第8幕
警視庁を離れ、私たちは再び剣山の車に乗り、EVEの所在地へと向かった。警視庁に向かう際よりも街の様子は慌ただしさが広がっていた。どうやら何かのパニックがまた発生したらしい。車中にて杉野が電話の応答をしていた。杉野が言うには首都圏中心に謎の車両暴走事故が各地で発生し始めているとのことだ。
「人輪を暴走させている……ってことか。まずいねぇ。目覚めちゃったか」
「察しの通りだろう。どうやら予告の“第3段階”に入ったと言うことだな」
「この異様な交通規制も各地で起きている事故の影響からでしょうね」
「違いない。早いうちからパトライトをだしておいて良かったな」
「あのう、魔術の存在は政府や警察は一切知らないのですか?」
「知っているわけがないだろ? 魔術は世に秘匿させるのが常識だ。どんな科学者にも認知されないように対象者を管理する……それがこんな事態になったのだ。我々の気持ちも少しは理解して貰いたいものだよ。名探偵さん」
「ちょっと、馬鹿にして言っているの?」
「まぁまぁ、ボスは貴女たちを責めているわけじゃないわ。全て終わったら色々話し合いましょう。それより貴女もこれを持って」
「これは…………拳銃!?」
「使い慣れないでしょうけど、いざと言う時は使用して。貴女も戦うのでしょ?」
「うん……ちゃんと使えたらいいけど……って茜、誰と電話しているのよ?」
「琉偉」
「こんな時に何を?」
「こないだ買った玩具、全部机の下に置いとけって」
「……ったくもう」
私と茜、剣山率いるHMO含めた5名を乗せたパトカーはサイレンを高らかと鳴らし、EVEの所在地に突き進んだ。警察とタッグを組んで仕事に取り組む……こんな探偵冥利に尽きる出来事はそうあるまい。しかし私の胸が張り裂けそうに高鳴りだしているのはそれが理由ではなかった。
やがて目的地に到着した。風俗店などが立ち並ぶ通りで、よく見ると客引きが始まっているお店もあった。以前仕事の関係で琉偉君と足を運んだ事があって、思い出してみれば見覚えのある場所だった。
私たちは古びた6階建ての雑居ビルの中に入った。1階から何とも怪しげな店となっており、「屋上に上がる」と言うことに抵抗した厳つい店員(?) を剣山の影がなぎ倒し、騒然となった店内に茜がフラッシュを撒き散らして店内の人間をもれなく失神させた。私とHMO無能力者の2人は両目を塞いで何とか対処した。自然と対処できたのはやはり魔術によく通じている証拠だろう。
「全く、魔術は世に秘匿させるものじゃないのかよ? おっさん」
「君こそ随分乱暴なことするじゃないか?」
「アンタほどじゃね~よ」
この勢いのままに私たちは屋上前のドアに辿りついた。ドアは鉄のドアであり、固く閉ざされていたが、剣山と杉野が力いっぱい蹴破ることで何とか開いた。