手当てと粥
体調が悪いのなら尚更身体を清潔にしなければならない。少なくとも、衣類は換えた方がいいだろう。鈴猫は彼の手を見て言った。
「……ねェ、その包帯取り換えていい? あと服も。ぼろだけど、替えになるものは一応あるよ」
「っ顔は」
「顔を見られるのがそんなに嫌なら取らない。首から下だけでいいから。できるだけ清潔にしとかないと治るものも治らないよ。……それに、脚以外にもケガしてるでしょ?」
「……」
鈴猫は少し真剣な表情で説得する。男は暫く黙り、やがて何も言わずに上着を脱いで包帯を解き始めた。すぐに鈴猫が熱のせいで思うように動けない彼から包帯を奪い取る。
「うわ……」
見ているこっちの顔が歪む。彼の体にはたくさんの傷があった。そのほとんどが痕になっているが、案の定新しいものもある。だがやはり、脚の傷が特に酷いようだった。
「結構な傷だね。熊や妖怪と戦ったの?」
「…………」
男は顔をそらしたまま何も言わない。鈴猫は肩をすくめたが、特に気にする事もなく立ち上がって手当の準備に移った。水瓶から水を汲み、清潔な布を数枚用意する。最後に戸棚を覗き込んで、傷薬の瓶を探した。
「えーっと……あっ、あった。よかった、まだ残ってた。……少し痛いけど、我慢してね」
「……自分で」
「満足に自分で体を動かせない怪我人が何言ってんの。大人しくしてなって」
鈴猫は男の傍に寄ると、水で濡らした布で彼の身体を拭いていく。男は嫌そうな顔で身を捩って鈴猫の介抱を拒否しようとしたが、彼女はそれを許さなかった。
何度か布を変えながら男の身体の汚れを落とした後、鈴猫薬瓶の蓋を開けて彼の傷口に薬を塗った。沁みるのか、男の顔が苦痛に歪む。
「……ぐっ……」
「縫うほどじゃないけど、結構酷い怪我だね。数か所打僕もある。熱もあるみたいだし、栗飯よりもお粥のほうがいいかなァ? ……うん、やっぱお粥がいいね。――はい、できた」
一人ぶつぶつと呟きながら手早く包帯を巻いていく。鈴猫は手当てを終えると立ち上がり、袖を捲り上げながら台所に向かった。
「そこに出してる服に着替えて待ってて。すぐご飯作るから」
慣れた手つきで冷めた飯を鍋に入れ、適当に刻んだ山菜と一緒に煮込む。最後に塩で味を調えれば、温かい粥が出来上がった。深めの器を二つ取り出して粥をよそい、再び男に近寄った。
「はい」
器と匙を差し出すと、男は無言で受け取りゆっくりと食べ始める。もしかすると食べさせた方が良いのかもしれないと思っていたが、黙々と食べているのをみると杞憂だったようだ。
「味、大丈夫? 薄いとか辛いとかない?」
何気なく聞くと、男は少し顎を引いてくれた。不味くはない、ということなのだろう。
「そか。よかった」
男の反応に鈴猫も微笑んで食べ始める。我ながら良い塩加減だった。