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ようつべ行くな

作者: 羽生河四ノ

あらすじでも書きましたけど、カクヨムには投稿していませんよ。

 パソコンに向かってキーボードをカタカタして文字の羅列を作っている時、不意に右手が動いて、それでマウスをつかんでしまうときがある。

 不意に。

 本当に無意識に。

 注意だ。

 危険である。

 文字を打っているときは、別に特段マウスを掴む必要性は無い。まあ勿論、それは人によるだろうし、マウスを掴んでもいい人は掴んでもいいだろうけど、でも私の場合はダメだ。絶対にいけない。ろくな事にならない。私がマウスなんて掴んだら、大変なことになってしまう。すぐにグーグルとか開いてようつべとかに行ってしまう。ブックマークバーのところにあるアイコンを押してようつべに行ってしまうのだ。あんな所に行ったら大変な事になる。だって私はその気になれば一日中だってようつべを見て生活が出来る奇特な生き物だからだ。しかもようつべは、奴は一個動画が終わったら間髪いれずに、次の動画をみせようとしてくる恐ろしい怪物だ。とんでもない事になる。ループだ。無限ループ。ようつべ無限ループ。

 「こらっ!めっ!!」

 私はあわてて、マウスを掴もうとしている右手を左手で叩いた。右手は私の折檻に対して「こいつ何しやがる!」っていう不満を含んだ感じで私をにらみつけたが、私はそんなもの無視してまた画面上に文字の羅列を打つ作業を再開した。

 「・・・それで何度も間引きしてきたでしょ・・・」

 私は右手に言った。そして同時に自分自身にそう言い聞かせた。厳重注意だ。書類送検だ。私はこれ以上自分を嫌いになりたくなかった。自分にがっかりしたくなかった。

 だから今朝突然降ってきた、この頭の中のもやもやしたものを文字にしなくてはいけない。そしてアップしなくてはいけない。私は文字の羅列を打ち込み続けた。


 子供の頃から私には、行き詰ったり、ストレスが溜まったりするとようつべに逃げ込む癖があった。学校でいじめられたり、母に死ねといわれたり、母の再婚相手の男に殴られたり、とても優しかった祖母が死んでしまったとき、私は一人でようつべを眺める事で、その鬱積を何とかかんとか霧散させて来た。

 ただ、ソレが高じて大人になった今でも私は、ようつべを見る事がやめられなかった。パソコンを起動させて、何か書こうと思っても何故だかようつべに行ってしまっている事も何度となくあった。ようつべレベルが上がって、ようつべを眺めながらお酒を飲むことが出来るようになると、何かを書いて途中で筆が止まり、ようつべに行って、お酒を飲みだし、そんで酔っ払って、もうどうでも良くなって、書いてるものを保存もしないでそのまま消してパソコンも消して寝る。みたいな事が頻発した。

 そうして一度消えてしまったお話の種は、もう余程の事が無い限り、二度と自己の中に再浮上はしてこなかった。


 そうして何個も何個もお話の種をつぶしていって、なろう等にもお話を上げない、上げれない日々が増えていった。

 書かない事が自分の中で焦りになった。焦りは不安を呼んだ。そして、その不安は日々、自分の中で大きくなっていった。


 書かない、とは違うんじゃないか?

 私は書かないんじゃない。

 もう書けないんじゃないのか?

 何時からかそう思うようになった。


 一生涯、なんでもいいから、とにかく何かを書いて生きていたいと思っていた私にとって、それは、恐怖だった。

 とんでもない恐怖だった。


 その不安感から逃げる為、ますますようつべに行く機会が増えた。それに応じて酒量も増えていった。

 でも、

 ようつべは楽しかった。

 ようつべは面白かった。

 「あはははははははははっは!」

 私には、それが悪循環だという事も分かっていた。しかしようつべをやめることが出来なかった。だから私は次第にようつべを憎んでいった。ようつべを憎んだまま、私はようつべを見て笑っていた。

 「あはははっはあははっはは!」


 そんな日がどれほど続いたのか?長かったかもしれないけど、でももしかしたらとても短かったかもしれない。私にはうまく思い出せない。既に曜日の感覚等なくなっていた。


 でも、ある夜、珍しく素面の状態で眠りについた私は、

 「・・・」

 真っ暗な部屋を眺めながらある決心をした。

 「明日はようつべに行かないで・・・何か書いてみよう」

 と。

 そういう決心をした。



 そして今日、私は絶対にようつべに行かないと決心をして、何か、何でもいいから物語を書こうと思って今キーボードをカタカタしている。

 先ほどから、何度も無意識に右手がマウスを掴みそうになった。

 それを私は必死に防いだり、すんでの所で抑えたりして、とにかくキーボードをカタカタし続けた。


 どうしてそんな事をする必要がある?

 すごい見たい、すごい行きたいという、その気持ちを殺して、ようつべに行くのを我慢して、どうしてお前はこんな事をしているのか?こんな意味の無い事を?

 誰かにそう聞かれたら、私は、どう答えるだろう・・・?

 「私にとって、コレは息を吸ったり、吐いたりする事と同義なんです」

 そう答えるだろうか?

 それとも、

 「コレをしなくなったら、私の中に溜まったものが行き場をなくして、私は犯罪者になると思うんです」

 そう答えるだろうか?

 あるいは、

 「将来老害にならないために、今のうちたくさん恥をかいてプライドを粉々にしておきたくて」

 とか答えるだろうか?

 「・・・」

 きっとどれも正しい。

 ソレらをスローフードのように少しずつ切り取ってワンプレートに乗せたものが、今の私の事を形成している。だからようつべを見ていたら、私は息も吸えないし、犯罪者になってしまうし、老害にもなってしまう。母親や、再婚相手の男、それに私をいじめてストレスを解消した奴らのような、ろくでもない、たとえ外見は立派に見えても根っこが腐っていて、もう、どうにもなら無いようなそんな奴になってしまう。


 だから、ようつべは見てはいけない。

 ようつべはだめなんだ。


 そんな事を考えていると、また右手が勝手にキーボードから離れてマウスを掴みそうになった。

 「・・・あ、ちょっと!」

 その右手を左手で止める。すると、その手のひらに水滴が落ちた。

 「・・・は?」

 知らないうちに私は泣いていた。

 「何、なにこれ!」

 ぼろぼろと泣いていた。

 拭いても拭いてもあふれる涙は止まらなかった。


 「・・・」


 ようつべを憎んで、ようつべを敵軍に見立てて、自分から遠くへ遠ざけようとした。害になる。命を蝕むものだと思って、もう近づかないようにした。


 でも、それは違う。

 違った。

 ようつべは、ただそこにあるだけだった。

 ようつべは動いてなんていない。

 ようつべに行くのは私だ。私が意志弱子だからだ。


 「・・・」

 それに、子供の頃に死ぬかもしれないと思い続けたあの辛さを、何の文句もいわないで軽減し続けてくれたようつべを、私はもうこれ以上憎むことなんて出来なかった。


 「・・・」

 開いていた書きかけの文字を保存してページを閉じた。それから・・・。





 「あはははははははは!」

 今私は、ようつべを観ながらお酒を飲んでいる。

 ようつべは楽しかったし、もうようつべを観てもネガティブな気持ちとかにはならなかった。



 書きたいと思ってもなかなか書けない事がある。それでもいつか、ふと、何でかしら無いけど、猛烈に書きたいと思って、エンジンがかかる時が瞬間がある。私はそうだ。少なくとも私はそういう生態になっていると思っている。

 だから書けない時は書けない。

 あるいは、そんな中で、うんうんと唸って苦労して生み出したものが、世間から傑作という評価を受けるかもしれない。だから、その辺は分からない。各々で好きにしたらいいと思う。

 でも、私は、書けない時は書けない。

 「あはははははっはははははははは!」

 だからとりあえず、書こうと思うまで、エンジンがかかるまで、ようつべを観ていたって別にかまわない。

 書けるまで、ようつべを観ているつもり。


あらすじとまえがきを書きたくて書きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の暗い過去が明らかになって、ようつべに逃げてきた理由がわかって愛おしく感じました。酷い母親ですね。そして嫌な世の中に、健気に耐えてきたことにじんとしました。涙が溢れる場面好きです。何…
2019/11/02 01:18 退会済み
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