「ブレると当たるぜ!」
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ダーリンインザフランキスに脳汁出まくりな楠たすく、毎週OP聞くたびに鳥肌たってます。
「バグズに奪われる前に破壊すればいいんだな」
ロジャーが機体の応急処置と装備の交換を大急ぎで進めている間に、アレンたちは「新型をラボに抑えておけるのがそろそろ限界だ」という話を聞いていた。
「いや〜、アレンもなかなか面白い冗談を言うんだねぇ」
「いや俺は」
「ダメだよ!」
アレンが言い終わる前に、アリスは断固とした口調で拒否した。笑顔を浮かべているものの、その目は全く笑っていない。
「それは最後で最後な最後の手段だからね。無傷なんて贅沢は言わない、少々の傷なら目をつぶるからちゃんと取り返して」
「そうは言ってもなぁ。鹵獲は撃墜の倍キツいぜ」
「あの機体がなくなったらテストパイロットの話もなしだよ。そうなると、ボクは二本脚のバグズ探しを手伝えなくなるなぁ」
「……どうしてそれを」
モニター越しに鋭い視線を向けるアレンに対し、アリスの方は涼しい顔で話を続ける。
「大切な機体を任せる相手だからね、いろいろ調べたよ。さっきのひどい冗談のお返しさ」
「失敗しても文句は言うなよ」
根負けしたアレンがため息混じりに同意したとき、ロジャーが用意の出来たことを伝えてきた。
「おやっさん、左腕どうなったの?」
「どうもこうも、この忙しいときに直してる時間なんてあるわけねぇだろ。一発勝負だ。そのために坊主をそっちに付けたんだからな。二人でカーマインを抑えろ。アレンはセルリアンだ」
「分かった」
「へいへい。じゃ、よろしくユーキ」
「詳しいデータはこれから送るよ。とにかく急いで、あと壊さないで!」
アリスの熱烈な念押しに背中を押されながら、送られてきた新型アイメンドールを確認しながら三機はディアナ社のラボを目指した。
「ちょくちょく出番あるんだぜコイツ。ま、ホントはバグズ用なんだけどな」
「アレをわざわざ捕獲するんですか?」
ユウキは先ほど撃破したローカスタを思い出して少し眉をひそめた。
彼自身それほど強いこだわりを持っているわけではないのだが、テルスでは装備を持たない人型のアームドウェアしかないため、ユウキにとって多脚式のバグズは違和感の塊だった。
「あぁ。ダーニングの修理に要るパーツが減ってきたから調達してこい、っておやっさんに言われたときにな」
「えっ、部品に互換性があるんですか!?」
「そりゃあ、もともとアイメンドールはバグズの技術を参考に作られたからな。さすがにどこの誰が作ってるかまでは分からないらしいけど、動作に問題はないんだとさ」
「バグズって一体……」
「いたぞ」
まだ視認できる距離ではなかったが、レーダーの端にアリスから教えられていたものと同じ反応が現れるとすぐにユウキとドミニクの表情が真剣なものに変わる。
「どんな状況でも一定の性能を発揮できるようにしたダーニングの設計思想はそのままに、機体性能を大幅に向上させつつオプションパーツも充実・発展させた、それが『デザイア』なんだよ!」
いつになく雄弁に語り始めるアリスに圧倒され、あの時は黙って聞くしかなかった。
「あの二機は次のコンペで発表予定の初期ロットなんだよ。セルリアンは中遠距離からの射撃戦を重視した装備、カーマインは運動性強化の格闘戦仕様になっているんだ」
「あいつらにプレゼンしたってしょうがねぇだろ」
出撃前、作業の手を止めることなく冷静に指摘するロジャーにも負けず嬉々として語っていたアリスの言葉を思い出す。ロジャーが立てた作戦の通り、パルチザンを先頭に三機が縦列に並んだ。
「そのまま真っ直ぐ走れよ。ブレると当たるぜ!」
ドミニクがライフルを撃つと、彼方にいるローカスタの上半身が弾け飛んだ。ドミニクがトリガーを引くたびに、カーマインの取り巻きのローカスタやコックローチが火を吹いて爆発していく。
バグズの機影が消えたところでユウキはパルチザンを加速させると、カーマインも同様にスピードを上げた。
装甲は目の覚めるような赤。全体的なデザインはダーニングに近いものの、胴体や脚部はダーニングと比べると引き締まっていて、頭部のゴーグルアイも細いものになっている。華奢ではあるが弱々しいといった印象はなく、精錬されたという表現の方が適している。
前方から迫る三機を敵と認識したのか、カーマインは右腕に装備してあったブレードを展開して急加速した。
一直線に突っ込んでくるカーマインの前に先頭を走っていたパルチザンが立ちはだかり、振るわれたブレードをシールドでがっちりと受け止める。
「任せた」
その一言を残して最後尾にいたアレンが他の二機を抜き去って先へ進む。
ドミニクも素早く前に出ると、カーマインの背後に回り込んでネットが装填されたランチャーを向けた。しかし発射の直前にカーマインは後退してパルチザンとの距離をとった。
「すみません! 今度はしっかり抑えておきます!」
「それは構わねぇけど、さっきみたいな防ぎ方は危ないぜ」
「えっ? ……おわっ!」
再び突撃してきたカーマインに対して、ユウキはシールドを構える。受け止めたと思った瞬間にブレードがシールドを貫き、その切っ先はパルチザンの装甲を僅かにかすって一筋の傷跡を残した。
「おいおい大丈夫か? ヒートエッジだって書いてあっただろ」
「それは読んだんですが、何だか分からなかったので放置しました!」
ヒートエッジを受け流すようにしながら、連続で切りかかってくるカーマインをさばいていく。
貫通したのは初撃だけだったが、それでもパルチザンが持っているシールドの表面にはいくつも傷がついていった。
「このままでは押し切られる」
「分かってる! くっ、パルチザンのパワーじゃ抑えきれないです」
「そうは言ってもな……ちっ、ちょこまかと」
少し離れたところにいるドミニクはターゲットスコープをずっと微調整していた。
スコープに収まったと思った瞬間、カーマインがパルチザンから離れたり、逆に急接近するということが何度も続いている。
「少しだけカーマインとの間が欲しいです。なんとかなりますか?」
「要は下がらせればいいんだろ? 任せな」
パルチザンにヒートエッジの連撃をしのがれた後、仕切り直すようにカーマインはパルチザンとの距離を空けた。
その瞬間を逃さずドミニクがライフルを放つ。着弾したのはカーマインの足元の地面だったが、ドミニクの狙い通りカーマインはすぐにホイールを高速で逆回転させた。
カーマインが左右に曲線を描くように後退するたびに、ドミニクはカーマインの足元に銃弾を撃ち込んでいく。
「よっし、こんなもんか?」
「十分です!」
銃撃が止み再びパルチザンとの距離を詰めようと急加速したカーマインに向かって、ユウキは右腕に持っていたシールドを投げつける。
カーマインが目の前に飛んできたシールドをヒートエッジで貫き払い捨てると、眼前からパルチザンの姿が消えていた。
次の瞬間、左側に回り込んでいたパルチザンが構えたシールドごとカーマインに体当たりをした。
「上手いじゃねぇか!」
側面からの攻撃にカーマインがバランスを崩す。その隙を逃さずにドミニクがトリガーを引き、同時にパルチザンが飛び退ってカーマインとの距離をとる。
ネットに包まれたカーマインはしばらく踠いていたが、やがて仰向けに倒れたまま動かなくなった。