王都の翌日
お待たせしてすみませんでした。
M◯Fに復帰したら中々楽しくて投稿率激減してしまった……
次回からはなるだけ早く投稿できるようにしようと思います。
サブタイトル……思い浮かばなかったです、はい。
夢佳とアリスが王都を抜け出した翌日。
王宮内はてんやわんやだった。まあ夢佳とアリスが抜け出したからだが。
騒然とした王宮内において比較的静かな一室。プリムの私室に、その部屋の主と魔術師然としたローブを身に纏う少女、そして、一人の騎士がいた。
「ロウバスト。あの二人に尾行は付けられたのかしら?」
「はっ。現在、我が騎士団の中でも隠密行動を最も得意とする者が尾行しております」
「そう。それで、今はどの辺りに?」
「ティスターナまであと二半時程の位置だそうです」
「そうですか。やはりティスターナ方面だったのですね」
「はい」
「では、引き続き気付かれないように尾行を続けなさい」
「はっ」
王女プリムの言葉に、騎士の鑑だと言わんばかりの対応で返答するロウバスト。そんな二人の会話を横から聞いている魔術師風の少女、レミエル。平然を装っているが内心は大分荒れている。
(南門側は止めなさいって言ったでしょうが!!)
こんな感じで。
二人の脱走は普通にわかった。朝、二人の専属メイドが朝食が準備できたことを伝えに行くと、部屋がもぬけの殻だったからだ。そうでなくとも、王女達は昨晩、ロウバストの報告で二人が逃げようとしていることを知っていた。ティスターナ方面に行っただろうということを予想できたのは、あの二人がケルベルスを倒してしまったからだ。
昨晩、夢佳達が脱走を考えていると聞いたその時には、奴隷術でテイムしているケルベルスを最も脱出する可能性の高い南門側の出口前に移動させていたのだ。本来であれば、ケルベルスはそれぞれの門側に続く通路のある広場にいたのだが、王女が南門側の方に行くよう指示した。
その指示に使った魔力を感じ取り、ほぼ正確にその内容を看破したレミエルは、南門側の出口を守るのと同時に、そこから出た場合に夢佳達の目的地がバレると考えた。だからこそ、南門側以外のところから出るようにヒントを与えたのだが、徒労に終わった。
結局夢佳達はケルベルスを倒してしまい。奴隷術による生命リンクが切れたことで、プリム達に南門側の出口から出て行ったことが知られてしまったのだ。
「それではロウバスト。また何かわかったら報告して下さい」
「承知いたしました」
そしてロウバストが部屋から出て行った。
「あの二人にも困ったものです」
「そうですね」
「まあ、八咫様とミロワール様の事はロウバストの部下に任せましょう」
プリムがそこで一区切り入れるように紅茶を一口飲む。カップをソーサーに乗せ、音一つ立てずにテーブルへとそれを置く。
「それよりも。レミエル」
「はい」
「フルール皇国の件についての調査は進んでいますか?」
「申し訳ありません。ステロペスに調査させているのですが、何分他国領内のため、進捗は思わしくありません」
「そうですか」
プリムは仕方ないというように肩を竦め薄く微笑む。人によっては魅力的に見える笑顔ではある。
「しかし、不思議な話ですね。レミエル達。我が国の精鋭部隊と全く同じ名前の冒険者パーティですか」
「はい。私も聞いた時はとても驚きました」
「民に恐れられていた大規模盗賊団〝紅の餓狼”を殲滅、ですか」
「それだけでなく、皇国領の端に近いような村で起こったスタンピードを一時間としない内に鎮めたとか」
スタンピードとは、わかりやすく言えば、魔物達がパニックを起こして人里へ予期せぬ進軍をしてくることである。
スタンピードをこれまでの記録にはないような短時間で鎮める。プリムはそんな本来有り得ないようなことを成し遂げたその冒険者パーティをできれば、自分の戦力にしたいと思い調査しているのだ。レミエルの報告から結果は芳しくないようだが。
そこに加え、さらにプリムが気になっているのが、自国にいる中で最も強いと言われている精鋭四人の部隊名とその冒険者パーティの名乗っているパーティ名が一致していることだ。是が非でもプリムはその正体を突き止めたいと考えている。
「俄かには信じ難いことですが、証人も沢山いますからね」
「その実績はまず間違いないと思います。後気になると言えばリーダー格の男が使っていた武器でしょうか?」
「えぇ。今までに見たことのない武器だとか」
「確か、弓すら届かないような距離から、雷鳴のような轟音を立て、人の指程の大きさの鉄塊を飛ばす武器でしたよね?」
「そうです。それがもし本当であれば、大変貴重な戦力上昇になります」
当然である。この世界の遠距離攻撃方法は弓矢、もしくは遠距離攻撃が可能な魔法だけである。必中させるにはどちらもかなりの熟練が必要になる。魔法なら遠距離まで届く広範囲攻撃があるのでは? そう思うだろうが、この世界の広範囲攻撃魔法はかなり高いレベルにならないと使えないのだ。それこそ最上位まで昇華していなければいけない。使える者が数える程しかいなく、それも使えるだけで使いこなせるわけじゃない。
プリム達の知るその武器が噂通りの武器だとしたら、火力という面でそこまで高いレベルを必要としない。曰く、“攻撃の際、剣のように振るう事も、魔法のように詠唱時間もなく、爪のように尖っている部分を引いただけで、魔法よりも早く攻撃が行える。そして、威力は絶大”ということだ。これが本当であれば、一国の戦力を大幅に上昇させる。
爪のようなものを引くだけ攻撃ができる。それは、可能性の域を出ないが、誰でも使えるということになる。戦争事情を一変させるには十分過ぎるものだ。この武器の存在が真であり、量産方法も確立されれば、弱い兵でも高い攻撃力を得られる。そうなれば、生存率・勝率共に大幅に上がるのだ。喉から手が出るという表現が大袈裟にならないくらいには魅力的な武器。
プリム達の言うような武器は、この世界で一度たりとも聞いたことのなかった攻撃方法、武器形状であった。だが、それを知っている者はいる。この話を異界の勇者達にして意見を聞けば間違いなくこの答えに辿り着くだろう。
その武器は“銃”という名の兵器である、と。
尤も、プリムがそんな貴重な話を異界から呼び出し戦力として使い潰そうとしか考えていない勇者達にするわけがない。
「こうしてはいられませんね。早急に調べ尽し、こちらに引き込まなければ」
プリムの思考は簡単だ。その冒険者パーティを“フルール皇国”の味方にされる前に自分の陣営に加えたい。それだけである。そのためにも、精鋭部隊の一人であるステロペスというとても貴重な戦力を調査に出しているのだ。
「ステロペスには全てを調べ尽しなさいと伝えて下さい」
「畏まりました」
「よろしくお願いしますね」
「はい。精鋭部隊たる我ら“ラクテウス・オルビス”にお任せ下さい」
「期待してますよ。“ラクテウス・オルビス”のリーダー。“レミエル・レウコン・リヴィエール”」
そして、レミエルはプリムの私室から退出する。
扉を閉めると、
「よう。猫被りも大変だな」
脇からそう声を掛けられる。レミエルはその声を聞いて嬉しそうにしつつも「何でここに?」という疑問顔で声のした方を見る。
甲冑騎士がいた。御伽に出てくる騎士のような甲冑を身に纏っており、ロウバストよりも遥かに強いという圧倒的な力量差を感じさせる雰囲気を持っていた。
「そう思うんだったら変わってくれない?」
「無理だ。俺にそんな演技力はないからな」
「バカだものね」
「失礼な女だな」
「事実でしょ」
「事実違う」
レミエルが歩き出すと、甲冑騎士もその隣に並んで歩き出す。
「何か話でもあるのルドラ?」
ルドラ・ムルタ・アステール。メルラーク王国精鋭部隊ラクテウス・オルビスの一人だ。その実力は国内に知れ渡っており、「不敗の騎士」と呼ばれている。事実、異界の勇者達すら相手にならないステータスと技術を持っている双剣士だ。
「いやさ。スーがいないからつまんないんだよな」
「名前くらいしっかり言ってあげたら?」
「ステロペス・ヴォレ・アビタシオン」
「誰もフルネームを言えとは言ってないわ」
ステロペス・ヴォレ・アビタシオン。ラクテウス・オルビスの一人で、隠密行動・情報収集・索敵等の調査系統の仕事に従事する男だ。当然だが、実力だってそこいらの騎士程度に負けはしない。この王国初の魔法と刀術の両方を使う。その技術たるや王国最強騎士ルドラをして勝ち切れないと言わしめる程だ。
「ま、冗談はさておき」
「冗談だったの?」
「つまらないのは嘘じゃない。勇者達と剣を交えたんだけどな。俺が強過ぎるもんだからすぐに飽きた」
「そんなに弱いの?」
「基本的に近接戦闘が苦手なマーリンですら、その苦手な近接戦闘で負かせる程だ」
「弱過ぎじゃない? それホントに勇者って言えるの?」
「使い潰されて終わりだな。可哀想に」
マーリン・シエロ・グラース。同じくラクテウス・オルビスの一人。稀代の錬金術師として知られている。魔術師としても中々有能で、極稀にだが、勇者組の魔術師に魔法を教示していた。魔術師としての実力はレミエルに遠く及ばないが。
そして、レミエル・レウコン・リヴィエール。ラクテウス・オルビスのリーダーにして、この世界で敵う者のいないと言われる程の魔術師である。事実、魔法戦闘を得意とする種族であるジン・ヒューマンの万を超える魔戦部隊を一人で一掃したこともあるガゼットルシア屈指の魔術師だ。
ラクテウス・オルビスのメンバーであるこの四人は貴族階級を持っている。王国最強と言われているのにそれが平民では格好が付かないと、プリムがバンス国王に無理を通して貴族階級を与えたのだ。尤も、この四人は貴族階級に興味はない。というかむしろ、邪魔だと思っているが。
「で、そんなどうでもいい話をしに来たわけ?」
「いや違うな。マーリンから言伝を頼まれてな」
「マーリンの言伝?」
「あぁ。“解呪ポーション”の数がようやく揃ったんだと」
「早かったわね」
「あの愚王族に従ってるフリをしてるレミエルよりは簡単な作業だって言ってたな」
「……まあいいわ。とにかく、“解呪ポーション”が出来上がったのなら召喚された勇者達に飲ませないとね」
「そうだな」
解呪ポーション。呪い等のバッドステータスを無くすポーションだ。隷属化も呪い扱いとなっており、このポーションで隷属化を解除することが可能だ。
「一応とはいえ、カケル様達の御学友よ。隷属化の解除くらいはしないとね」
「カケル兄は何て言うだろうな?」
「簡単よ。――どうでもいい」
「似てるな。カケル兄モノマネ大賞でグランプリとれるんじゃないか?」
「止めてくれる? 夕姫お姉ちゃんに折檻されちゃうから」
「…………」
「冗談よ」
「冗談に聞こえない冗談は止めてくれ」
「夕姫お姉ちゃんに対する誹謗中傷をメモメモっと」
「止めてくれぇ~~~~~っ!」
頭を抱えて悶えるルドラ。金属同士が擦れ合う高い音が煩い。ちなみに、レミエルは《適音効果》というスキルがあるため、どれだけ煩い音が鳴っても普通の音にしか聞こえない。
数十秒程悶えた後、何事もなかったかのようにレミエルの隣を歩くルドラ。
「もう一つの言伝だ」
「マーリンの?」
「違う。ラファエルだ」
「天然記念物の?」
「天然記念物ってお前……」
「間違ってはいないわ。あの子の天然さはレミエル的世界遺産に登録されてるからね」
「金髪の図書部員みたいなことは言わないでもらおうか。図星つかれたら「いやいやいや」とでも言うんじゃないのか?」
「いやいやいや」
そんなどうでもいいネタは置いておき。レミエルはルドラの話を聞く態勢になる。それを見取ったルドラは口を開いた。
「カケル兄達が見つかったらしい」
「意外と早かったわね。もうちょっと掛かると思ってたんだけど。カケル様達って行動が予測できないから」
「まあ一週間くらい前だけどな」
「報告遅くない?」
「仕方ねぇよ。カケル兄達が向かってるのはカトレア。迎える準備で忙しくて離れた場所にいる奴らへの報告は遅れてるんだからな」
「そっか。カトレアに向かってるんだ。早く会いたいなぁ。夕姫お姉ちゃんにもカケル様にも織音様にもダイキ様にも」
「だな。十年待ったからなぁ」
「その報告が一週間前のものなら、もうカトレアに到着してるんじゃない?」
「みたいだな。多分近い内に招集が掛かると思うぞ」
この二人だけではない。カケル達の発見報告は世界に散らばっている者達にとっての吉報だ。ほとんどの者が今日の仕事はまともにできないだろう。それだけ喜ばしい出来事なのだ。
「でさ、レミエル」
「何?」
「いいのかよ。カケル兄の武器について話しちまって」
「知ったところでどうしようもないでしょうし。もし手を出そうとするなら背後から刺すだけよ」
「怖いな。まさかあの王女も、普段命令に従ってるレミエルに背後から襲われるとは思っていないだろうな」
「あの女に従ってるだけで反吐が出る。カケル様達がグラズヘイムに到着したら私達はこの国を放棄するわ。もうこの国にいる必要性がないし」
「だな。荷物まとめとくか」
「そうね」
そのまま二人は自分達に宛がわれている部屋へと向かう。その足取りは軽快だった。
ありがとうございました。




