004 一新紀元
〜〜
ギルドハウスの外はタマキの言った通り、大規模ギルドの面々であふれていた。知らない顔もあるが、多くはレイド戦において何度か見かけたことのある顔ばかり。皆一様に落ち着きがなくざわついてはいるが、混乱しているという風ではない。飛び交う声を聞く限り、メンバーの確認や今後についての話をしているようだった。
「タマキちゃん?タマキちゃんよね?」
「人違いじゃないですか?」
「え?」
タマキの姿を見るなり駆け寄ってきたビースト、おそらくは妖狐の女性に対してのタマキの返答は雑なものだった。
「そっちの男の子は何?もしかして、タマキちゃんのこれ?」
「いいえ。私の学校での先輩です。これもあれもありません。」
ニヤニヤしながら擦り寄ってくるお姉さんをタマキは軽くあしらう。こいつの表情崩せる人間はこの世に存在するのだろうか、そんなことすら考えてしまう程にタマキは普段通りであった。
「タマキ、その人は?」
「ヴァルキリーメイデンの一応ギルドマスター、Lunaさんです。見ての通り、先輩より変態なので気をつけた方がいいですよ。」
「変態やないって。ウチは、可愛い子を愛でるのが趣味なだけやし。」
「ヴァルキリーメイデンが女性のみで構成されていることは知っていると思いますが、その理由がこれです。」
「話聞いとる?そこのお兄さんはかっこいい系やし、ウチの興味外やから安心してな?」
「そこのお兄さんは、カズヤ。私のギルドのマスターです。つい先程からですが。」
ギルドのマスターという言葉を聞くや否や、Lunaさんは俺の肩に手を回してタマキから少し離れる。
「なぁ、どうやってたぶらかしたん?」
「はぁ?」
「あの子今まで一切ギルドのメンバーを増やさんかってん。ぼっちギルドで第一線ってかっこいいでしょゆう理由でや。それがここに来てメンバーすっ飛ばしてマスターにしたっちゅうことは君のこと信頼しとるゆうことやろ。」
「いや、そう言われても、俺はあいつと決闘して一撃入れたから入れただけで。」
事実を言っても離してくれないLunaさんにほとほと困り果てる。タマキの考えていることなんて俺が分かるはずもない。分かってたら後輩に振り回されることもないだろう。というかさっきから胸が当たってるんだが。柔らかいなぁくらいは思うがやはりもっと慎ましい方がいいというか、そう今のタマキくらいの‥いやっまてまて!違う、違うぞ!あいつは男のはず!俺は同性愛者じゃない!
「先輩、いやらしいこと考えてる暇はありませんよ。Lunaさん、ギルメンは何人巻き込まれたんですか?」
「うちのギルドは、200越えみんなと残りが数人やね〜。こんな状態やしここら辺の上位ギルドはみんなで手ぇ取り合おうや〜って話がちらほら出てんで。タマキちゃんはどないするん?」
Lunaさんの言葉に相槌を打ちながらタマキは考え事にふけっているようだった。俺としては、正直ギルドの運営なんてできないし、そもそも考えるのは苦手だからタマキに一任することにしている。負担が減るようにできることはしてやりたいが‥。今は無力だ。
「そうですね。昔のあのメンバーでも探そうかなと思ってるんですけどね。フレンドリスト見る限りログインしてるみたいなので。」
「え?タマキが仲良しグループみたいなのにいたの?嘘だろ‥。」
「あの、さすがにそれはイラつきますね。私にだってそのくらいいますよ。」
「カズ坊は、第三陣なん?」
俺がうなづくとLunaさんはなるほどなぁと納得する。待って、俺にもわかるように説明してくれよ。
「DisasterGarden、通称災禍の庭園。私が昔所属していたギルドです。そこのLunaさんはサブマスでした。」
「サブマスゆうてもマスターが優秀やってなぁんもすることなかったけどなぁ。タマキちゃんなんかハイプリーストやのに特攻隊長やねんで?わけわからへんやろ?刀担いでスキルもなしに戦うわ、杖持って最前線でヒール撒くわ、一回も床ペロしないわで、ついた二つ名がGeniusDisaster。あまりにも化け物すぎるから、一部の人からチートじゃないかって騒がれてな、運営に報告されとんねん。そしたら、タマキちゃん何したと思う?運営の人に連絡して直接会ってチートじゃないこと説明しはってん。あん時は、ほんまおもろかったわぁ。」
「笑い事じゃないですよ。あいつらのせいで私、垢BANされそうになったんですからねっ!」
頬を膨らませながら、プイッとそっぽ向くタマキにこいつにもそんな一面あるのかとそんなことを考えていたら、タマキにじと目で見られた。
「とにかく、私と先輩はあのマスター、ネコ輔さんを探します。あの人がいればこれからの攻略も楽になるでしょうから。」
「せやなぁ。あの人の盤面掌握はこれからの攻略に必須やもんねぇ。」
ネコ輔?盤面掌握?なんだなんだ、話が二足跳びで進むせいで何がなんだかわからない。元々理解力があるというわけでもないが‥。
「バカな先輩に親切な私が説明してあげます。災禍の庭園のマスターだったネコ輔さんはハイプリースト、アークビショップ、シャーマンをやっている変態です。盤面掌握は、彼の秘伝の一つです。デスゲームになった今、変わらずに発揮できるかは定かじゃありませんが‥。それ抜きにしてもあの人は天才ですから。」
タマキに天才と言わしめる未だ見ぬネコ輔さんとは一体どんな人なのだろうか。
「タマキちゃんは、あの人の居場所わかってるん?」
「はい。ギルドが解散した後、面白そうって理由で、43層の氷獄連山に家を建ててます。」
「「はぁぁ!?」」
~語句の説明~
・レイド(レイドボス)
複数のパーティーで挑む大型のボス。CLOでは、1パーティー5名の4パーティー、つまり20人で挑むことが推奨されているボスを指す。
~この世界の補足~
・ヴァルキリーメイデン(ValkyrieMaiden)
メンバーが全て女性のみで構成されている戦闘系ギルド。人数は少ないが少数精鋭である。女性のみなのは、マスターの趣味。
・災禍の庭園(DisasterGarden)
第三陣が来る前まで存在していたトップギルド。メンバー数20人で全てLv200越えの廃人プレイヤーの集まり。50層までのほとんどのボスの初踏破グループ。解散の理由は未だ明かされていない。
・GeniusDisaster(歩く天災)
天才と天災がかけられたタマキの二つ名。時にハイプリーストでありながら、タンク役と同じ、最前線に立って絶妙なヘイトコントロールで味方を回復し、時にアークメイジでありながら、近接武器を手にして爆発的な火力を出し、そして今まで誰も死んだところを見ていないことからつけられた。
・秘伝
戦闘系ユニークスキルの通称。ユニークスキルは、ゲーム内で一つしかないスキルで、特定の条件を満たすことで発現する。