天雷の覇者
前回言い忘れてました。
ブックマーク100件突破ありがとうございます(*^▽^*)
拙い部分や至らない部分も多いとは思いますが、これからもよろしくお願いします(^^)
後頭部に柔らかく温かな感触を覚えながら薄っすらと目を開けるカケル。目に飛び込んできたのは、天使の微笑みだった。
「なるほど、俺は死んだのか……」
「何バカなこと言ってんのよ」
起き抜けのボケにツッコミを入れてくる澄んだ声。顔を横に向けると、視界に入る肌色。ボケはしたが意識がハッキリとはしていないカケル。その肌色に手を置き、軽く触ってみる。滑らかでしっとりとした触り心地だった。
「こら」
「いてっ」
側頭部に打撃が入る。そちらに目を向ければ軽く握られた右手。どうやら声の主に小突かれたようだと理解したカケル。
「女の子の太腿は乱りに触っちゃダメよ」
「なるへそ、夕姫様のおみ足でございまするか」
「言葉遣いが色んな意味でおかしいわよ?」
夕姫との遣り取りで少しずつ意識がハッキリしてくる。そしてようやく夕姫に膝枕をされていることに気付いた。まさに幸福の極致。好きな娘に膝枕をしてもらって嬉しくない人間は存在しないだろう。カケルもそれは例外じゃない。
「気絶してどのくらいだ?」
「二十分くらいね」
「そうか。何か悪いな。その間ずっと膝枕しててくれたんだろ?」
「まぁね。でも、治癒魔法で足の痺れくらいなら普通に癒せるから大したことないわ」
「そうなのか」
「うん。それに、カケルが意識を失ってる間、硬い地面にそのままってわけにもいかないでしょ。気にしなくてもいいわ」
「さんきゅ。んじゃあ、もうちょっとその厚意に甘えていいか?」
「ちょっとだけよ?」
「言葉がエロいな」
「くだらないこと言うんだったら強制終了するわよ?」
「すいません……」
瞼を下ろしてこれ以上くだらないことを言わないようにする。そうすると、他の感覚が冴えてくる。後頭部にある柔らかい太腿の感触やさっきまでとは違って穏やかになった風。静かな雰囲気が否が応でも眠気を誘ってくる中、額辺りにひんやりとした何かが触れる。ゆっくりと動かされるそれがカケルをそのまま夢の世界へと旅立たせた。
二度目の目覚めは柔らかな感触。瞼を開けると、不意に目の焦点が合う。そんなカケルの目に映ったのは頬を染めつつはにかみながら自分を見ている夕姫の顔だった。
「お目覚めかしら?」
「あぁ。おはよう夕姫」
「もう夕方だけど?」
「なに!?」
カケルは慌てて起き上がる。キョロキョロと辺りを見渡して夕方であることを確認すると、夕姫に顔を向け申し訳なさそうな表情になる。
「すまん。寝過ぎたみたいだな」
「それはもうぐっすりと」
「起こしてくれればよかったじゃないか」
「苦痛にはならなかったし、カケルの寝顔が見られたんだもの。それで十分」
「俺の寝顔見て何が面白いんだよ?」
少し考える素振りの後、ハッとして自分の顔をペタペタと触りだす。落書きでもされたのだと思ったようだ。それを正確に察する夕姫は呆れた顔である。
「別に何もしてないわ。言ったでしょ? カケルの寝顔を見てただけよ」
「それがそもそもおかしいだろ」
「あら。好きな人の普段は見られない可愛い寝顔を見て何かおかしいの?」
「っ……」
「顔赤いけど大丈夫?」
小悪魔じみた笑みでからかわれ、赤い顔のままそっぽを向く。男がそういう仕草をしても萌えることはあまりないだろう。背けた顔の方に夕姫は少しずつ移動をし、常にカケルの視界に入るようにする。表情は悪戯っ子のそれだ。
そんなわけのわからない攻防をする内に、動き疲れた夕姫はカケルの足を押さえるように跨る。カケルの顔を正面から見据え、もう逃げられないぞというようにゆっくりと顔を寄せる。
「お前、何か変じゃないか?」
「何も変じゃないけど?」
「いやでも、夕姫ってこんなことするようなヤツじゃなかった気が……」
「ただ自分の気持ちに素直になっただけよ」
「自分の気持ちって……」
「カケルが好きっていう気持ち」
そのままカケルに抱き着く。その行動に混乱するカケルだが、次いで聞こえたぐすっという鼻を鳴らす音で冷静になる。
「怖かった……」
ポツリと漏らされた声。
カケルが天雷竜から致命的な一撃を受け地に叩き付けられた時。その瞬間にはもうカケル以外が見えなくなっていた。敵から放たれる攻撃の雨や受けたダメージすら顧みずカケルの傍に行き、すぐに隠れた。
致命傷を受けたカケルはもう体を動かすことができない程だとわかり、自分の至らなさを責める夕姫。雷球を往なしていく中である程度の余裕は生まれていたのだ。そこで少しでもカケルの方を気にしていれば、カケルの背後に迫る天雷竜に気付けたはず。だが、無意識にカケルなら大丈夫と思い、結果カケルは深刻な傷を負った。
改めて思い知った。カケルも人間であることを。
いくら化け物じみた力を持っていても、カケルは人間だ。ちょっとしたことですぐに死んでしまう。元の世界にいた時とはまるで違う強い力を得られたことによる高揚で、そんな当たり前のことを忘れていた。
安全マージンを十分に取った麒麟戦とは違う。この場には自分とカケルしかおらず、怪我をすればすぐに治療してくれる織音がいない。《リバイバルバレット》があるとはいえ、それを使えるカケル自身が動けなければおしまいだ。怖くなった。このままカケルを失うことが。
失いたくないからと独りで天雷竜に立ち向かう。しかし、太刀打ちできずに殺されかけ、最後にはカケルに助けてもらった。死すら覚悟した中で救われ、守ると言われ、これまで出さないようにしてきたものが溢れ出した。
カケルに縋りついて嗚咽しながら話す夕姫。そんな夕姫の頭を撫でるカケル。
「心配かけたみたいだな」
「ううん。何もできなくてごめんね」
「俺の方こそ、油断したせいで余計な心配かけて悪かった」
「それはもういいって」
そして、頭を撫でていた手を降ろしていき、夕姫の腰辺りを抱き寄せる。それに応じるように夕姫は首筋に回している腕をよりきつくする。互いの存在を確かめ合うように強く抱き合う二人。
「これからはカケルのことを今までより見る」
「俺も夕姫を守れるように目を離さない」
「カケル……」
「夕姫……」
自然と顔が近付き、ほんの数センチで唇が触れ合う。まさにその時。
「戻ってくるのが遅いと思ったら、まさか二人でいちゃいちゃしてるなんて……」
「「織音ッ!?」」
織音登場。その背後には修羅の姿。織音ってス◯ンド持ってたっけ? 目が笑っていない笑顔はとても怖い。それが整った顔立ちの、しかも普段は怒ることのないような相手だったらなおさらだ。
織音に驚きつつも、なぜか離れないカケルと夕姫。そんな二人の姿に頬をピクつかせ額に青筋を浮かべる織音。この後、二人が織音にお仕置きされたのは言うまでもないだろう。
お仕置きが終わりカケルと夕姫から顛末を聞いた織音。二人を労い、二人の間にそれなりの進展があったことを喜び、笑顔でそれを祝う。
「ホントに良かったぁ。このまま中途半端な関係を二人共続けていくのかなぁって思ってたから」
「何か変な心配させちゃったみたいね」
「いいよいいよ。二人がくっついて幸せならそれで」
「ありがとう織音」
夕姫のお礼を受け笑みが深まる織音。ただ、すぐに難しい顔になり、夕姫を見据える。
「夕姫ちゃん」
「何?」
「その…二人の仲が進展したことは、私としても凄い嬉しいんだけど……」
何かとても言いにくそうにしている織音。少しの間があり、口を開く。
「夕姫ちゃんって、“生命の宝珠”持ってたよね?」
「あ……」
「何だそれ?」
生命の宝珠。それは誰でも一度だけ蘇生させることのできるアイテムで、夕姫が朱雀と戦った末に手に入れたチートアイテムだ。夕姫はその存在をすっかり忘れていたということである。
それを聞いたカケルは、さっきのセンチメンタルな雰囲気を返せと言わんばかりに夕姫をジト目で見る。
「だ、だってしょうがないじゃない! カケルがあんなことになって、気が動転して……あの時はホントにカケルがいなくなっちゃうって思ったんだもん……」
だんだん尻すぼみになっていく夕姫の言葉。最後にはかなり涙ぐんでいた。カケルは夕姫の頭に手を乗せて優しく撫でる。
「ありがとな。盲目するぐらい俺のことを想ってくれて」
「カケル……」
「夕姫……」
なぜかいきなり展開されるピンク色の空間。そして、顔を近付け―――
「お仕置きが足りなかったみたいだね」
本日二度目のお仕置き(二割増し)。
「でも、カケルくんが死に掛ける程の強さって、どんな感じなんだろう? 私も戦ってみたかったなぁ」
お仕置き直後に何でもなかったかのようにそう呟く織音。カケルも夕姫もギャグみたいな爆発アフロになっているが、大したダメージじゃないから気にしない。
「おすすめはしないけどな。けど、織音がいたら死に掛ける程の苦戦はしなかったかもしれないな」
「そうなの? ステータスってどうだった?」
ステータスの詳細を織音に教えるカケル。そのバカげた数値に呆れかえる織音。
「それだったら私も呼んでくれたらよかったのに」
「そうだな。開幕ブッパに気を取られて完全に失念していた」
「はぁ……」
カケルの至らなさに呆れため息をつく織音。カケルはカケルで後頭部をポリポリかきながら反省している。これからはダイキはともかく、織音は呼ぼうと。
「あ、ステータスで思い出した」
「なんだ?」
「カケル。ステータスに新しい称号があると思う」
「新しい称号?」
「そ。《天雷の覇者》っていうの」
メニューを開きステータスアイコンをタップ。称号の欄にはしっかりと《天雷の覇者》という称号とアーツに《ライトニングスフィア》が追加されていた。
《天雷の覇者》
取得条件:天雷竜トゥルディオスを倒した時に取得
効果:ステータス中上昇
習得:ランダム習得
説明:天雷竜トゥルディオスの討伐に成功した者のみに送られる称号。戦闘に参加していない者は同パーティであってもこの称号を取得することはできない。
「えぇっ。戦闘参加しないとダメなの!?」
「色んな意味ですまん。織音」
織音にとって称号というのは楽しみな要素の一つでもあった。称号は自分の経験や客観的な強さを計るにはちょうどいいもので、称号を得るためにネットを虱潰しに探しまくったなんて時期もありはしたのだ。それ程思い入れのある称号というものを得られる機会があったのにそれを逃してしまったのは悔しくて仕方ないだろう。
「次は参加させてね」
「できれば次なんてあってほしくないけどな」
やれやれという風に肩を竦めたカケル。心の底から次があってほしくないようだ。
織音の治療も終わり、辺りに散らばっていた天雷竜のドロップアイテムを拾って村へと戻る。その頃には既に暗くなっていた。その中を三人で並んで歩いていく。
その後ろ姿を見ている者を無視して。
ありがとうございました。




