「こんなこと、戦場ならよくあることだ」
日曜仕事だった分の休みを、ちゃんと休みとして過ごせそうで安堵している楠たすくですw
「シンドウはドミニクの手伝いをしておいてくれ」
反対の指示が二人がくる。ユウキは何か言おうと思ったのだが、その前にドミニクからプライベート回線が入ってきた。
「アレンのお守りを頼む。サビーノのことは心配だが、今のあいつを一人にしとくのは絶対にマズい」
「なるほど……」
たしかに、ストライダーを対峙してからのアレンの戦闘は、普段の沈着な様子とはかけ離れて感情的だった。
そして、その感覚はアレンの言葉の端々に今も顔を出していて消えていない。
「あの、フランコさんが心配なので、一緒に行かせてください。下手にパルチザンがこっちの偉い人たちの目に留まるのも避けたいですし」
「……まず機体を倉庫へ戻す。急ぐぞ」
そう言い残すと、カーマインは早々にその場を去った。我ながら上手いこと言ったものだと、ユウキは内心でホッと息をつく。
会社に戻ると、連絡を受けたロジャーが心配しながら出迎えてくれた。そして、三人に怪我がないことを聞いてようやく安心したようだった。
時間はいいのかと何度も確認された後、ロジャーが車のキーを持って現れた。アレンは自分で運転できると主張したが、ロジャーは頑として譲ろうとしない。
結局はアレンが折れることになった。サビーノが搬送されたのはこの街で一番大きな病院で、敷地内に六、七階建ての病棟が三棟並んでいる。
「ウルフグラムだ。さっき搬送されたサビーノ・フランコはーー」
「お話は伺っています。こちらです」
フロントの女性が館内地図を指差しながら、丁寧に場所を説明してくれた。三人はぎりぎり走っていないと言えそうな早足で教わった場所へ向かう。
「集中治療室?」
真っ白な床と壁紙に、真っ赤な「手術中」のランプがやけに目立って見える。
「今回の作戦でフランコさんと組んでいらっしゃった方ですね」
手術着の男性が近づいてきた。皆どうして分かるのだろうかとユウキは一瞬考えたが、すぐに自分たちの服装のせいだと気がつく。
「フランコさんの容態について、お聞きになりますか?」
「あの、家族とかは呼ばないんですか?」
ユウキが尋ねると、その医者は黙って首を横に振った。
「彼のID情報に緊急時連絡先の記載はありません。親族は皆さん既に亡くなっておられます」
「そんな……」
ユウキもウィスも、立て続けに受けたショックにただ茫然としている。それでもアレンは静かに息を吐くと、医者の目を真っ直ぐに見た。
「それで、あいつの容態は?」
「危機的な状態は脱しました。しかし、右腕に関しては治療の施しようがありませんでした」
「そうか」
「右腕ってどういうことですか!」
医者が軽く頭を下げてから立ち去った後、混乱したままのユウキがアレンに視線を向ける。アレンは何度か口を開いては噤むを繰り返す。
やがて覚悟を決め、大きく息を吸い込んでからユウキとウィスの方に向き直った。
「やつの攻撃で歪んだコクピットのフレームに挟まれていた。あと少しずれていたら即死だった」
「そんな。じゃあ、もうマジックは……」
「命あっての物種と言うしかない」
極力感情を出さないようにアレンが話す。そのことが伝わってきて、ユウキもそれ以上の言葉を飲み込んだ。
「僕が、僕がもっと早く仕留められていたら……」
「やめろ。こんなこと、戦場ならよくあることだ。あいつも馬鹿じゃない。こうなる可能性も考慮したうえでパイロットをしていたはずだ。お前もそうだろう」
うつむくユウキの肩をアレンが強く掴む。
「落ち度を始めれば、俺もやつの動きを捉えきれなかった」
「……分かりました。すみません」
ふと見ると、アレンの右手が真っ白になるほどの力で握られているのが見えた。さっきの言葉はアレンが自分に言い聞かせているのだと伝わってきて、まだ理屈に感情がついてきてはいなかったが、ユウキもそれ以上の言葉をどうにか飲み込む。
しばらくするとドミニクも病院へやってきた。ユウキたちと合流して、片腕を失ったサビーノの姿に絶句する。
それでもドミニクは道中でいくらか覚悟を決めてきた分、ユウキたちよりも気を取り直すのは早かった。フロントに行き、事務的な手続きに取り掛かる。
「時間は大丈夫なのか?」
「え……?」
「システムが作動する時間だ」
「あ、そうですね」
次元転移のことをすっかり失念していたユウキは、急いで時計に目をやった。まだ過ぎてはいなかったが、決して余裕があるとは言えない。
「こっちはもうちょい時間がいる。ここは俺がやっとくから、お前はユーキたちを送ってけ」
ドミニクは書類に書き込む手を止めて、ユウキとウィスを見送りに玄関まで出てきた。
車に乗り込もうとしたユウキを捕まえると、ぐっと頭を寄せて「お前はしっかりしてろよ。ちゃんとウィスちゃんをサポートするんだぜ」と耳打ちした。
短く返事をしてからもう一度頭を下げ、今度こそ車に乗り込んだ。




