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「オレに惚れちまったのか?」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

なぜか月曜が祝日だと更新を忘れがちです。

祝日なんて関係なく月曜は休みのくせに……


ご意見ご感想、ブクマに評価、ラムからウォッカまで、何でもお待ちしています!

「稼げる時に稼ぐってのがこの稼業のポイントだしな。それに、金は入り用だからな」

「最近はオベディーの純正パーツも結構流れてて、そこそこ値崩れしてるって聞いたぜ。何に注ぎ込んでんだよ。コッチか?」


 顔を赤くしたドミニクが小指を立ててみせる。サビーノのは軽く笑いながらスッと席を立った。


「オレは黙っててもモテるタイプなんでね。コイツさ」


 サビーノが立ち上がりつつポケットから取り出したのは古い銅貨だった。長年の酸化によって表面は黒みを帯びた茶色に変わっている。


 その銅貨を開いた右手に乗せ、ゆっくりと握りしめる。サビーノが軽く手を揺らしてから再び右手を開くと、手のひらから銅貨が消えていた。


 今度は握った左手をテーブルの上へ持っていき、パッと開く。高い金属音と共に錆びた銅貨がテーブルに落ちてきて、カラカラと少し転がってから倒れた。


「おぉ! やるじゃねぇか」


 ドミニクが拍手すると、サビーノがわざとらしくお辞儀をしてみせた。特に反応したのはウィスで、食事に来てからもずっと静かだったにも関わらず、コインが落ちた瞬間に表情が一変して今は瞳を輝かせている。


 一方のアレンは酒が入っていることもあってか、少し懐疑的な視線をサビーノに向けている。


「左手にも同じコインを隠してあったんじゃないのか」

「ちょ、アレンさん!?」

「なるほどなるほど、アレンはタネが気になる系だったのか。よぉし、見てろよ……ちょっと失礼」


 サビーノは隣のテーブルに顔を突っ込んだかと思うと返事も待たずに手を伸ばし、空になっている皿から料理の彩りとして飾られていたレモンを一切れ拝借する。


 サビーノは紙ナプキンにレモンを絞ると銅貨の片面だけを(こす)り、片面は光沢のある赤褐色、裏面は元の黒っぽい茶色のままというおかしな銅貨を作った。


 その頃には、隣の席だけでなく店内のほとんどの客がサビーノの挙動に釘付けになっていた。サビーノが左手の指で器用にコインを遊ばせる。


 親指に弾かれたコインが宙を舞い、またサビーノの左手に帰ってきた。サビーノが左手を握り、数回振ってから再び開く。(から)の左手が掲げられると、あちこちで「おぉ」という声が漏れ出た。


「そんなに見つめるなよ。オレに惚れちまったのか?」


 ずっと右手から目を離さずにいるアレンをからかってサビーノが言う。そんなアレンの目の前へ右手をもっていくと、パッと開いてみせた。サビーノの右手には何も握られていない。


「ウィスちゃん」


 ざわつく客たちを尻目に、サビーノはウィスと視線を合わせながら自分の腰あたりを指差してみせる。ウィスが指差された箇所に手を当てると、そこはポケットの場所だった。


 何気なくポケットに手を入れたウィスの動きがぴたりと止まる。普段よりまばたきの回数が多い。ウィスがポケットから手を引き抜くと、その指先にあの両面の色が異なる銅貨がつままれていた。


「おぉぉぉ!」


 店中が一体化したかのように、今日一番の歓声が上がった。アレンも降参だと言うように苦笑を浮かべながら拍手を送り、サビーノは右へ左へ順番に頭を下げる。


「楽しんでもらえたかな?」

「正直驚いた」


 アレンが素直に感想を述べると、ウィスも目を輝かせながらこくこくと頷く。それを見たサビーノは満足気にグラスに残っていた酒を一気に飲み干した。


「あれは趣味ってレベルじゃなかったぜ。本職か?」

「その端くれ……ってところだな」


 サビーノは肩をすくめながら小さく笑った。


「これだけで食っていくには腕も知名度も足りんのさ。こう言うと元も子もないが、タネや仕掛けだってタダじゃないんだぜ」

「マジックのタネって買うもんなのか?」

「また結構するんだ、これが」


 あっけらかんと笑うサビーノを見ながら、心の中で「そこまで話していいのかな」と呟いたが、それは口には出さないことにしてユウキは最後の肉を自分の皿に取り分けた。


「お前の戦うのは夢のためか」

「ハッハッハ! この歳になってそんな眩しい言葉、背中がむず痒くてしょうがないぜ」


 豪快に笑い飛ばしたサビーノだったが、ふと真面目な、遠くを見るような表情に変わる。


「だが、まぁ……そうなのかもしれないな」

「青春してるじゃねぇかサビーノ」

「なっ、やめてくれよ! ほら、そろそろ解散して、明日もきっちり稼ぐぜ」


 アルコールでも変わらなかった顔を真っ赤にしながらサビーノが席を立つ。ユウキたちもその後について店を出て、そのままサビーノと別れた。


 借りている会社に戻ると、ロジャーはちょうどセルリアンの整備を終えて、これからカーマインの方に取り掛かるところだった。ユウキは何か手伝えることがないかと尋ねたが、ロジャーに「いいから早く寝ろ」と追い出されてしまった。




 翌朝、三機は揃って指定された場所に集まった。他のデバッカーもたくさんいるが、アイメンドールの数は昨日と比べて約半分ほどに減っている。


「これだけの数をまた揃えるって、どんだけ金あるんだよ」

「未確認の情報だが、関連会社以外からも資金援助が来てるらしいぞ。ほとんど身銭を切らずに、宣伝と好感度アップを成したってところだな」

「ったく、経営者ってのはやることが(こす)いぜ」


 辟易(へきえき)したようにドミニクがため息をつく。しばらくして発表された作戦プランによると、サビーノを隊長に据えたユウキたちの班はBエリアを攻めることになっている。

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