出歯るエルフな織音ちゃん
遅くなってしまってすみませんでした。言い訳はしません。
こんなですが、これからも読んで頂けると嬉しく思います。
「うへへへへへへ」
一人の少女が双眼鏡を覗きながら変態的な笑い声をあげていた。長く尖った耳があり、エルフであることがわかる。長く艶やかな黒髪は照り付ける太陽を反射して綺麗な天使の輪が浮かんでいる。
双眼鏡を下ろすと澄んだブラウンの瞳が印象的な目が露になる。女優顔負けの超美少女・織音だった。
「あぁ可愛い~」
双眼鏡を目元に当てながら恍惚とした表情をする今の織音は変態そのものだ。美少女であることを考慮しても人をドン引きさせること間違いなし。尤も、織音の周囲には誰もいない。いてたまるかという状況である。
何といっても今の織音は皇都カトレアの遥か上空にいるのだ。そして、双眼鏡のレンズを向ける先にはカケルと夕姫の二人が手を繋いで街を歩いている。繋いだ手とカケルの横顔を繰り返し見て顔を紅くする夕姫。初々しさ全開である。
「ぶはぁっ……」
そんな夕姫を見て鮮血を吹き出す織音。勿論鼻から。
「かわえぇのう、かわえぇのう。初デートで恥ずかしがりながらもカケルくんに付いて行っちょる夕姫ちゃん。可愛かよぉ」
色んな方言やら言葉遣いがごちゃ混ぜになったワケのわからないことを言う織音。
この状況を説明するには朝まで時間を遡らないといけないだろう。
「は? 夕姫とデート?」
朝食を食べ終え食後の一杯と洒落込んでいたカケル達。今日の予定を決める際、織音がカケルと夕姫のデートを提案した結果、カケルからこのような反応が返ってきた。
「そそ。カケルくんと夕姫ちゃんで、今日一日デートしたらどうかなって思ってね」
「何でまたいきなりそうなるのよ」
「だって、カケルくんも夕姫ちゃんも、結ばれてからというものデートの一つもしてないでしょ?」
「まあ、確かにそうだけど……」
「夜の営みはしっかりしてるみたいだけど」
「ぶふっ」
織音のド直球に飲んでいた紅茶を吹き出してしまう夕姫。対してカケルは平然と紅茶を飲み続けている。
「お前、動揺とかしねぇのな」
「したら織音に弄られるだけだからな」
「違いねぇ」
カケルとダイキが目を遣れば、顔を真っ赤にしながら言葉になってない言葉を織音にぶつける夕姫と底意地の悪い笑みを浮かべてそれを右から左へと受け流していく織音がいる。
「ま、夕姫ちゃん達の夜に関しては置いといて」
「持ち出したのアンタよね!?」
「デートするのはいいと思います。せっかく皇都に来たんだしさ」
ツッコミをスルーして問答無用に話を進める織音と歯を食いしばって睨みつける夕姫。今にも「うぎぎ」とか言いそうだ。一応言うと、言っていない。勿論、防御力も下がっていない。
「まあ俺はいいけど夕姫はどうだ?」
「別にいいわよ。デートらしいデートってしてこなかったし」
「決まりだな。んじゃ行くか」
「準備くらいさせてくれない? というか、カケルも着替えなさいよ」
紅茶を飲み終わったカケルが立ち上がり、そこに待ったをかける夕姫。身嗜みくらいはしっかりしたいし、して欲しいという夕姫の言によって宿前で待ち合わせることにした二人。一度部屋に戻るカケル達。それを見送る織音とダイキ。
「で、ダイキくんは何するの?」
「ギルドに顔出してくるわ。昨日はミカエルとゆっくり話せなかったし、ガブのことも訊きてぇからな」
「あれ? カケルくん達の功績に対する協議をするんじゃなかったっけ?」
「あぁ、言ってたなぁ」
失念してたという表情で遠い目をするダイキ。その目は正確にギルドのある方角を見ていた。偶然か否かはわからない。それに構わずカップを煽り、残りの紅茶を飲み干した織音がスッと立ち上がる。
「まあどうするにしても、私とダイキくんは別行動だね」
「何すんだよ?」
「カトレアの散策」
そう言った織音の首には紐で吊るされた双眼鏡があり目はらんらんと輝いている。さっきの会話を加味すれば、何をする気かなぞ脳筋なダイキであってもわかるレベルだ。
「出歯亀すんのは勝手だけどよ。バレたらやばいんじゃねぇの?」
「出歯亀? 何のこと?」
「あくまで白切んのかよ。いやいいけどよ」
「じゃ、夜にまたこの宿でねぇ」
そう言って鼻歌交じりにスキップして宿を出ていく織音。終始黙ってそれを見届けたダイキは緑茶を一気に飲み干し、湯呑みをゴトンとテーブルへ置く。
「夜にねぇ」
立ち上がってカケル達が戻った部屋があるだろう天井を見上げる。
「会えんのか?」
そんな呟きを残して宿から出ていくダイキ。
「出てきた出てきた」
カトレアの遥か上空に重力魔法の応用で浮かんだ織音。双眼鏡で宿の入り口を見続け、カケルと夕姫が出てくるのを待っていたようだ。夕姫の手を握ってそのまま引っ張るカケル。中央広場の方角へ向けて歩いていく。
中央広場は文字通り都市の中心にある最も大きな広場である。公的な用事で使われる時以外は基本的に市が開かれ、食料・日用品だけに止まらず、装飾品等多くの露店で賑わっている。
「追跡開始」
ただ双眼鏡と顔を動かすだけだ。
「うへへへへへへ」
片側の口角が持ち上がり、そこからおかしな笑いを洩らす織音。こういうわけで冒頭に戻るのである。
予想通りにカケルと夕姫は市場に到着。と同時に二人は注目される。片や白髪赤目の英雄、片や目が覚める程の美少女。このペアで目立たない方がおかしい。
「でも、いつも通りの視線と同時に、夕姫ちゃんにとって初めての種類の視線が浴びせられてるねぇ」
それは嫉妬の視線。フルール皇国は実力主義。どの分野においても実力がものを言う国であり、皇国において実力の象徴とも言うべき白髪赤目を持った者は当然憧れられる。
そんなカケルの傍に侍る夕姫に向けられる視線は厳しいものだ。夕姫の実力を知っていれば嫉妬の眼差しなんて普通送れるものではないが、現状はこうである。
初めて向けられる今までとは全く違う視線を受けて居心地悪そうに身じろぎする。そんな夕姫に顔を寄せ何事かを喋るカケル。顔を離した後には、頬を赤らめて年相応に可愛らしい笑顔を浮かべる夕姫がいた。
「どんな囁きだったのか興味があるなぁ。しかもあんな近くにカケルくんの顔が寄ってくるとか羨ましい」
ポ◯キーを齧りながらそう独り言ちる織音。え、ちょっと待って。何でポ◯キーがここにあるの?
「制服のポケットに突っ込んでたやつだよ。今朝ストレージ確認した時にたまたま見つけたから食べることにしたの」
そうですか。
その後、カトレアの観光名所を次々と回っていくカケルと夕姫。そして、それを出歯り続ける織音。
いつの間にか地面に映る影が伸びていた。夕刻までたっぷりとデートを楽しんだ二人は、最後に甘いものを食べるつもりか煮梨の屋台へと近付く。
カケルが二人分買うことにしたのか夕姫から離れて一人で屋台へと歩いていき、屋台の主に注文をしている様子を観察する織音。ふと、夕姫の方に双眼鏡を向ける。
「ひっ」
双眼鏡の視界に収まった夕姫はしっかりと織音を見ていた。とても眩しい満面の笑みで。
悪魔(織音にとっては)の微笑みを浮かべながら口をパクパクと動かす夕姫。その口パクによって紡がれた言葉を正確に理解した織音はみるみる顔を蒼褪めさせる。
『 あ と で お し お き 』
きっちりお仕置きされました。
カケルと夕姫のデートも終わり、とっぷりと日が暮れた夜。
「なぁカケル」
「あ?」
「織音の色数足りなくねぇか?」
「表現だろ」
「はぁ。大丈夫か織音?」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
出歯亀がバレて夕姫にお仕置きされた織音。真っ白に燃え尽きている様はまさしく灰人である。話しかけても全く反応は返ってこない。こうなるに至ったおおよその経緯はカケルもダイキも理解しているため、放置を決め込むことにしたようだ。
「出歯亀とか趣味悪すぎなのよ」
「まあそろそろ許してやれよ。織音があんな提案をしてくれなかったら、デートとかしなかっただろ?」
「そうだけどさ……」
拗ねたように口を尖らせる夕姫も可愛いと思うカケルは落ちるところまで落ちているだろう。苦笑しながら歩み寄り、優しく頭に手を乗せゆっくりと撫でる。猫のように目を細めて気持ち良さそうにする夕姫。犬人であることを気にしてはいけない。
しばらく経って織音も復活し、四人は宿の部屋で向かい合う。
「で、織音はいいとしてダイキは何やってたんだ?」
「ミカエルに会いにちょっとな」
「協議中じゃなかったか?」
「丁度休憩中だったみてぇで、すぐに話はできたわ」
「ガブリエルのこと訊いたのか?」
「あぁ。けど今は会えねぇってよ」
四人の配下の一人であるガブリエル。ミカエルと同じくこのカトレアで冒険者登録をし、四人の捜索の傍らで冒険者業を熟している。SSランクであることと周囲の信頼を得るために、誰も受けたがらない高難度の依頼を率先して受注していたようだ。
しかし、ミカエルがギルドマスターになり、席を長期間空けるということができなくなった今はガブリエルだけで依頼を処理していっているらしい。現在も一人で高難度の依頼を受けて辺境の地へ遠征しているそうだ。
「会えなくて残念だったね。ダイキくん」
「まぁ別にそれはいいんだけどよ」
仕方ないとばかりに肩を竦めるダイキ。だが、すぐに表情が変わる。楽しい遠足を翌日に控えた小学生のような笑みに。
「んで、ガブのことを訊いた後に面白そうなことをミカエルが教えてくれたんだよ」
「面白いことって?」
「明後日から武具コンペが開催されるらしいぜ」
「ふぅん」
フルール皇国では年に一度の武具競技会が開催される。武器部門と防具部門にわけられており、それぞれの装備品を一定期間展示。観覧者による投票によって順位付けがされるイベントだ。
優勝できればまず間違いなく一年間注文が途絶えることはないだろう。それ程までに鍛冶職への影響が大きい大会である。そのため、素人玄人問わず参加希望者が後を絶たない。余りの人気で五年前から予選という篩ができたくらいだ。
観覧する側は入場料さえ払えば自由に展示品を見ることができる。入場と同時に投票券が渡され、これはいいと思ったものに投票できる。
「中々興味深いイベントじゃない。行ってみましょうよ」
「私も興味あるな~」
「あぁ、俺もだぜ」
「じゃあ行ってみるか? 武具コンペ」
カケルの問いに揃って頷く三人。カトレアはまさにイベントの宝庫。これからしばらく、四人はカトレアへ滞在することにした。
「まあまず明日はギルド行って、その後来てくれって言ってたフェレイラのところに行かないとだな」
「「「あ、忘れてた……」」」
「お前ら大概薄情よな」
とにもかくにも、明日明後日の予定は決まったようだ。
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