配下登場
レミエルのキャラ設定を見直したため、“王都脱出 前編”にあるレミエルのセリフを一部変更しました。
「ちょっと待ってほしいのですぅっ!」
その場から去っていこうとするカケル達を木陰から飛び出して呼び止める声。だが、それに全く反応しない。というか、反応する気がないカケル達。
「無視なのです!? 待ってほしいのですよカケル様!!」
「カケル呼んでるわよ?」
「気のせいだろ」
「気のせいで片付けないでほしいのです!!」
その後もカケルを引き留める声が何度も響き、面倒くさくなったカケルが億劫そうに声の主を見遣る。
水色の髪とサファイアブルーの瞳を持った天使がいた。可愛らしいという比喩ではなく、背中に羽、頭上にほんのりと光る輪っかがある本物の天使だ。カケル達にとっては見慣れた天使である。カケルは一つため息を洩らして怪訝そうな眼差しでその天使を見据える。
「何でお前がここにいる。そして、何で俺のことを理解している? 何より何故喋れる?」
「ようやくこっちを向いてくれたのですぅ……」
否応なく庇護欲をそそる泣き顔の天使。カケルはその天使にこれでもかという程呆れた様子で後頭部をぼりぼりと掻く。夕姫と織音はカケルに倣って天使に顔を向ける。
「とりあえず質問に答えろ」
「は、はいなのですぅ! ……………………どんな質問だったのです?」
「…………」
途端に表情が抜け落ちるカケル。無言でストレージからサブマシンガン(HGOで作ったやつ)を取り出し。セーフティを解除。そのままフルオートで連射連射連射。
「ほわぁあああああああああっ!?」
足元に向けて放たれる何十発もの弾丸を兎のようにぴょんぴょん飛び跳ねて避ける天使。羽で飛べよ。
弾切れによって十数秒の連射が終わる。黙ってサブマシンガンをストレージに収納し、へたり込んだ天使の目の前で仁王立ちする。威圧感たっぷりに天使を見下ろしてもう一度問い掛ける。
「お前がここにいる理由と、俺のことを認識している理由、喋れる上に自我がある理由を言え、ラファエル」
「は、はいなのです」
「さらっと質問追加したわね」
目の前にいる天使の名前はラファエル。カケル達にとっては忘れ難い存在だ。あくまでゲームの中ではという注釈付きだが。
ラファエルは、HGOにおいてカケル達がオーダーメイキングシステムを使って生み出したNPCだ。そのシステムはキャラクターメイクや装備品・アーツ等を作るだけではなく、他にも拠点を作ったり、NPCを作ったりとゲーム内の様々なものをメイキングできるシステムであった。極論、国すら作ることができる。
カケル達は拠点を作るのに合わせて、その拠点の守護者としてNPCを何人も生み出していた。NPCメイクには制限がなく、好きなだけ生み出せる。ただし、レベルは1でステータスもそれに見合ったもの。決められるものと言えば職業・種族・キャラ設定くらいで、基本的に育成はプレイヤーがしなくてはいけない。まあ廃人プレイをしていたカケル達は、NPCすら超人化させているのだが。
だが、前述したようにラファエルはNPCである。会話なんて成立するものじゃない。メイキングシステムをフルに活用しても単なる口パクと決められた言葉を喋ることしかできなかった。そんなラファエルが目の前に、しかも会話ができる状態でいるのだ。カケル達は混乱していた。
「ではまずここにいる理由からなのです。それはズバリ! カケル様の魔力を感じたからなのです!」
「俺の?」
「はい。実は私達、カケル様達を探していたのですよ。十年間」
「「「十年!?」」」
「なのです」
ラファエル曰く、十年前からカケル達が全く姿を現さなくなり、拠点の配下(NPCのこと)総出で世界各地を探し回っていたらしい。中には国の重要機関の職員や王家の人間にかなり近い立ち位置から調査をしていた者もいるようだ。
しかし、いくら探しても手掛かりの一つすら見つからない。配下全員がそろそろ諦めようかというところで、メルラーク王国の王族が勇者召喚をし、その中にカケル達の存在を確認したという報告が入った。
だが、カケル達はすぐさま城を追い出されてしまい、一からの捜索になってしまう。しばらく探しても中々見つからず、感知能力に優れた最高位の守護者の一人であるラファエルが拠点を出て、ようやくカケル達を探し出したということだ。
「カケル様が最大アーツ《バレットオブカタストロフィ》を使ってくれたので見つけることができたのです」
「そうか。ご苦労さん……」
ただ、ここまで話を聞いてカケル達が不思議に思ったことは何一つとして解決していない。そもそも何故カケル達の作ったNPCがこの世界にいるのか。何故自我があり会話が成立するのか。他にも色々と疑問は尽きない。
「それは無理もないのですよ。私達も全く訳がわからないのです」
「だろうなぁ」
「それから、ガゼットルシアの地理が私達の知ってるものと若干違うみたいなのです」
「みたいだな。おかげで楽しめてるよ」
「一応この世界の地図も作ってあるのですが、いるのです?」
「ぜひともほしい」
「そう言うと思ったのです!」
ラファエルは、それはもう、とても嬉しそうに満面の笑顔を浮かべる。その地図を作ったのはラファエルだ。偏にカケル達のことを想って、各国の詳細やら都市・村・町の位置、魔物の分布までも書き記してある。作った本人としては、使ってほしい相手に必要と言われて嬉しくてしょうがないだろう。それが崇拝している主人であればなおのこと。
それからは、互いの状況を教え合い、結構有意義な会話となった。カケル達の知らなかったこの世界の知識が色々と入ってきたことをありがたいと思うカケル。しばらく言葉を交わす四人。それも二十分程で落ち着き、ラファエルが「さて」という感じで会話を打ち切る。
「では、私はこれで失礼するのです」
「俺達を連れて行こうとかしないのか?」
「今の会話で主人の意向を読み取れない配下は屑以下だと思うのですよ。カケル様達は旅がしたがっているご様子なのです。だから、連れ戻そうとは思わないのですよ。見つけられただけで満足なのです」
本当に満足気な表情だ。顔立ちが整っているため、清々しそうに満面の笑みを浮かべるラファエルは、可愛らしい。
「なんか悪いな」
「問題ないのです。ですが、たまにでいいですので、グラズヘイムに来てほしいのです。きっと他の皆も喜ぶはずなのです」
「わかったよ。いつか四人で行こう」
「まあいつかと言わず、すぐに会うことになるとは思うのです」
「は? どういうことだ?」
「皇都まで行けばすぐにわかるのです」
「おいそれってどういう――」
「それでは、またお会いしましょうなのですぅ!」
背中の翼を思いっきり広げて羽ばたかせる。そのままラファエルは大空へと飛び立った。カケルの質問にほとんど答えることもなく。
「騒がしい娘だったね」
「そう設定したのは織音よ」
「そうだっけ?」
「あぁ。ラファエル作ったのは織音だな」
「完全に忘れてた……」
酷い話である。自分が作ったNPCのことを覚えていないとは、なんという創造主か。責任はちゃんと取らなきゃダメよチミ。ちなみに、育成したのはカケルだ。その時の愚痴は「織音のヤツ。育成放棄しやがって」である。
「とにかく、ラファエル達がいることに関してはグラズヘイムを見つけた時にまた考えるとして、とりあえずオリュゾンまで戻るか」
「そうね。さすがに疲れたわ」
「たった二人で強大な太古竜と戦ったわけだもんね。今日はゆっくり休んだ方がいいと思うよ」
そして、オリュゾンへと戻っていく三人。森の惨状は我関せずを貫くことだろう。
オリュゾンの村へ戻ると、オウガのスタンピードを鎮圧したということで村人達から感謝の言葉と共に迎え入れられた。トゥルディオスに関しては、村人達には言わず、ギルド職員にだけ報告した。これはフェレイラ含めたカケル達全員の総意による決定だ。余計な混乱はいらないのだよ。
感謝を込めたささやかな宴が催され、オリュゾン産最高級米がふんだんに使われた色々な料理が並ぶ。久しぶりの米料理に文字通り跳び上がって喜び、周りの目すら気にせずバクバクと食べまくる。
その食べっぷりとその後のカケル達による「米大好き」発言によって、お礼として米俵十俵がカケル達に贈られた。これでカケル達が米料理を恋しく思うことは当分ないだろう。表には出さないが、心の中では狂喜乱舞しているカケル達だった。
宴も終わり後片付けが始まる。カケル達も手伝おうとしたが、村人達から遠慮され引き下がる。あまりしつこく手伝うと言っても気にしなくていいの一点張りだろう。就寝の挨拶をして宴の場から離れていく。
農業ギルドに到着し、フェレイラに言われた通りに部屋へ行こうとすると織音が待ったをかけた。
「フェレイラさん。部屋割りってどんな感じ?」
「三部屋とってて、二人部屋二つと一人部屋一つ。基本的にフェイが一人で、男女でわかれてもらおうかなって思ってたんだけど」
「じゃあ、フェレイラさんは私と一緒の部屋にしよう?」
「うん。フェイはそれで問題ないよ?」
ニヨニヨと厭らしいニヤケ顔でカケルと夕姫を見る。そこで合点がいくカケルと夕姫。ダイキだけは何でこうなってるのかわかっていない。だってカケルと夕姫が進展したこと知らないもの。
結局、ダイキが一人部屋に押し込まれ、織音とフェレイラが二人部屋の片方に入っていったことで強制的にカケルと夕姫が二人部屋に入ることが確定してしまった。
やれやれという感じで肩を竦め、残りの一部屋に入っていく。そんなに広くはない部屋だが、風呂とトイレが付いているだけで十分過ぎる。どうせ今晩寝るだけの部屋だから狭さなんて気にする必要はない。
交代で風呂に入り就寝準備を整え、そのまま就寝。
「カケル」
とはいかない。年頃の、しかも想い合っている男女の夜となればすることは決まっているだろう。例え、太古竜との激戦で疲労していたのだとしてもだ。
そして、カケルは夕姫を抱き寄せる。
ありがとうございました。




