「止せよ、昔の話さ」
なんだかお久しぶりです……
やっと精神がこっちに向く余裕がでてきたので再開です。
またよろしくお願いしますですハイm(_ _)m
「明日?」
ユウキとドミニクが首をひねる。聞いていた話では、明日はラボに戻る以外の予定はない。
「お前ら、さっきの通知見てねぇのか? あぁそうか、坊主のとこにはそもそも来ねぇんだったな」
パルチザンはアリスによって友軍機の信号を出るように細工されていた。しかし通信に関しては、戦闘中に近場の味方と話せる程度の機器しか積んでいない。
「いや〜、どうせ報酬の説明とかだろうと思って無視しちまったわ」
悪びれもせず、ドミニクはけろりとした口調で笑う。やれやれと頭を振ったロジャーは自身の端末を放ってよこした。
「明日の作戦予定と担当箇所の変更について……ってこれ、どういうことだ?」
「今日一日で掃討が完了しなかったエリアが半数以上あった。よって作戦は継続される。参戦可能かどうか、確認するための通知だ」
「で、可能だって返しちまったんだな、お前は」
アレンが無言で頷く。今度はドミニクが頭を抱えてため息をつく番だった。一方、ユウキは驚きでまばたきも忘れて茫然としている。
「う、ウィス。次元穿孔システムが起動するまでの時間はどれくらいだっけ?」
「二十六時間」
「明日の夜か。それならまぁ大丈夫か」
「アレン、ちょっと顔貸せ」
ドミニクがいつになく真剣な表情でアレンを倉庫の隅へと連れていった。空気を察したロジャーは、整備に関する話があると言ってユウキたちをパルチザンのところへ誘導する。
「お前、ユーキとウィスちゃんをそこまで付き合わせんのか? 明日も参加したらラボに戻る時間はねぇぞ。次にこの世界へ来たとき、どうすんだ。前に転移した所にまた出てくるっつう話は聞いてただろ」
アレンの襟首を掴み顔を寄せる。声は潜めているが、ドミニクの語気は普段よりも荒い。
「迎えに来ればいい」
「簡単に言うけどな、タダじゃねぇだろ」
「費用は俺がもつ。アリスにはもう話した。あいつらは大事だが、俺にとっては自分の目的が何よりも最優先だ」
アレンの目には迷いがない。意思の固さを見て取ったのか、ドミニクは手を離してそれ以上の追求を諦める。
「例の写真のやつか?」
「そうだ。目的を達成していていないのに、このまま帰るわけにはいかない」
「……ちっ、分かった分かった。俺は付き合ってやる。だが、ユーキたちの意見もちゃんと聞いてこいよ。いいな?」
「当然出るつもりでいましたよ」
「移動手段の問題があるから帰るのは難しいだろうが、坊主たちが作戦に参加する必要はねぇんだぞ」
アレンから改めて翌日の作戦に参加するかどうかを尋ねられ、ユウキはさらりと答える。それに続いてウィスもただ黙って頷いた。ロジャーもやんわりと止めているのだが、ユウキが聞き入れる気配はない。
「誰かが戦っているのをボーっと見ていられる性格だったら、初めて会った時からそうしてますよ」
「……そりゃあそうだな。分かった、マグナムの整備はしといてやる」
「ありがとうございます!」
ユウキとウィスが揃って頭を下げる。ロジャーは四人を追い出すように行かせると、並んだ三機を順に眺めてからぐるりと肩を回して作業に取り掛かった。
時刻は八時をまわっているのだが、街全体は電気の光で明るく照らされている。どこの店も人がごった返しており、すぐ近くの工場地区をバグズが占拠していた街とは思えないような賑わいをみせている。ユウキたちが約束してあった店へ着いたときには、既にサビーノはテーブル席に一人座っていた。
「オレは待つのも嫌いじゃないぜ。それだけ君たちのことを考えていられる時間が増えるからね」
大きな店ではないのだが、それでも店内は空席がないほどに埋まっている。遅くなったことを詫びると、サビーノがニヤリと笑いながらそう言った。
「それ、普段は女に使ってるやつだろ」
「バレたか。さては御同輩だな」
「止せよ、昔の話さ」
ドミニクとサビーノが謎の熱い握手を交わす。特にリアクションせずしらっとした目で席に着くアレンとウィス。
ユウキはどうにかコメントを捻り出そうとして脳を回転させたが、結局が何も思いつかなかったので黙って座ることにした。
「さて、今は面倒事なんて忘れて、楽しく飲もうぜ!」
サビーノがグラスを掲げ、ユウキたちもそれに倣う。ガラス同士がぶつかり合い、涼やかな音を立てる。煽るようにして黄金色の液体を泡ごと一気に飲み干すと、サビーノは店員に同じものをもう一杯注文した。
「結構強いんだな」
「それなりにな。まぁ明日の作戦もあることだし、今夜はいつもの半分にしておこうと思ってる」
「毎晩どんだけ飲んでるんだよ」
呆れ気味に言いながらドミニクも自分のグラスに口をつける。ちなみに、ユウキもアルコールを注文しようとしたのだが、アレンとドミニクから同時に止められたので、大人しく炭酸飲料にすることにした。
サビーノの追加の酒が運ばれてくるのと同時に、大量の料理がテーブルに運ばれてくる。焼き魚や肉料理が多いが、サラダなどの軽いものも注文してあった。
「ここはオレの奢りだ。じゃんじゃん食ってくれ!」
「俺たちも出す」
ちびちびと酒を飲んでいたアレンが言うと、もう顔を赤らめているサビーノがアレンの肩をばしばしと叩きながら笑う。
「この作戦、リーダー機には特別ボーナスが出ることになってたんだぜ」
「それは知っている」
「ならいいじゃねぇか。ここの飯代だしても十分釣りがくるぜ。明日もリーダーにご指名してくれりゃあ、それでいいさ」
「フランコさんも明日参加するんですね」
サビーノは「当然」と頷きながら、カットされていてもなお塊と呼べそうな大きな肉を一切れ頬張った。




