第三章『真実 ~時空の狭間を歩む者~』
第二幕・三章 『真実 ~時空の狭間を歩む者~』
暗闇から浮かび上がり、茫然と立ち尽くす周瑜。
周瑜 ・・・此処は?
辺りを見回すが何もない。そこに于吉の声。
于吉 お目覚めかな、お嬢さん。
周瑜 誰っ?
于吉 探しても無駄さ。此処にあたいの姿はないからね。
周瑜 なら出てきなさい。此処は何処なの?
于吉 威勢がいいね。嫌いじゃないよそういうの。
周瑜 馬鹿にして。
于吉 おや、どうやら怒らせてしまったようだ。失礼をしてしまった。
于吉が浮かび上がる。
于吉 あたいの名は于吉。短い付き合いになるだろうけど、まぁよろしく頼むよ周瑜公瑾。
周瑜 どうして私の名前を。
于吉 ずっと君を観ていたからさ。ほらあたいの恰好って他の人からするとけっこう刺激的みたいでさ。だからさっきみたいに姿を消していたというわけ。
周瑜 ・・・于吉、だっけ。此処は何処なの。私をどうする気?
于吉 別に君をどうこうって訳じゃないんだ。わざわざこんな所へ来てもらったのはあることを君に伝える為。
周瑜 それってどういう・・・。
于吉 まぁまぁ、そう身構えずにさ。とりあえず気晴らしがてら・・・。
照明変化。舞台全体が明るくなり、そこには既にダンサーたちが待機している。
于吉 一曲交えながら説明しようかね!
M7 『狭間の住人たち』
歌があったり、踊ったりします―――。
周瑜 時の狭間・・・此処が?
于吉 ああ。
周瑜 そんな、非科学的な・・・。
于吉 君自身がその非科学的な存在だってのに。まぁ、そこにはあたいも含まれちゃうんだけどねぇ。
周瑜 非科学的・・・あれ? なんで私そんな・・・。
于吉 どうやらちゃんと思い出したようだね。本当の自分がさ。
周瑜 さっきまでそんな・・・でもどうして突然に?
于吉 孫策から周瑜公瑾の真実を聞かされたことで、己の正体を自覚した。それが君の記憶とこの世界を開く扉の鍵だったんだ。此処へ来たのは間違いなく君自身なんだよ?
周瑜 ・・・そう、私は周瑜公瑾じゃない。名前も、歳も、何もかも全部・・・。
于吉 単刀直入にいうと、君は歴史に選ばれたのさ。
周瑜 歴史? それって一体・・・。
于吉 そこまで知るかい。歴史が勝手に君を選んで送り込んだだけ。君らでいうところの三国時代にね。
周瑜 そんな・・・。
于吉 そんな夢みたいなことがあるかって? 君がそれを口にしちゃうのかい。目の前で起こった人間の死を君は夢の一言で片付けてしまうのかい?
周瑜 ・・・。
于吉 無理だろ? 君は命に触れ過ぎたんだ。故に君はもうこの時代に見事溶け込んでいるとも言えなくもない。
数度、照明が点滅する。
于吉 おや、もう時間か。
周瑜 時間?
于吉 現実に戻るのさ。
周瑜 そんなっ、まだ聞きたいことがあるのに!
于吉 近いうちに会えるさ。
周瑜 だけど。
于吉 よく考えるこったね。もう分かってるとは思うけどさ、これから君は何をすべきなのか。
周瑜 待ってよ!
于吉 残された時間はあと僅かだよ。
舞台転換。魏の居城、玉座の間へ。既に曹操が玉座に座している。魏兵の報告を受けている最中である。
曹操 ではあのとき孫策に弓引いたのは我が軍の兵士ではないというのだな。
魏兵① は、巧妙に変装しておりましたが、身元を確認したところその者は・・・かの猛将・太史慈子義でございます。
曹操 なんと我の誘いを蹴ったあの漢か! して奴は捕らえたのであろうな?
魏兵② それが・・・。
曹操 どうした? よもや逃げられた訳ではあるまいな。
魏兵② いえ、発見したときには既に自らの手で・・・。
曹操 そうか。
魏兵① 曹操様、これは一体どういうことなのでしょうか。
曹操 孫策は自ら毒矢を射ち込ませたのよ。
魏兵① 自ら? そんなことが有り得るのですか? それでしたら呉の内部分裂という可能性も。
曹操 それは有り得ん。
魏兵② と、申されますと?
曹操 普通ならば、あの圧倒的不利な状況で勝利したければ騙し討ちだろうが何だろうが、問答無用で直接我を狙わせるだろう。その方が遥かに得る物が大きいからだ。
魏兵② でも孫策は曹操様ではなく、自身を狙わせた。・・・結局それで得る物がないというのに。
曹操 果たしてそう言い切れるか? 結果として我々は敗走を余儀なくされた。
魏兵① あの男はそれを狙ったというのですか。
曹操 恐ろしい漢よな。我が軍を退かせるどころか、今や我は騙し討ちで小国の王を殺したということになっている。
魏兵② ではすぐに誤解を解かなければ!
曹操 愚か者。この覇王がまんまと小僧の計略に一杯喰わされたと自ら吹聴するようなものだ。それこそ名が泣く。
魏兵① 王はそれで宜しいのですか。
曹操 良い。我はな、これまでになく感動しているのよ。
魏兵① 感動?
曹操 かつてこれほどに命を賭した王がいただろうか。この覇王の顔に真正面から泥を塗りつけた奴がいたか。
魏兵② いえ、おりませぬ。
曹操 つまりはそういうことだ。太史慈を呉に送り返してやれ。丁重にな。
魏兵② 王よ!
曹操 魏にとっては賢しい罪人だが、呉にとっては大命を果たした救国の英雄だ。・・・つまりはそういうことよ。
魏兵② は、早急に手配致します。
魏兵たち退場。
曹操 ・・・孫策伯符。貴様ほどの漢が命を賭してまで護ったものに果たしてそこまでの価値があるというのか。よかろう、乱世の奸雄大いに結構。貴様の遺産が成長するまで、我と相対するその日まで待ってやろうではないか。
愉快気に笑う曹操。舞台は呉の会議室へ。そこはすでに臣官たちが集まっている中、中央の席は空白。その隣の席に周瑜、背後に陸遜。黄蓋もその場にいる。
文官① 都督殿、これから先のことについて如何にお考えか。
周瑜 検討中です。
文官② またですか。いつまでもそれでは困りますぞ。孫策様が亡きあと、呉の体勢を立て直すのは急務。
文官① しかし孫権様は先の戦以来とんと姿をお見せにならない。会議に出席しない王など前代未聞。
文官② いくら遺言といえど、孫権様を王として認める訳には参りませんな。
陸遜 お待ちください。孫権様は家族を失ったばかり。悲しみにくれる暇さえなく、かような酷を強いろと仰るのですか。
文官① どのような事情であれ、国の為に耐えていただかねば。
文官② それが王というもの。
黄蓋 そりゃあねぇだろ。こういうときの為に手を尽くすのが、俺ら臣下の役目ってもんじゃねぇのかい?
文官① 我々は孫策様を王と認めたからこそ、此処までついて来たのです。故に孫権様に王の資格が無ければこれ以上呉と共に歩むことは出来ませぬな。
黄蓋 なんだと?
周瑜 皆様の仰ることは御尤もです。次の会議には必ず孫権様にも出席して頂きますゆえ。これ以外に議題は御座いますか・・・それでは本日の会議はこれにて閉会と致します。
退場していく文官たち。あとに残るのは周瑜・陸遜・黄蓋の三人。
黄蓋 なんて薄情な連中だ。自分のことしか頭にないのか。
陸遜 周瑜様、これから一体どうなさるおつもりですか。
周瑜 どうも何も、まずは孫権様に出てきてもらわないことには。
黄蓋 そうだな。あいつにもそろそろ気持ちの整理をつけてもらわんとな。
周瑜 彼らの言い分だって分かるのよ。あの場にいた誰もが多くの命を背負っているのだから。
陸遜 建前上はそうかもしれませんが。
周瑜 御免なさい。少しの間独りにさせてください。
陸遜 周瑜様・・・。
黄蓋 行くぞ。
陸遜 ・・・はい。
黄蓋、陸遜退場。
M7 『目指した背中は遥か遠く』
周瑜 『こんな時に本物の周瑜公瑾だったら、きっとどうにかしただろうに。・・・孫策だって死なずに済んだかもしれなかった・・・どうして、どうして私なの・・・?』
♪ ずっと眺めていたあの背中
いつも追いかけていたあの背中
ただ一つの道標
追いかけているだけで良かった
だけど今はもう
何処を目指せば良いか迷い
知らない景色ばかりに惑う
あの笑い声が聞こえることはない
真っ直ぐな瞳 少年のような笑顔
何よりもあの背中はとても広くて暖かくて
もし歩くことをやめたなら
貴方にまた逢えるのかな
誰か教えて
照明変化。孫権が現れ、後ろから呂蒙がついてくる。
孫権 ついて来ないでよ。
呂蒙 どうかお気になさらず。
孫権 気にするでしょ。
呂蒙 私の任務は孫権様の護衛です。ですから私のことは空気だとお思いください。
孫権 久しぶりに外へ出てみれば面倒な・・・えっと、あなたはわたしを護衛する為に一緒にいるのよね。
呂蒙 はっ、片時も眼を離すな、との命令です。
孫権 ならわたしが用を足しているときも傍に付きっきりな訳ね。
呂蒙 ・・・。
孫権 はい、論破。護衛してくれるのは助かるから、せめて入口の前で待っててもらえる?
呂蒙 はっ。
孫権、厠へ。入れ替わりで周瑜登場。
周瑜 ・・・あなた何をしているの?
呂蒙 はっ、護衛任務であります。
周瑜 護衛? ああ、その服は親衛隊の・・・名前は?
呂蒙 はっ、呂蒙子明と申します。
周瑜 呂蒙? あなたがあの呂蒙子明なの?
呂蒙 失礼ですが、あのとは?
周瑜 気にしないで、こちらのことだから。
唐突に咳き込む周瑜。
呂蒙 大丈夫ですか。
周瑜 ええ、最近どうも調子が悪くて。たぶん風邪でしょうけど。
呂蒙 ですがそこまで咳が酷くては・・・。
厠から孫権が出て来る。
孫権 ちょっと騒がしいわよ・・・って周瑜っ、どうかしたの?
呂蒙 孫権様、先ほどから周瑜様が・・・。
周瑜 ちょっと噎せただけです。それよりも孫権様、そろそろ会議に出席してはくださいませんか。
孫権 ・・・嫌よ。
周瑜 兄上様が信じられませんか。
孫権 だって、ずっと冗談だと思っていたんだもの。心の準備がまだ・・・。
周瑜 心中お察しいたしますが、あまり猶予がありません。この状態を放置すれば臣下たちは呉から離れてゆきます。それでは折角孫策が護ってくれた・・・。
孫権 分かってる! 分かっているけど。
周瑜 ・・・呂蒙子明。あなたを孫権様付けの補佐役に任命します。
権・呂 えっ?
周瑜 これからはあなたが王の助けとなりなさい。
呂蒙 は、はいっ!
孫権 ちょっと、何を勝手に・・・。
呂蒙 ですが私には学など欠片も持ち合わせておりません。私は身体を動かす以外に能がないのです。
孫権 そ、そうよ。呂蒙もそう言ってるんだし・・・。
周瑜 ならば今から陸遜を紹介するわ。彼の許で多くを学びなさい。
呂蒙 ですが。
周瑜 これは決定事項です。親衛隊には私から話を通しておきます。
呂蒙 は。
孫権 ちょっと! いつまでも無視してんじゃないわよ!
周瑜 おや、随分と元気がお有りのようで。
孫権 ぐぅ。
周瑜 孫権様、次の会議は一週間後です。今度こそ出席してもらいますから、そのおつもりで。
孫権 ・・・分かった。
周瑜 行きましょう、呂蒙。
周瑜・呂蒙退場。
孫権 ・・・ああもう、見事に乗せられたわよ!
M8 『呂蒙、勉学に励む』
音楽に乗せた呂蒙の奮闘記。勉強したり、訓練したり、こき使われたりしている。音楽が終わり、陸遜と周瑜の二人きりだけになる。
周瑜 どうです、彼の調子は。
陸遜 驚きました。最初は匙を投げそうになりましたが、あの吸収力は常軌を逸しておりますな。経験さえ積めば、きっと文武兼ね備えた良き将となるでしょう。
周瑜 そう。あと、お願いしていた件なんだけど。
陸遜 は、魯粛殿は数日中に城へ参られるとのこと。諸葛瑾殿とは交渉中ではありますが反応は上々とのこと。あと残りの二人なのですが・・・。
周瑜 甘寧と周泰ね。
陸遜 はい、両者とも何分海賊でありまして、上手く話し合いの席を設けることが。
周瑜 大変なのは承知しています。ですがこの二人は何としても呉に招き入れなさい。
陸遜 ・・・周瑜様、何ゆえ海賊などを呉に組み込もうと? 今では理解出来ますが呂蒙だってそうです。一体何をお考えなのです。
周瑜 ごめんさい、それは言えないの。
陸遜 一番弟子の私にもですか?
周瑜 弟子って、貴方のほうが頭良いじゃない。
陸遜 分かりました。私は周瑜様を信じておりますから、それでも構いません。ですが孫策様みたいなことはもう・・・。
周瑜 そんなんじゃないから大丈夫よ。
陸遜 そういう事じゃないんです!
周瑜 何が? 私、何か間違ってる?
陸遜 いえ、あの、その・・・違うというか、そういうことではなく・・・。
要領を得ない陸遜の反応に首を傾ぐ周瑜。
陸遜 ああ、その・・・ええい、ままよ! 私は嫌なのです。虫の報せと申しますか、周瑜様が遠くに行ってしまうような気がしまして・・・だから!
陸遜、周瑜の手を掴む。
陸遜 かような弟子の不手際をお許しください! ご不満でしたらこの場でこの首を刎ねてくださっても呪いは致しませぬ。寧ろ喜んで差し出しましょう!
周瑜 え? ちょ、え?
陸遜 私は周瑜様を心の底よりお慕いしているのです!
周瑜 ええっ?
陸遜 で、ですから・・・。
周瑜 だ、大丈夫。ちゃんと聞こえたから・・・あの手を離してもらっても良い。ちょっと痛い。
陸遜 も、申し訳ありません!
周瑜 えと、その・・・。
陸遜 周瑜様の胸中に居られる方は到底私など及びますまい。
周瑜 私は別に。
陸遜 かの御方はご自身の命と引き換えに覇王の猛威を退けました。あれこそが真の英雄。千年経とうとこの話は色褪せることなどないでしょう。しかしかの英雄でも救えなかった魂があるのです。
周瑜 それが私?
陸遜 声を大にして誓いましょう! 我が魂は絶対に散りませぬ! 貴女様がすべてを全うするその時までこの命、千の矢の雨に晒されようと万の槍に貫かれようとも消えることはありませぬ。何があってもお傍を離れず、この頭脳に蓄えるすべての智を以て必ずやお役に立てて御覧に入れます。例えこの心が届かなくとも、決してこの誓いを違えぬことをお約束致しましょう!
周瑜 やめて。
陸遜 周瑜様。
周瑜 違うの。けして貴方が嫌いということじゃないの。寧ろ嬉しいくらい・・・でも御免なさい。
陸遜 構いません、私こそ無理矢理でしたから。ただ、後悔だけはしたくなかったのです。
周瑜 ・・・貴方って、以外に情熱家だったのね。
陸遜 そ、それでは私はこれにて。呂蒙を部屋に置いてけぼりにしてしまいましたから。
陸遜、退場。
周瑜 後悔したくなかった、か。
照明変化。于吉が現れる。
于吉 随分と熱烈な告白だったじゃない。良いねぇ、やっぱり若いっていうのはああでなくちゃ。
周瑜 于吉?
于吉 やぁ。どうやら見つけたようだね。それも君でなければ出来ないやり方を。
周瑜 どうなってるのこの世界は。私が知っている歴史とは随分と違いようだけど。
于吉 おや、そうなのかい?
周瑜 そう。生まれ、性別、いる筈なのにいなかったりもう死んでいたり・・・全部バラバラ。ここは私が知っている三国時代じゃないのね。
于吉 その通り。御推察の通り、此処は三国時代だけど、君の知っている『正史』ではない。
周瑜 それって並行世界?
于吉 うーん、可能性で枝分かれしたもう一つの世界とでもいうかな。もしくは『外史』ともいうね。
周瑜 外史?
于吉 そう。正史ではない、だから外史。しかし外史は同時に正史でもある。
周瑜 ?
于吉 人によって見方が変わるということさ。
周瑜 ・・・それはそうとどうして此処へ? まさかこんな会話をする為に来たわけじゃないんでしょ。
于吉 おっと。すっかり本題を忘れていたよ。今日は君に伝えることがあってね・・・周瑜公瑾。君は近いうちに元の時代に戻れるだろう。
周瑜 本当にっ?
于吉 ああ。ただし一つ条件があってね。
周瑜 条件?
于吉 君は死ななければならない。・・・驚かないんだね。
周瑜 まぁ、なんとなくそんな予感はしてたから。
于吉 なら話は早い。正確にはこの世界にいる筈のない『周瑜公瑾』としての死であって、君としての死じゃない。役目を終えて元の時代へと帰る理由が必要なのさ。
周瑜 役目、ね。
于吉 さて儂はもう帰るよ。そして次に会うときが・・・。
周瑜 私の最期ね。
于吉 最期の瞬間まで頑張るといい。そして進むといい。後悔することがないように。全力で生き抜いてみると良い。
于吉、退場。M9『ブリッジ』舞台は再び会議室へ。
陸遜 ・・・以上が北部の治水工事の進捗です。
周瑜 宜しい。さて、今日の議題はこれで終わりですが、他になにかある人はおりますか?
文官① 孫権様。一つ我々からご提案があるのですが宜しいでしょうか?
孫権 許す、申してみよ。
文官① 畏れながら。過日の戦に於きまして、王は先代様がお亡くなりになり、さらに度重なる激務に休む暇が少なかろうと思い至りまして。そこで一つ、宴を催したいと考えております。
周瑜 宴、ですか?
文官② はい。いまこの建業に有名な旅芸人の一座が訪れておりまして、特に舞は大陸随一だとか。その者たちを城へと招き、是非とも王に愉しんで頂こうという趣向に御座います。
周瑜 成程。
文官① もしお許しになられるのでしたら、是非とも明日など如何でしょうか。
黄蓋 明日だぁ? そら随分と急じゃねぇか。
文官② 何分旅芸人とは風の如く現れ、去ってゆくものです。故に早めが宜しいかと。
周瑜 王よ、如何なさいますか。
孫権 ふむ。皆の心遣い、有難く頂戴するとしよう。大陸随一の舞、期待して待つとしよう。
文官① 必ずや王にお楽しみ頂ける宴を開いて御覧に入れましょう。
周瑜 他に議題がある方は・・・おられないようですね。では本日の会議はこれにて閉会します。次回も来週の同時刻より行います。
孫権 解散。
文官たち退場。残る周瑜、陸遜、黄蓋、そして孫権。
黄蓋 アイツら先週と言ってる事が正反対じゃねぇか。
陸遜 腹に逸物あるとか思えません。
周瑜 そうですね。宴まで警備を増やしましょう。
黄蓋 連中への牽制ってわけか。
周瑜 陸遜。念のため、その旅芸人たちの素性を探ってください。少しでも疑わしい所があればすぐに報告を。
陸遜 は。
孫権 ・・・はぁ。
周瑜 如何されましたか?
孫権 こんな話を聞くと、如何にわたしが認められてないか、兄様がどれほど凄かったかのかって。
黄蓋 思い知らされたってか?
周瑜 もう弱気ですか。
孫権 だって。
周瑜 孫策が偉大だったのは揺るぎない事実です。
孫権 ・・・。
周瑜 ですが貴女は貴女。孫仲謀として、国王として、呉と民のことをお考えください。周囲のことは我々にお任せしてくだされば良いのです。
孫権 でもそれじゃあ・・・。
周瑜 全部を背負い込むことはないんです。もし一人でなんでも出来るなら私たちは必要ないのですから。
黄蓋 策殿はそりゃもう周瑜たちに頼りっきりだったもんさ。
陸遜 私も微力ながらお手伝い致します。
周瑜 お解りですか。貴女は独りではありません、少なくとも私や黄蓋殿に陸遜、それに呂蒙だっているのですから。
孫権 ・・・うん、ありがとう。
黄蓋 そんな湿っぽいのはやめてくだされぃ! ちゃんとしねぇと先代と先々代に夢出てきて敵わねえんだから!
一同笑う。そこで周瑜が激しく咳き込む。口元を押さえていた手を見るとそこには夥しい量の血が。
陸遜 周瑜様っ?
周瑜の咳は収まらず、ついには倒れてしまう。
孫権 周瑜っ?
黄蓋 医者だっ、急いで医者を呼んで来い!
M一〇 『終わりへの扉』
♪ 扉は開いた 誰の意志に構うことなく
淡々と刻まれる時
それは過酷な試練か または温か救済か
縮んだ蝋燭のように元には戻らない
後ろに道はなく 前にはるのは険しい上り坂
多くの障害が待ち受けている
容赦なく 苛烈に 責め立てる
迫る終演 最後の幕は開かれた
何が待ち受けているのか
それでも祈るのだ 良くあれと願う
平等に訪れる終焉
不平等に終わる人生
扉の先に待つもの それは一つ
自分だけの結末 只それだけ
照明変化、第四章へ。




