終章 振り返る、過去
拝啓 ヒトミジョウジ様
お前が今どこで何をしているのかわからないので、とりあえずそっちの国の政府あてに送っておいた。ニュースで見る限りだとそっちの“ヒトミさん”は有名人のようだから、たぶんこの手紙も問題なく届いていると思う。
端末は、お前が出国してからすぐに壊れてしまった。今のこの国では仕方ないことだ。毎日どこかしらで争いが起こっている。みんな今まで制御してきた感情を持て余して困っているみたいだ。
もしかしたら知っているかもしれないが、一応お前がこの国を出てから起こったことを簡潔に書いておく。
あの後すぐ、クスリの製造は中止された。もちろん、諸外国からの圧力がかかったんだろう。
国民は突然現れた感情をどうすればいいのか全くわからなかったようで、直後は犯罪件数がぐっと上がった。どれもこれもひどいものばかりだったよ。
今では少し落ち着いているが、それでもかろうじて“マシ”だといえる程度だ。この混乱はいつまで続くのやら。
政府はそれこそ何度も国民向けに説明をしようとしてたが、その度に暴動になった。今まで羊のようにしか思っていなかった国民がいきなり牙をむいたものだから、お偉いさんたちは大慌てだったよ。あれは見てて面白かった。今は国民からの不信感も相まって、誰も政府に従おうとしない。国家としては機能していない状態だ。そろそろ解散選挙を行うとかで、最近はバタバタしている。
世界に誇っていた技術力も、薬の研究も今では他の国に横取りされてしまっていて見る影もない。まあそれでも個人個人で見れば高い見返りをもらっているそうだから、結果オーライってところだろう。
端末が壊れる前にきたお前からのメールはちゃんと見たよ。キラリ、元気そうでよかった。
結構かわいい子だな。誰かに取られないようにちゃんとしとけよ。
俺は元気…とは言い切れないけどなんとか生きてる。
まだまだ混乱は続くし、ひどい状態からは簡単に抜け出せないだろうけどな。
それでもちゃんと笑えてるし、ちゃんと怒れる。それだけでもう十分だと思ってる。
そう言えば、あの時お前は亡命の理由を『この国に感情を取り戻したい』からだって言ってたけど、あれ、ほんとは嘘なんじゃないか?
本当は『この国に復讐したい』『キラリを救いたい』。ただそれだけだったんじゃないのか?
勘のいいお前のことだ。この国がこういう結末を迎えることを予測できないはずはない。そうだろう?
お前が居なくなった後、松戸家に行ったよ。せめてお前の親父さんとお袋さんには本当のことを言わなくちゃと思ってな。
結果的に、そんな必要はなかった。2人とももう死んでいた。お前が殺していた。
責めるつもりはない。止めることもせずにお前の計画に乗っかったのは俺だ。お前のあの気迫じゃ、それくらいしそうだと気づいていて、それでも止めなかった。俺にも責任はある。
ただ、忘れるな。お前が殺した、壊した事実だけは。逃げることなど許されない、絶対に。
返事をもらっても、受け取れるか自信がないから書かなくていい。
もうちょっと落ち着いた頃、まだ生きてたら今度はそっちに行くことにするよ。
今度は間違えるなよ。彼女によろしく。
敬具
マツドエイト
長らく迷走を続けていたこの話も、ようやく着地点を見つけてほっとしています。
正直な話、最初はこんな話にするつもりは全くなかったんです。
綺羅梨の出番ももう少し多い予定でしたし、ジョウジもちゃんと学校に通わせようと思ってましたし。
なのに気づいたらエイトの独白が異様に多くなっていて、しかもなんかほの暗い雰囲気の小説になっていた…成り行きってコワイ。
いかんせん締切に追われながらの執筆だったので、雑なところやつじつまの合わなないところ、意味の分からないところもたくさんあると思います。
今後の糧としたいので、ぜひどんどん感想・批評をお寄せください。
最後になりましたが、今回このような楽しい企画に参加できたことを心から嬉しく思います。
主催者の小伏史央さまには感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。
長い長いあとがきに、最後まで付き合っていただきありがとうございました。
また縁あれば、どこかでお目にかかると思います。
その時はまたよろしくお願いします。では、お元気で
珠樹