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その1 ふいに訪れた目覚め

SFもの初挑戦となります。

プロット大雑把にしかたててないので途中で迷走し始めたらごめんなさい。

SF要素は薄めになると思います。


感想、批評なんでもウェルカムです。よろしくお願いします。


“…じ、譲二。おきなさい。今日は出かけるんでしょう?”

遠くで母さんが俺を呼ぶ声がする。閉じた瞼の向こうが明るい。朝になったんだろうか。

「…ん、うーん…。…っあ、そうだ。ヒデと夏祭りのや、くそく…って、あれ?」

白かった。ただただ白かった。

寝ていたベッド、シーツ、布団、カーテン、壁、床、エトセトラエトセトラ…。

それは部屋と形容するには殺風景すぎた。言うなれば、ただの“箱”。

あまりにも徹底して白で埋め尽くされていて、寒々しい。

「一体、ここは。ど、こなん、だ。…って、うわぁっ」

上体を起こし、ベッドから足を下ろそうとしたところでバランスを崩した。大きな音がして、無様に床にへたり込んだ。

足に力が入らない。自分の足を見下ろして、悲鳴を上げそうになった。見たことも無い服を着ている。これも、まるで部屋とそろえたかのように白い。ここまで来ると、気味が悪くなってくる。

それだけじゃない。

鍛えているとは言えずとも、人並みには筋肉があったはずの俺の脚。落ちたはずみでめくれたズボンのから覗くふくらはぎは、病的なまでに細く、まるで枯れ枝だ。

「ひぃっ」

引き攣れた喉の奥から、空気漏れのような声がする。

ここはどこだ、俺はどうなった。

枯れ枝のような足を懸命に動かしてなんとか立とうとする度、体が床に打ち付けられてどたんばたんと音がする。

「人見さん、起きたんですね」

誰かが白い扉を開けて入ってきた。

この人も、白い。

服も、肌も何もかも。

誰だろう、この人は。服装を見る限り病院関係者だろうか。

では、ここは…病室?

「大丈夫ですか?ここは病院です。あなたは事故に遭って昏睡状態だったんですよ」

だから落ち着いてください。

「昏睡状態?事故?」

わけがわからない。俺は今日、夏休みの初日でヒデと夏祭りの約束をしていたはずだ。

そう、夏休み。

高校最後の夏休みだったはずなのだ。あと何日残っているのだろう。こんなことでふいにしてしまったらもったいない。

「あの!今日は何月何日なんですか?」

部屋に入ってきた女性の白い服に縋り付いて問うと、彼女はわずかに眉を顰めた。

「人見さん。落ち着いて聞いてください」

――今日は西暦21××年8月31日です。

「…う、嘘だ!そんなはずは!」

なおも縋り付こうとする俺の手を取り、彼女は何かを突き刺した。

わずかな痛みと引き換えに、俺の意識は遠のいていく。

「う、そだ。だっ、てお、れは」

「少し寝ていてください。先生をお呼びしますから」

冷静な彼女の声も。白い天井も。どんどん闇に塗りつぶされていく。

西暦21××年8月31日。

その日付は俺が知っている世界と1世紀ずれていた。


人類の進歩はいつの時代でも目をみはるものばかりだったが、どうやらそれは100年後の世界でも同じようなものであるらしい。

病室はそれこそ病的な白さだったが、あの病院特有の消毒液のにおいが全くしない。ベッドの寝心地も硬すぎず柔らかすぎず。空調だって完璧だ。

聞けば、ベッドや空調にはコンピュータが内蔵されていて、常に最高の状態を保つようにプログラミングされているらしい。

それだけじゃない。

100年も昏睡状態だった俺は、もちろん点滴をはじめとした沢山の管に繋がれていたわけなのだが、異物感が全くしなかった。

実際は体中に針をぶっ刺されていたにも拘わらず、だ。

100年前にはまだまだ珍しかった『痛くない注射針』も汎用化される時代になったようだった。

病院内を歩けば見たことも無い機械がそこかしこに並んでいるし、ロボットと人間が手をつないで会話をしている光景にも出会えることができる。

“近未来”

その言葉がしっくりくるような、夢のような現実世界。時々、これは夢なんじゃないかと疑った。こんな世界がはたして本当に実現するのだろうか、俺はまだ夢を見ているんじゃないか、と。

しかし、俺が手にするもの目にするもの耳にするもの、信じられなくともすべてが本物なのは疑いようもなかった。戸惑うだけ時間の無駄だと思った俺は、すべてを受け入れることにした。

元の世界には戻れない、ならばこの世界を受け入れるしかない。

諦めて受け入れることはさほど難しいことではなかった。

目を覚ましてからの日々は、検査検査の連続でめまぐるしく過ぎていった。しかし俺は100年間も昏睡状態だった割に正常な体をしていたらしい。検査は2週間ほどでひと段落し、寝ている間に落ちてしまった筋力を元に戻すためのリハビリを始められるようになった。

棒のように細くて折れそうだった腕も足も、食事とリハビリのお蔭で肉や筋肉がついてきた。

少しずつ、少しずつ、俺は“普通”を取り戻しつつあった。それは凪いだ波が寄せては返すような穏やかなもので、俺の心を心地よく満たしてくれていた。

憂うことなど何もなかった。


…ただ1つ、何か大きな忘れ物をしているんじゃないかという、付きまとう影のような思いを除いて。




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