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第6幕

 この日の東京の街は異常なくらいに騒々しかった。謎の事故が連日起きているからか、仕方のないことなのかもしれない。街ゆく人々の表情はどこか険しく、不安に駆られていた。交通整備をする警官の数も多い。私達はそんな混雑や渋滞に巻き込まれながらも日本の警察の中心に到着した。



 警視庁。名探偵となれば縁をすることもあるかと憧れたものだったが、思いもよらぬ形でその中へ入ることとなった。エレベーターで最上階近くまで上がり、長い廊下を歩いた。その途中で剣山に急いで声をかける青年が現れた。



「おお。杉野。悪い。待たせてしまったな」

「はぁ……はぁ……えっと、あれ? どちらが赤神さん?」

「私。アンタ何? HMOの一員?」

「後で紹介しようと思ったのだが、同じ特務科でHMOの一員でもある杉野だ」

「よ、宜しくお願いします! それはそうとボスッ! 星村が来ました!!」

「何!?」

「大変です。特務科室のモニターを全部壊して、ボスを呼べと上野を人質に……」

「クソッ! 急いで行く! 赤神、フォローを頼む!」

「はいはい。何だかいきなし面白い展開ですね♪」



 私たちは廊下の先の階段を急いであがり、特務科室に入室した。室内は広く、パソコン教室のような感じでモニターがたくさんあったが、そのどれもが派手に破壊されていた。部屋の奥、30代と思われるショートヘアの女性が血まみれで宙に浮かされていた。その真下、修道士と思われる婦人が大声で怒鳴っていた。



 「やれやれ」と言った茜は魔法の小道具を取り出して、修道士の婦人に向けた。その途端に宙に浮いていた女性は落下し、先程まで怒鳴り声をあげていた婦人がピタリと止まった。剣山が「全く恐ろしい術だな」と言うのに合わせ、私は「ね、凄いでしょ?」と言ってみせた。



 茜はその後も彼女の小道具を振り回した。すると、部屋中の壊れたモニターが宙に浮かんで自動修理を始めた。いや、茜の手によるものだから自動ではないか。



「すまない赤神」

「いいえ。魔女も人柄ですから。それであちらの宙に浮いていた人がもう一人のHMOさんで、あちらの修道士さんが……」

「ああ。そういうことになるな。何故ここに来たのかはわからないが」



 茜はゆっくりと歩いて星村聖子と思われる人物に近づいた。私たちも茜の後に続いた。星村は白髪の頭髪ではあったが、顔はうまく整っている美人な婦人だ。ただ今は茜の金縛りにあっている為、表情は不細工に崩れていた。



「あ……あなたは茜ちゃん?」

「ええ。生まれてぶりになりますね。星村さん。これどういうことですか?」



 茜はそう言うと顔から血を流している女性を指さした。杉野と剣山が応急処置を施し始めたが、体中に傷があるみたいだ。



「剣山が許せないのよ! あの可愛らしいイヴちゃんがこんな恐ろしい悪魔になるなんて考えられなくて! 私は我慢ならなかったの! そしたらもうコイツら全員を滅ぼすしかないって! 止まらなくて……!」

「星村さんさ、何でHMOを抜けて新しくHMOを創ったのさ? コイツらのやり方が嫌いだったからでしょ? 結果的に同じことしてどうするのよ?」

「何よ! 貴女に言われる筋合いは……」

「あるよ。私と爺ジはアンタの創ったHMOに加盟していた。争いの起こさない魔術連盟になるのだと信じて。それが蓋を開けてみれば、旧組織と争いを起こす事ばかり。だから爺ジは抜けたの。イヴって子が暴走しだしたのもきっと……」

「生意気なことばかり言って……!」

「ほらほら。よく見ていて、今からこの人を治すから」



 茜は怪我人の女性のすぐ側にしゃがみ込むと、女性の体に手を当てた。すると彼女の体がオレンジ色に輝きだした。みるみる彼女の傷は塞がれていき、あっと言う間に彼女は完治した。



「あれ? 私……生きている?」

「はい。これ飲んで。ちょっと気分良くなるから」



 茜はポケットから缶ジュースをとりだし、怪我人だった女性に手渡した。この一部始終を見ていた星村は急に泣き出し私たちにお詫びをしだした。



「なんと慈悲深い……私は何ということをしてしまっ……」



 顔が涙と鼻水でぐしょぐしょになった星村の顔はこれまた不細工に崩れだした。せっかくの美貌なのに何か勿体ない。それに何だか異常なぐらいに感情の起伏が激しそうだ。まさか彼女と共にEVEの討伐に向かうのか? それは勘弁……と思ったのは私だけではないはずだ。



 特務科室の様子が落ち着いた頃に茜が話を切り出した。



「さっ! すぐに動こうじゃない! 剣山のおっさん、イヴがどこにいるか、いや、イヴに関して現段階でわかること全部教えて貰える?」

「残念だがどこにいるのかはわからないな。予告状からして、どこかで魔法陣を敷いて魔術を発しているのに違いはないが」

「予告状?」



 茜がそう尋ねると、杉野が懐から1枚の古紙を取り出し、私たちに見せた。



『人類ヘノ復讐ソノ壱空ヲ堕トスソノ弐地ヲ攪乱サセルソノ参人輪ヲ暴動サセル壱弐参ト全テヲ成シ遂ゲラレレバ大地ヲ揺ラシ私ガ世ヲ破壊スル使徒デアル事ニ疑イ無シ呪エ私ヲ生カシタ事ヲ呪エ魔術ヲ此ノ世ニ或ラン事ヲ    EVE』



「何これ……」

「ふうん。イヴって奴は教養がないのかな?」

「茜、それは失礼じゃ……いや、どういうことよ?」

「この明らかに印刷機で打ったような文字に句読点の無い不自然な文章。これは音読によってそのまま魔術に書かせたと言う証拠だよ」

「1回読んだだけでそこまでわかるとは……赤神さんは凄いですね!」

「当たり前だ。彼女の家系は我が国でトップの魔力と知性を持っている血統だ。それはそうとだ。赤神、手紙の内容がお前にもわかるか?」

「うん。こりゃヤバいね。早くしないと。この国ごと地震を起こすつもりだよ」

「地震!?」

「ほら、ここに『私が大地を揺らして世界を壊す』なんて書いてあるじゃない? その前の段階で空の事故を起こし、線路を攪乱し、何かを暴動させるとも書いてある。現時点で第二段階までは実行されている。人輪ってわからんけどさ……」

「まぁ、察しのとおりだ。あとは1秒でも早く奴の場所を特定するだけなのだが、ここに奴の写真がある。見覚えがあれば幸いなのだが……」



 今度は剣山が懐から写真を取り出した。この刑事たちは懐に何かを隠す習性があるらしい。私もEVEの写真を覗いた。覗いた瞬間に私の背筋は凍り付いた。




 写真に写っている黒パーカーに黒いワンピースを着た女性は今朝夢でみた女性そのものであった。もっとも今朝夢で見た時と違い、黒い大きめのマスクをしていて顔がよくわからないが。それにしてもこの背の低さに華奢な体型、それに顔の輪郭やフードからはみ出ているウェーブのかかった髪が私の夢にでてきた女性を彷彿とさせていた。



「雪、どうかした?」

「い、いや何でもない……随分と若いコだね」

「君らと年齢は変わらん。それはそうと、面識はないということでいいのだな?」

「ん~知らないね。知っていても親しくなれそうにないなぁ」



 私は知っている……なんてことはとても言えない。夢でしか見たことないのだから。しかし写真を見れば見る程に私の理性は狂いそうになる。彼女がでた夢は今朝だけではない。ここ最近ずっと見ていたのだ。暗闇の中から語りかける声、その声がでてきたのは彼是1カ月も前からだ。某IT企業偵察の案件で疲労したせいだと思っていたが、違う。奇妙な感覚が冴えてきて仕方がない。



 茜と剣山はイヴの所在地をああでもないこうでもないと話し合っている。その傍らで私は彼女達に何をどう伝えるべきか思考を巡らした。しかし戸惑っている暇はない。私の中で1つの結論がでた時に私は自然と話を切りだしていた。

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