武具コンペ
オチだけ考えて全体的な内容は全く考えてなかった……
楽しみにしてくださっていた皆さん。一ヶ月も待たせてしまってすみませんでした。
最初の方の日常は、思い付いたからここで書きました。反省も後悔もしてません。
フェレイラと確かな信頼関係を築いた翌日。朝早く起きたカケルは、昇る朝日を見るために宿屋の屋根の上に立っていた。頭上には薄っすらと白みがかった空が、眼下にはカトレアの都市が広がっている。そして、視線の先に浮かぶ島。
「珍しく朝早いじゃない」
ぼけーっと目に映る風景を眺めているカケルに声が掛かる。そちらに目を向ければラフな服装の夕姫。朝から眼福にあずかったカケルは綺麗な合掌をする。
「何で合掌してんのよ……」
「朝一で夕姫の私服姿を拝めたことに対して」
「バカでしょ?」
「バカで結構」
呆れたように嘆息する夕姫。やがて、合掌を止めたカケルは風景に目を戻す。アンニュイに佇むカケルに倣って夕姫も同じ方向を眺める。
「良い朝日が見れるといいな」
「そうね。ただ……」
夕姫は一呼吸おいて左手でカケルが今まで見ていた方とは逆側を指差して一言。
「東はあっちよ」
ガゼットルシアの朝日も元の世界と同じです。東から昇ってきます。
「わかってるよ。むしろわからねぇ方がおかしいだろ。“グラズヘイム”が浮かんでるのは西側なんだから」
「どうだか。カケルのことだから“グラズヘイム”が浮かんでる方角をド忘れしてそうだし」
「人をバカみたいに言うのは止めてくれ」
「さっき自分で『バカで結構』とか言ってなかったかしら?」
「……」
日の出を見届けたカケルと夕姫。二人が宿の食堂へ足を運べば、既に織音とダイキが待っていた。
カケル達が活動拠点としている宿は相当な金持ちでないと泊まれないくらいに高い宿である。一泊でこの世界の一般家庭が一ヶ月は余裕で生活できる程高い。そんな高級宿に泊まる冒険者なんてカケル達以外にいないだろう。まあこの宿を拠点にしているのはまた別の理由もあるが。
食堂内を見渡す。カケル達以外の人間は皆無なその状況に満足気な顔で頷き、ダイキの隣へと腰を下ろすカケル。四人揃ったところで女の子がとてとてと近寄ってくる。
「皆さんおはようございます!」
明るく元気な声で挨拶をしてくるはこの宿屋の看板娘である猫人族のショコラ。天真爛漫が服を着ているような娘だ。初めてこの宿屋に訪れた時、猫耳に猫尻尾の素で無邪気に振る舞うショコラに心を撃ち抜かれた織音がここ以外は認めないと頑なになってしまったせいで、この宿に泊まることが決定してしまった。尤も、料金が高いこともあってか、ほとんど宿泊客のいないこの宿は四人にとってかなり居心地のいい場所となっている。
「おはようショコラちゃん! 今日もかわいーよ!!」
挨拶と共に思いっきりショコラに抱き付く、直前に夕姫から羽交い絞めにされた織音。この宿屋に宿泊することが決まった夜に一度だけ織音がショコラを抱きしめたのだが、ステータスが違い過ぎるがために「ぎゅぷっ」という絶対に人の口から出てはいけないような声を聞き、ハグによる圧死なんていう事件が起こってしまうことを恐れた三人は織音のストッパーになることを固く誓った。
ショコラも初日に昇天しかけたこともあって、織音が飛び出した瞬間からガクブルしている。完全にトラウマになっているだろうことは想像に難くない。
「ショコラちゃん。おはようさん」
「お、おはようございます。ダイキさん……」
「おはようショコラ」
「お、おはようです。カケルさん……」
「えっと、内の織音がすまん……」
「い、いえ。生きてるので大丈夫です……」
ショコラにとって織音のハグはもはや生死にかかわるレベルの問題らしい。ごらんよ。ショコラが縮こまって尻尾を足の間に巻き込んじゃってる。猫が尻尾を足の間に挟んだり体にピッタリと巻きつけたりしている時は、恐怖心を感じている時みたいですよ。
「ほら! ショコラが怖がってるから大人しくしなさい駄エルフ! 注文ができないでしょうが!!」
これが今のカケル達が送っている日常である。
朝食を残さず食べきり、宿を出るカケル達。カケルが街の地図を見ながら先行している。目的地は武具コンペの会場だ。
「やっぱ活気あんなぁ」
「まあ国の首都だし、活気ない方が問題ありよ」
「だなぁ」
大通りは交通量や歩行者の多さから、馬車道と歩道にわかれている。馬車道は文字通り馬車が走るための道だ。決して初めてガス灯が設置された場所というわけではない。道路は馬車四台が余裕を持って並走できる程広い。ただし、走行できるのは道の中央から二台分の広さまで。端っこは馬が疲れた時等に使うためのスペースになっている。
歩道は勿論、歩行者のための道。ただ、元の世界と違ってガードレールのような仕切りがないため、ちょっと怖い。まあカケル達には全く関係ないが。何だったら突っ込んできた馬を馬車ごと吹き飛ばすくらいはするだろう。
一国の首都だけあって人が多い。加えて、近々大きなイベントが控えており、人の数は膨れ上がっているのだ。歩道を歩く人間もかなりいる中、カケルは地図を見ながら歩を進めている。
「カケル。地図ばっか見て人にぶつかんなよ?」
「誰に向かって言ってんだよ」
若干不機嫌そうに言うカケル。常日頃から感覚を失わないために《生命感知》と《魔力感知》の両方を都市内外問わず使い続けている。そんなカケルが人にぶつかるということはほぼないだろう。
ゲームではレベルに応じた効果しか得られなかったが、この世界にきて生身でスキルを使うようになってからカケルの感知能力はそんじょそこらの妨害スキルなぞものともしなくなった。何だったら探索範囲も倍は広げられる。
まあそんなわけで、カケルは数メートル先にいる人間の動きを感知してその後の歩行ルートを予測し、歩く位置をちょいちょい変えながら避けている。横合いから突然出てくる歩行者もしっかりと躱していき、それで地図も持って先行までしているのだから大したものだ。
三人がカケルの人外っぷりを何とはなしの日常から実感して二十分後。一行は武具コンペの開催される会場へと到着した。
目の前には真っ白な石造りの建造物。外観的には博物館のような感じを受ける。目測十メートルの高さがある結構大きな建物であった。入り口と思しき場所は入っていく人や逆に出てくる人、受付待ちの行列や受付をしている人でごった返していた。それを見るだけで中々盛況なイベントであろうことは容易に想像できる。
「これ、入場待ちでどれくらい時間掛かるのかしら?」
「並んでみないと何とも言えないよ」
「とにかく並ぶぞ」
「だなぁ。ここで立ち尽くしてもしゃあねぇし」
そして、並ぶこと一時間。ようやくと武具コンペの受付まで辿り着いた。入場料を支払い、半透明な水色と紫色のカードが渡される。このカードが武具コンペの投票券だ。水色の方が武器専用、紫色の方が防具専用の投票券となっている。これをいいと思った武器と防具にそれぞれ挿入することで投票できる。
武器と防具にわけられているのは、武器なら武器、防具なら防具と、それぞれに特化した鍛冶屋も参加しているからだ。勿論、一流の職人ならカテゴリーに関係なく一級品を作れなければ実力ある者として認められない。しかし、このコンペは篩に掛けられた結果とはいえ、ほぼ素人の職人も存在する。それも考慮した上での措置なのだろう。
甘めの採点と言わざるを得ないが、だからこそ、普通ならスポットが当たらないような者にもほんの少しのチャンスがある。そういう意味でもこのイベントが注目されているのだ。
「ホント武具だらけだな」
「そうね。剣だけじゃなくて、槍や斧、鎚もあれば、マニアックなところで鎌とかもあるわね」
「盾もあるよ?」
「何でもありかぁ。さっすが武具コンペだぜ」
観覧客の間を縫うようにすり抜け、入り口から程近い一つの展示台に近付く。台座には一振りの剣が置かれていた。銀色に輝く刀身のロングソード。武器の前にプレートがあり、そこにはシルバーソードと書いてある。
「普通の剣ね」
「見た目はな。性能面で見れば、中々使える一振りだ」
「へぇ」
「最終段階まで強化してある。一般級ではあるが、性能的には超希少級に匹敵するレベルだ」
篩に掛けられた上で展示されているだけあって、性能面は中々のようだった。周りにも見た目は普通でも、性能が飛び抜けていいような武器がたくさん並んでいる。
「もしや、英雄様か?」
武具の性能に感心しつつ展示を見て回っていると、唐突に声を掛けられる四人。いや、カケル。声の方を向くと、筋肉質な大男がカケル達を見下ろしていた。
「誰だよ?」
「反応したってことは英雄様なんだな!?」
「称号だけは一応な……」
反応しなければよかったと完全に後悔したカケル。英雄として活動する気はないが、英雄の称号持ちという自覚はあるため、つい反応してしまったようだ。
「なら、俺んとこで作った武器に投票してくんねぇか?」
「は?」
「頼む!」
手を合わせて懇願してくる大男。
なぜ、こんな懇願をするのかと言えば、単純にネームバリュー欲しさだ。《皇国の英雄》が選んだ武具。それだけでかなりの知名度になるのは間違いない。必然、
「英雄様だと!?」
「英雄様がいるのか!?」
「英雄様! ぜひ、我が鍛冶屋で作った鎧に投票を!」
「いや! 私の鍛冶屋で作った鎧の方が優秀です!!」
こうなってしまう。あっという間に囲まれてしまったカケル。他の三人は危機を察してとっくの昔に避難している。
カケルの周りには筋骨隆々の鍛冶師が集まっており、その周囲に他の鍛冶師が段々と集ってきているという状況だ。
「待てお前ら! 俺には俺なりに考えて投票する権利が!」
そんなカケルの叫びも鍛冶師達の物量の前には意味をなさない。そして、最終的には逃げるという選択肢を選ぶのだ。
「逃げたぞ!」
「追えー!」
「ギブミー投票!」
「投票券を寄越せー!」
言ってることが滅茶苦茶である。会場内を縦横無尽に逃げ回るカケルだったが、それが逆に他の鍛冶師を惹き付けてしまい、結果次々に鬼ごっこへ参戦してくるという悪循環だ。
《空歩》《神速》《身体強化》とスキルまで使って会場内を逃げ回るカケル。何の罪もない職人達を病院送りにすることなどできようはずもなく、逃亡一択しか選べないのがツラい。
「しつけぇな! つか持ち場から離れていいのかよ!」
「お構いなく! 貴女様の投票券さえ戴ければ戻りますから!」
「自分で決めるっつってんだろうが!」
「では無理矢理でも奪って投票させるのみ!!」
「本末転倒過ぎるだろうが!」
この鬼ごっこは会場の閉館時間まで続き、結局カケルは全く武具コンペを楽しめないのだった。ちなみに、他の三人はカケルが鬼ごっこをしている間、ちゃっかり展示品を見て回っていた。こっちは十分に楽しんだようだ。
今日の騒動はすぐに運営組織へ伝わり、カケル以下(鬼ごっこの)鬼達は厳重注意を受けたのだった。
カケルは誓った。二度と武具コンペなんぞ見に行くかと。
この後は、閑話を一つか二つ書いて闘技大会です。




