
『そこまで好奇心旺盛に見えますか?』
『…………』
『念話で無言はツラいです! できれば何か返事をしてください!』
『…………』
『ちょっと待ってください! 聞こえてますよね!? 独り言ならぬ一人念話なんて寂しいことにはなってないですよね!? ねえったら!!』
二人とカケル達との再会の時は近い。
夢佳&アリスsideでした。
しばらく出してませんでしたからね。闘技大会を思い付いた時、その大会で再会させるつもりだったのですが、突然二人を出すのもあれかなと思ったので、参加するに至る流れを作ってみました。




