「……それは、こじれましたねぇ」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
どうも月曜日なのにテンション上がらないと思ったら、37.1度でした。
ちっ、あとちょっとで仕事休めたのに……w
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「ふぅぅぅ……」
ユウキが目を閉じながら、細く息を吐き、またゆっくりと息を吸った。
スタンフォードの地下に広がる放水路の中。ユウキとウィスはパルチザンのコクピットに収まり、次元穿孔システムが起動するのを待っている。
「どうしたの?」
「今になってちょっと疲れが、ね」
手強い敵との戦闘に仲間のひどい負傷が重なり、ユウキの精神的な疲労はかなり蓄積していた。彼は気持ちを落ち着かせつつ、集中が切れてしまわないよう気をつける。
プラーナは当人の精神状態に大きく影響されていて、一度尽きてしまえば回復にかなりの休息が必要となる。
もしそうなってしまえば、プラーナエクステンションで繋がっているパルチザンは動けなくなってしまう。
「問題ない。次元転移時には、わたしのプラーナが消費される」
「行った先が戦闘中ってこともあるだろ? 初めて竜成たちの世界へ行った時みたいに」
「その可能性は稀」
「あらゆる、特に最悪の状況を想定することにしてるんだ。そうならないことを祈るけどね」
「今は、バイパーもある」
ウィスがさらりと言う。それが単に機体状況の確認だったのか、それとも任せろという意志表示だったのかは分からない。それでも、ユウキは後者だと思っておくことにした。
「じゃあ、その時はよろしく」
「分かった。ーーそろそろ時間」
アレンとロジャーに見送られながら、パルチザンは静かに次元の狭間へ姿を消した。
すでに慣れたもので、ユウキも次元転移の後に頭痛や吐き気を感じることはなくなっている。体が浮いているような一瞬の違和感も、すぐに消えてなくなった。
「やっぱりここだね」
人の出入りがほとんどないためか、非常灯の他には光源が見当たらない。大野エネルギー研究所の地下にある、秘密の作業場だった。
テルスに帰還することを諦めたわけではないが、それでも見慣れた薄暗い空間にユウキはホッとした。
「ユウキ」
「ん?」
ウィスの呼びかけに、つい気の抜けたような返事をしてしまった。
「当たった」
「何が?」
直後、ズンという重い音と共にコクピットが僅かに揺れた。パルチザンに乗っていても感じるほどの衝撃に、ユウキもすぐに気を引き締める。
「シンドウくん、すまんが出迎えては後じゃ」
「メタルリザードですか? なら僕たちも援護にーー」
「いや、今回は大丈夫そうじゃ」
瞬時に残りのプラーナでやれることを脳内で計算し始めたユウキだったが、あっさりと断られてしまって拍子抜けしてしまった。
「もうゴウダイナーが勝てそうなんですか?」
「うぅむ、まぁ、我々の勝利……じゃのう」
肯定の返事をしつつも、何やら双葉博士の歯切れが悪い。正直なところ、手を貸してくれと言われたとしても、どれだけのことが出来たのかは自分でも疑問だった。
とはいえ、負けそうなのに勝利だとは言わないだろう、と結論づけてユウキは力を抜いた。そして、ユウキはいつの間にか、コクピットのシートで眠りに落ちてしまった。
「ーーキ、ユウキ」
「ん~?」
「戦闘が終了した」
ウィスの言葉にハッとしてユウキが体を起こす。言われてみると、たしかに先ほど感じたような振動はもうなかった。
「あれからどれくらい経った?」
「十分も経ってない」
コクピットから出て、コントロールルームに向かう。最近はユウキたちのおかげで使用頻度が上がったからか、機器に埃が積もっているなどということはなかった。
きちんと掃除され、椅子も少し座り心地の良いものに変わっている。時計を見ると、夕方というには少し早い時刻だった。
「おぉシンドウくん。待たせてすまなかったの」
急いでやってきたのか、双葉博士は額に浮かんだ汗を拭いながらコントロールルームに入ってくる。博士と一緒に来るかと思っていたが、竜成や薫はいなかった。
「ご無沙汰しています、博士。大丈夫でしたか?」
「うむ、まぁこっちの損傷は軽微じゃったよ。お前さんたちはどうじゃった?」
「そうですね、機体は割と平気です」
なんとも曖昧な表現に、双葉博士がどうかしたのかと質問を重ねる。ユウキはスタンフォードでのバグズ掃討作戦や負傷したサビーノのことを話した。
椅子に座ったまま手を組み、じっと床を見つめているユウキの話を、双葉博士は黙って聞いていた。しばらくして全てを吐き出したユウキと俯いているウィスに、博士はコーヒーを淹れてくれた。
「生きてさえいれば、何とかなるもんじゃ。命があれば、いつかそう思えるようになるもんじゃよ」
「そうですね……いつまでも落ち込んでいるとサビーノさんに笑われそうですし。竜成たちにも迷惑かけちゃいますしね」
「心配はするじゃろうが、迷惑ということはないじゃろ。まぁ、竜成もいま少々荒れておってな……」
今度は双葉博士の歯切れが悪くなってしまう。話を聞いていくうちに、ユウキもだんだんと唖然として、ぽかんと口を開けっぱなしにしていた。
「……それは、こじれましたねぇ」
「わしも、あれがここまで石頭じゃとは思わんかった」
「で、博士はこれからどうするんですか?」
「偶然じゃが、現状はうまく回っておる。あとは二人がもう少し歩み寄ってくれればいいんじゃが……」
さてどうしたものか、と頭を捻る二人を、ウィスが静かに見守りながら首を傾げる。そんなとき、双葉博士の携帯端末の通知音が鳴った。
「おじいちゃん、大変! すぐ戻って!」
通話ボタンを押した途端に薫の大声が響き、双葉博士は思わず耳から端末を離す。
「今シンドウくんと大事な話をしとるところじゃ。メタルリザードの第二波は来たわけではないんじゃろ?」
「その方がまだマシよ。いいから早く!」
やれやれとため息をつきながら双葉博士が席を立ち、ユウキたちもそれに倣う。何度も通った廊下を歩き、三人はメインの司令室へ向かった。
司令室の扉の前までやって来た時、パイロットスーツに身を包んだ竜成が荒々しい足音と共に向こうから歩いてきた。
その後ろから制服姿のままの薫が妙に疲れた顔をしながらついてきている。
「こら竜成、廊下は静かに歩かんか」
「分かってるよ! くそぉあの野郎、ちょっと年上だからって偉ぶりやがって……あ、ユウキさん。ウィスさんも、久しぶり」
「や、やぁ竜成。元気そう……だね」
話の大筋を聞いているユウキは頬に汗を一筋垂らしながら、ぎこちなく微笑みつつ手を軽く振った。
「聞いてくれよ博士、ユウキさんも! さっきーー」
「こんな場所で大声を出すんでないわい。話は中に入ってからじゃ」




