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第二章 『覇王襲来、小覇王の決意』

第二章 『覇王襲来 小覇王の決意』




      場面は変わり、イメージはテントの中。既に曹操が椅子に座しており、傍に部下がいる。


曹操    ほう、袁術が敗れたか。

部下①   はっ、その後の『江東の小覇王』を名乗り『呉』という名で建業(けんぎょう)を首都に建国。揚州を手中に収めるのも時間の問題と思われます。

曹操    して、新たな王の名は。

部下①   孫策伯符。三年前に戦死した『江東の虎』孫堅文台の長男に御座います。

曹操    孫家の子倅か。思いの外遅かったな。

部下①   王は、孫策を御存じなのですか。

曹操    三年前、一度だけな。親子揃って良い眼をしておった。いつか我と肩を並べるのはこの親子だと、そのとき悟ったわ。

部下①   三年前というと、黄巾の乱ですね。

曹操    うむ。だがそれからすぐに『江東の虎』は流れ矢で逝き、孫家は俗物の袁家に取り込まれたと聞いたときは見込み違いだと思うたが・・・どうやら杞憂だったようだ。

部下①   曹操様の覇道を阻むと?

曹操    あともう一人良い眼をしている奴がおったな、名は確か・・・劉備。そう、劉備という名であった。

部下①   義勇軍の頭目だった劉備玄徳ですか。あれからたった三年で小さいながらも(しゅう)(ぼく)を任されたというあの・・・。

曹操    奴は僕に美髯(びせん)(こう)・関雲長、燕人(えんひと)・張翼徳、伏竜・諸葛公明・・・他にも優秀な人材が集っておるそうだ。あの男には人を惹きつける才があるようだな。

部下①   それでも王には到底及びませぬ。


      唐突に部下②が登場。


部下②   ご報告致します! 左翼・夏候惇隊、右翼・夏候淵隊、敵陣を突破。袁紹軍の防衛線は完全に崩壊。指揮系統は完全に混乱しているもようです。

曹操    ついにこの時が来たか・・・全軍に伝令! これより魏軍本隊は敵本陣へ突撃、大将の首を獲る! これで長きにわたる官渡の戦は終結である。全員奮励せよ!

部下①②  はっ!


      部下たち退場。


曹操    ・・・これも因果かのう。長年目障りだった袁家は潰え、新たな時代の幕が開く。次なる動乱の歴史は我が覇道によって創られ、後世まで語り継がれるであろう。


      曹操の笑い声の中、照明溶暗。場面は呉城内へ。怒りの体で孫権登場。それを追って周瑜も現れる。


周瑜    孫権様! お待ちください、孫権様!

孫権    何よ!

周瑜    まだお勉強の途中です、お部屋へお戻りください。

孫権    嫌よ。大体なんで今さら孫子? そんなのとっくに暗記してるわよ。

周瑜    ですから孫権様は幾つか解釈を間違っておられるのであたしは・・・。

孫権    なら問題を出しなさいよ。そうしたら寸分違わず正しい解釈を披露してあげるから。もしわたしが正解したら勉強の時間は終わり。

周瑜    そんな勝手な。

孫権    わたしの答えられない問題を貴女がだせばいいだけのことじゃない。ほら早く問題を出しなさいよ。

周瑜    ・・・もし完璧でないとお認めになられたら、お部屋に戻ってくださるのですね。

孫権    わたしが認めたら、だけどね。

周瑜    ・・・分かりました。それでは第一問。孫子曰く、『十を以て一を攻める』とあります。孫子はなんと説いておられるかお答えください。

孫権    楽勝ね。孫子はこう言っているのよ、敵は一万、でもこっちは十万の軍。このまま攻めればわたしたちの大勝利、ヒャッホーっ!

周瑜    ・・・次の問題です。孫子曰く『百戦百勝は善の善なるものに非ざるなり』。

孫権    百戦百勝じゃ天下には程遠い。本気で天下を取るつもりなら千勝くらいはやってのけろってことね。

周瑜    ・・・最後です。孫子曰く、『風林火山陰雷』。これらの一字の意味をお答えください。

孫権    ええっと・・・風のように動き、林のように静かに留まる。

周瑜    その通りです。

孫権    攻めるときは火のように激しく・・・う~ん。

周瑜    当たってますよ。

孫権    ・・・山のような巨人がを妖術で呼び出すんだけどそれは囮で、実はこっそりと潜入した兵士がこっそりと大将を暗殺! それを見計らって雷の妖術で残りの敵をピカッと全滅。きゃー、孫子って浪漫溢れる人だったのね!

周瑜    溢れとらんわ! 何なんですかそれ。孫子はそんな奇天烈な教えなど説いてません!

孫権    あれ、どうしてこうなったんだろ。

周瑜    それはこっちの科白ですよっ?

孫権    ちょっとした冗談じゃない。

周瑜    今が冗談を言っていられるときですか。

孫権    冗談だって言いたくなるわよ。やっとあの忌々しいクソ袁術がいなくなってようやくお兄様に逢えると思って来てみれば、いつの間にか婚約者とか貴女みたいな人がいるんだもの。

周瑜    ですから当時の我々には連絡を取り合うことを厳しく制限されていたんです。

孫権    でも決起の報せに間諜を送ってきたじゃない。

周瑜    近況報告の為にわざわざ間諜を放つわけには・・・。

孫権    はいはい、分ったわよ。

周瑜    孫権様!


      孫策登場。


孫策    何騒いでんだ、お前ら。わんわん響いてんぞ。

周瑜    ああ、ちょうど良い所に。聴いてください、孫権殿が・・・。

孫権    わたしがいない間に、兄様は随分とお楽しみだったのねって話をしていただけですわ。

孫策    またそれか。この前散々話したばかりだろ。

孫権    足りませんわ。四年です、離れ離れにされて再会するまで四年も費やしたんです。たった数時間ぽっちで語り切れるはずがありません。

孫策    そりゃ悪かったと思ってるけどさ。でもあのときは仕方がなかったんだ。

孫権    そんな言い訳はどうでもいいんです。どうせ兄様は好き勝手やってわたしのことなんて忘れてたんでしょ。こっちは一日たりとも忘れたことなんてなかったのに。

周瑜    それは誤解です。孫策だって・・・。

孫権    わたしは兄様と話しているの。貴女は黙ってて。

孫策    なんだその口の利き方は。周瑜は呉の大都督だぞ。お前よりずっと偉いんだぞ。

孫権    口喧嘩で勝てないと判ったら今度は権力を振りかざしますか。周瑜様、お仕事でお忙しい中、わたし如きに時間を割いて頂き恐悦至極。とても有意義な時間でした。ですがやはり貴重なお時間を無駄に消費されるのは呉にとって大きな損失。もうわたしに構わない方が宜しいかと思われます。

孫策    好い加減にしろ、仮にもお前は俺の後継者だろうが!

孫権    ふん、何が後継者よ。兄様が治める国なんだから後継ぎは兄様と婚約者との子供でしょ! ああこれはこれは孫策様。そういえば周瑜様に御用があったのではありませんか。わたしがいては邪魔ですよね? そうですよね! それではこれで失礼させて頂きます。


      孫権、退場。


孫策    おい、孫権!・・・ったく、あのじゃじゃ馬娘め。

周瑜    良いの? 妹さん、完全にお冠だけど。

孫策    言うな。これでも結構堪えてんだ。

周瑜    だったら早く誤解は解いておかないと。

孫策    解くも解かないも、まずアイツが俺の話を聞いてくれねんだよ。

周瑜    随分とお兄さんが好きなのね。

孫策    ほとんど病気だぜ。・・・まぁ、確かに好き勝手やってた部分は認めるがよ、それだって一生懸命にやってきたつもりだぜ。

周瑜    大丈夫、ちゃんとあたしが知ってるから。だけどね、やっぱり数年ぶりに会えた人の傍に知らない人が何人もいればあたしも驚くな。

孫策    そういうもんか?

周瑜    昔自分がいた場所に、今は違う人がいる。ガラリと変わった環境についていけてないんだと思うよ。なんか昔の自分を似てるかも。

孫策    ・・・分からん。

周瑜    本当に貴方って人は・・・。

孫策    それよりも公瑾、お前の方こそ誤解を解かなくて良いのかい。

周瑜    は?

孫策    さっきのアイツの目見てなかったのか。お前絶対に俺の愛人だって思われてるぞ。

周瑜    あ、ああああああ愛人っ?

孫策    大喬が婚約者ならそうなるわな。

周瑜    まさか、孫権様がえらく突っかかって来るのって・・・。

孫策    まぁ、そういうことになるわな。

周瑜    困る! そういうの困る! ねぇ、どうすれば良いっ?

孫策    ちょっ、止めろって。なにも殴ることはねぇだろ!

周瑜    煩い、馬鹿!


      陸遜と太史慈が登場。かなり慌てた様子。


太史慈   孫策様! ここに居られましたか!

孫策    どうした二人とも。

周瑜    そんなに息を切らして。

陸遜    周瑜様のご一緒でしたか。大変ですっ、曹操が・・・あの魏の覇王が大軍を率いて洛陽へ進軍中との情報が入りました!

孫策    何だとっ!

太史慈   魏に放っていた間諜からの報告です。

孫策    それで数は?

陸遜    ・・・およそ、十万。

周瑜    十万って・・・そんな馬鹿な、数え間違いではないのですか!

陸遜    いえ、これは確実な情報です。見紛うことなく十万・・・いえそれ以上かと。

周瑜    ・・・何よそれ。どういうこと、ありえないじゃない。向こうは官渡の戦を終えたばかりなんでしょうっ? 無茶苦茶だわ!

孫策    落ち着け、周瑜。

周瑜    そういう貴方こそどうしてそんな冷静でいられるのよ。こっちは建国して間もない弱小国なのにどうして・・・。


      最初は小さく、やがて盛大に笑う孫策。


孫策    そっか、やっぱ待ってくれるつもりはねぇってことか! 流石だなぁ、覇王って名前は伊達じゃねぇな!

陸遜    そ、孫策様?

孫策    悪ぃ悪ぃ。人生ってのは思い通りならねぇように出来てやがるなってさ。そんだけのことよ。

周瑜    だから貴方は何を言って・・・。

孫策    将たちを集めろ、陸遜。すぐに会議を始める。大至急だ!

陸遜    はっ!


      陸遜退場。


孫策    いいか、これは試練だ。俺に・・・いや違うな。これは俺たち孫呉に課せられた試練なんだ。

周瑜    試練?

孫策    ああ。ここでこれから先の何もかもが決まる。

周瑜    ちょっと、大丈夫?

孫策    大丈夫さ、むしろ絶好調過ぎるくらいだ。悪いな、周瑜お前も陸遜の手伝いをしてやってはくれないか。

周瑜    それは構わないけど、貴方は?

孫策    太史慈とちょっと話があるんだ。

周瑜    ・・・分かったわ。でもなるべく早く来なさいよね。


      周瑜、退場。


孫策    悪いな、太史慈。

太史慈   いえ。して某に何か?

孫策    ああ、ちと手伝ってほしくてな。

太史慈   手伝い?

孫策    ああ、一世一代の大博打ってやつさ。


      五日後、場所は変わって魏軍陣地。


曹操    ・・・解せんな。

部下①   と、申されますと?

曹操    あれから二日・・・呉の様子はどうなっておる?

部下②   は、敵軍未だに動きはありません。

曹操    遅くても五日前には我々の進軍を察知しているはずだ。しかし奴らは陣を城の前に構えてなんら動きを見せなんだ。

部下①   つまり罠だと。

曹操    向こうは多く見積もっても四万にも満たぬであろう。物量で負けているのであれば策で応ずるのが兵法の基本。

部下①   しかし呉の城の周辺は何もないただの平原。いくら策を弄したとしても十万を覆せるとはとても・・・。

曹操    ・・・どうも神経質になっているようだな。久しぶりの大物を前に興奮しているのやもしれぬ。

部下②   大物?

曹操    そうだ、袁家などよりも遥かに手強い。瞳の奥に獰猛な獣が息を潜め、常に獲物の首筋を引き裂かんと牙を光らせておる・・・我々の相手はそういう連中よ。

部下①   それでも王には到底及びませぬ。

曹操    然り!


M5 『覇王進軍』


曹操   『我が頭脳・・・否、その最奥に在る魂こそ覇道の根源よ。(たと)え何人であろうと、どんな策を巡らそうも、正面からそれを打ち崩す。それこそが覇王なり!』


    ♪ 天命は我の許に在り

      我の許に天命は在る

      我が意志こそ天の意志

      誰も抗うこと(あたわ)

      されどそれを良しとする

      大陸を喰らい尽くしてやろう

      止められるものならばやってみせよ


      障害無き覇道に意味はなし

      やがて知るだろう

      我が偉大さを

      享受せよ

      これより紡がれる新たな時代を


      永久(とわ)に語り継がれるであろう

      大陸を導く王の名を


曹操    喰ろうてやろう。嗚呼、喰ろうてやろうとも。龍の(あぎと)で以って、虎の子を噛み殺してやろうぞ!・・・全軍、くだらない睨み合いはこれで終いだ。明朝、長江を渡り一気に洛陽に向けて前進。孫策と正面から相見える!

部下全   はっ!


      場面は変わり、これより前の呉へ。黄蓋、酒を呷りながら慌ただしく動きまわる呉の文官たちを眺めている。そんな彼を陸遜が見つけ―――


陸遜    黄蓋殿! 敵がすぐそこにいるというのに、何をなさっているのですか!

黄蓋    んぁ? いやな、儂は舞台を指揮するだけだからよぉ、準備は整っておるからあとは号令待ちでな。それにしてもお前らは大変そうだなぁ。

陸遜    兵站やらこれからの戦の備えがありますから。

黄蓋    何十年と見とるが本当に理解出来んよ。いやいや、その都度儂は武人で良かったと心の底から思うわ。

陸遜    その台詞をそっくりそのままお返ししますよ。私たち文官だって似たようなものです。

黄蓋    解らんといえば策殿も一体なにを考えているのやら。

陸遜    それは私も同感です。あの御方は私たち軍師どころか、周瑜様ですら詳細を知らされていないとのことですから。

黄蓋    あの方も文台様の意志を継いだ虎の子。何かしらの意味があるんだろうさ。

陸遜    ・・・まさか、このまま城を明け渡したりなんかしませんよね。

黄蓋    んだとっ?・・・てめぇ、今のは本気で言ってんのか。

陸遜    そういう訳では・・・しかしこのまま状況に動きがないというのは誰だって不安になりますよ。

黄蓋    そうだな。こればっかりは流石の儂も同じだ。悪かったな。

陸遜    いえ。でもその不安は広がっています。王はこのまま曹操に屈するのではないかと。

黄蓋    どっちにしろ、十万相手じゃまともにやり合っても勝てんよ。

陸遜    やはり城を放棄するのが一番賢い選択ではあるのでしょう。戦おうとすること自体、正気の沙汰ではありません。

黄蓋    その為のてめぇらだろうが・・・つっても今回は出番を貰えないんだったな。

陸遜    どっちにしろ、まともな考えなぞ浮かばなかったでしょう。

黄蓋    ・・・嫌な空だ。

陸遜    空?

黄蓋    老兵の勘ってやつだ。嫌な予感ってのはこういうときに限って当たっちまう。

陸遜    何もなければ良いのですが。

黄蓋    ああ、そうだな。

陸遜    ええ、本当に。


      場面は変わって、孫策と周瑜へ。些かきつい山道を登っている。さっさと進む孫策。逆に苦戦する周瑜。


周瑜    ちょっと、孫策!

孫策    んだ、もうへばったのか?

周瑜    そりゃあ体力自慢の貴方のことですから、どうせこんな道なんて余裕なんでしょうけどね!

孫策    はっはっは、褒めたって何にもでねぇぞ。

周瑜    皮肉よっ、気付きなさいよ馬鹿!

孫策    ああそうかい。

周瑜    そもそもどうして所に連れてきたのよ。言いたいことが沢山あるのに。

孫策    ああ、そういえばんなこと言ってたな。

周瑜    他人事っ? あんた好い加減にしなさいよ。

孫策    過ぎたことはもう良いじゃねぇの。で?

周瑜    だからさっきの軍議のこと。一体どうやってあの曹操を迎え撃つのかって話。

孫策    だからさっき話しただろ?

周瑜    だからその策を教えなさいっての。あの場の誰もあんたの言うことに納得してないのよっ?

孫策    話す必要はない。その時になれば、俺が号令を下す。あとはその通りに動いてくれれば問題はない。

周瑜    せめてあたしだけにでも・・・。

孫策    駄目だ。誰も知らないから意味がある。・・・さ、着いたぞ。

周瑜    着いたって・・・これは?

孫策    墓だ。

周瑜    墓って誰の。

孫策    周瑜公瑾。

周瑜    え?


      SE『ノイズ』。同時に一瞬だけ激しい頭痛が周瑜を襲う。


孫策    勿論お前の墓じゃない。・・・こん中にいるのは男だしな。

周瑜    ・・・どういうことなの。どうしてあたしと同じ名前の人のお墓が此処に。

孫策    幼なじみだったんだ、それも赤ん坊の頃からな。最高のダチだった。

周瑜    そんな昔から・・・。

孫策    そいつとよく遊んだのが此処だった。此処は丁度城の裏でな。遊び場には最適だった。

周瑜    どうして亡くなってしまったの?

孫策    事故だった。すぐ近くに少し深い穴があってな。足を滑らせておっこっちまっそのまま逝っちまった。

周瑜    どうしてあたしに彼と同じ名前を付けたの?

孫策    さぁ?

周瑜    さぁって。

孫策    そうした方が良いって、そんな気がしたのさ。

周瑜    あ、そ。ま、貴方らしいんじゃない。

孫策    そうか?

周瑜    そうよ。やっぱり孫策は直感のままに生きてるのが一番似合うと思うし・・・だから乗ってあげることにしたわ、貴方の策に。

孫策    ・・・ありがとな。

周瑜    あら、随分と素直じゃない。

孫策    なぁ、周瑜。お前に頼みがあるんだ。

周瑜    どうしたの藪から棒に。

孫策    もし俺が死んだら、次の王は孫権だ。

周瑜    やめてよ。戦の前にそんな不吉なことを言わないで。

孫策    良いから最後まで聞け。俺は妹以外に王の座を譲るつもりはない。アイツこそ、これからの呉に必要なんだ。

周瑜    どういうこと。

孫策    俺の役目が国を作ることまでってことさ。俺はこの国が大好きだからな、護る為ならなんだってやるぜ。


      周瑜、自分の小指を差し出す。


孫策    ん?

周瑜    互いの小指と小指を引っ掛けて約束事をするの。こうやってね・・・指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます。

孫策    おいおい、千本も飲むのかよ。

周瑜    約束を破らなければいいの。だから約束して。絶対に死なないって。

孫策    ・・・おう、約束する。で、その後はどうすればいい?

周瑜    指切ったって言うから、その時に小指を解くの。はい、指切った! これで約束完了だからね。

孫策    お前の国のまじないか?

周瑜    うん、さっきちょっとだけ思い出した。肝心な部分は全然だけど。

孫策    良いじゃないの。焦ることはねえよ。・・・さて、そろそろ戻らないとな。

周瑜    ・・・ねぇ、あたしたちが揃っていないってかなり問題じゃないかな。

孫策    かもな。ほれ周瑜さっさと行くぞ。

周瑜    ちょっと、先に行かないでよ! 待ちなさいってば!


      孫策、周瑜退場。

      BGM『ブリッジ』。場面は変わって、両陣営睨み合いの最前線。呉側に孫策・周瑜・孫権登場。


孫策    此処まででいい。

孫権    でも・・・。

孫策    こっから先に行けるのは王だけだ。それに俺の傍にいると危ないかもしれないからな。

周瑜    それってどういう・・・。


      魏側に曹操が登場。


孫策    んじゃな。

周瑜    孫策!

曹操    久しいな、虎の倅。愚かにも覇王を騙る者よ。

孫策    俺様の顔を憶えていてくれたとは光栄の極み。それにわざわざ舌戦にまで付き合って頂き、どうやら今日は人生最良の日になりそうだ。

曹操    減らず口を。

孫策    これが俺の性分でね。それにアンタの眼に竦んでいたあのときとは一味も二味も違うぜ。

曹操    そのようだ。うぬの無礼な物言いを許そう。我らは王、大小違えど対等に話す資格がある。・・・我に降れ、孫策伯符。そして魏の為に力を尽くしてもらう。

孫策    断る。アンタが退けよ、出来ればこの戦を俺は回避したいね。

曹操    それは駄目だ。やると決めた以上、それを翻すのは覇道に背く。

孫策    ふぅん、そんなに大事かね。アンタの覇道ってやつは。

曹操    否、我こそが覇道。覇道こそが我なのだ。

孫策    そうかい。

曹操    ・・・何が可笑しい。なぜ笑っていられる。十万を越える大軍を目の前に小国の貴様らがどう抵抗するというのか。


      孫策、小さい笑いがどんどん大きくなっていき、次第に腹を抱えるまでになる。


曹操    答えよ、孫策伯符!

孫策    いんや。面白いくらいに読みが当たったもんでな、思わず笑っちまった。

曹操    読み通りだと?

孫策    やっぱりアンタは凄ぇよ。その雄大にして愚直なまでの覇道・・・かあぁ、素晴らしいな。見習いたいくれぇだ!

曹操    何?

孫策    憶えておけ、偉大なる覇王。乱世の奸雄。輝かしきアンタの未来に泥を塗ったくってやる! それも最っ高にくせぇ糞みてぇな泥をな!


      刹那、曹操陣営から矢が飛んできて孫策に突き刺さる。暫くの沈黙。


孫策    ・・・おい、コイツぁなんの冗談だ?

周瑜    孫策!

孫権    兄様!


      周瑜、孫策に刺さった矢を引き抜き、検める。


周瑜    これって・・・まさか毒矢っ?

孫策    あ~あ、参ったなこりゃ。もう助からないわ、俺。

曹操    ・・・馬鹿な。

孫策    どういうつもりだい覇王さんよ。無防備な敵の大将を射殺すのがアンタの覇道かい。

曹操    なん、だと。

孫策    つまんねぇなぁ、こいつぁつまんねぇなぁ。

曹操    誰だぁっ! いますぐ矢を射た奴を連れてこいっ、即刻そやつの首を刎ねてやる!

周瑜    救護兵っ、早く!

孫策    いらん。

孫権    馬鹿言わないで。早く手当てしなきゃ・・・。

孫策    良いんだよ、どっちにしろ手遅れだ。

周瑜    貴方まさか・・・。

孫策    周瑜、あとは頼んだぜ。

周瑜    ・・・はい。

孫権    兄様待って!

周瑜    いけません、孫権様・・・これが孫策の最後のお勤めです。

孫権    そんな・・・。


M6『小覇王・最期の大号令』


孫策   『聴けっ、誇り高き呉の英雄たちよ! たった今、我が身に毒矢が射ち込まれた! これはすべて魏の王、曹操孟徳の汚らわしい策である! 薄汚い野心に溢れた王など覇王に非ず! 我が身は間もなく毒によって朽ちる・・・故にこれは最期の大号令! 心して聞き、刻み込め!』


      ふらつく孫策。


孫権   『兄様!』


      近付こうとする孫権を孫策は手を出して制止させる。


孫策   『卑劣な魏を討ち、曹操の首級を我が墓前に供えるべし! 勝てっ、必ず勝てっ! そして勝鬨を天まで響かせてやれ!』


      呉軍、咆哮。


孫策   『全軍突撃ぃっ!』


      呉軍の総攻撃。士気が低下した魏軍はなす術もなく押されていく。


周瑜   『誰一人逃がすなっ、絶対に生かして帰すなぁっ!』

陸遜   『徹底的に仕留めなさい! まだ息のある敵兵を見つけたら必ず一突き入れるべし!』

孫権   『何処だ曹操! 貴様は必ず私の手で!』

曹操   『ええい、なんということだ!』

部下①  『敵が物凄い勢いで・・・曹操様、どうかご指示を!』

曹操   『前に出過ぎたのが裏目となったか・・・こんな戦になんの意味もない! 全軍撤退! それでも追いかけて来る敵だけ対処すれば良い! 許昌に戻る!』

部下全  『はっ』


      撤退する魏軍。追撃しようとする孫権たちだったが、周瑜の制止を受ける。


周瑜    これ以上は駄目です!

孫権    邪魔しないで! 殺さないと、兄様の仇を討たないと・・・!

周瑜    いいえ、此処までです。これ以上の深追いは我々の負けになります。

孫権    負けないわっ、呉は負けない! 負けるわけがない!

周瑜    頭を冷やしなさい!

孫権    っ?

周瑜    引き際を見極めなさい! でないと彼の死は無駄になってしまいます。

孫権    でも・・・でも!

周瑜    孫権様・・・いえ、孫呉の新たな王よ。此処は堪え忍んでください。仇を討つ機会は必ず訪れます。ですから・・・。

孫権    ・・・うぉおおおおおおおっ!


      少しずつ落ちていく照明。しかし周瑜だけは浮き上がらせる形へ。


周瑜    これで、良いんだよね? 私は間違ってないよね? 私は、私は・・・。


      SE『ノイズ』。突然の頭痛に襲われ、そのまま倒れる周瑜。暗転―――後、獣五分間の休憩。第二幕、三章へ。


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