「きっちり生き残ろうぜ。今夜の酒のために!」
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます!
ストックがあるのに気分が上がらないと更新までしなくなる悪癖をなんとかせねば……
パルチザンが格納庫に帰る少し前にカーマインが戻ってきていて、大半の整備スタッフはそちらにかかりきりになっている。
特にすることのないユウキたちは、忙しさを増す格納庫を出た。普段から並んで歩くことはないのだが、この時ほどほどユウキがウィスの足音に集中したことは後にも先にもなかった。
夕方になると、昨晩アリスが手配した大型の輸送機がラボに到着した。パルチザンの搬入を早々に済ませて、ディアナ社の制服に身を包んだユウキとウィスは客室に向かった。
他の人たちはカーマインとセルリアンの装備や弾薬の積み込み作業でまだ忙しくしている。
「この作戦にかかる費用は全額トート・インダストリーがもってくれるはずですよね?」
「正確には、修理費だけが全額、弾代は一定額までらしいぜ。ま、作戦が成功すりゃ、こいつみたいに移動にかかった分や弾代も全額でるらしいな」
ドミニクがコンコンと壁を軽く叩いてみせる。客席にはドミニクが一番乗りだったようで、他に人影は見当たらない。
ユウキとウィスが座席の番号を確認すると、指定されていたのは目を瞑って早々にリラックスしているドミニクのすぐ後ろの席だった。
「大盤振る舞いですね。大丈夫なんですか?」
「トート・インダストリーがあそこで一番の大手ってだけで他の企業の工場もあるから、別に一社で全負担ってわけじゃないぜ。ディアナ社も資金援助するって、この間アリスが言ってたろ?」
「たしかにそんな話も……ってドミニクさん、こんなとこで油売ってていいんですか?」
リクライニングチェアを最大限に倒して盛大に伸びをしているドミニクを見て、ユウキは少し笑いながら尋ねた。
「大丈夫大丈夫。あれにもこれにも首突っ込んでたら身が持たねぇぜ。要は頑張りどころの見極めが肝心なわけよ」
「そういうものなんですか?」
「そーゆーもんなの。後先考えず押せ押せってのは誰でも出来るってわけさ。引き際の見極めが肝心、ってね。為すべきことが他にあるなら、特にな」
ドミニクの言わんとしていることを理解したユウキは、ただ「はい」とだけ答えた。その返事を聞けただけで十分だったらしく、ドミニクは再び目を閉じた。
この数分後、ドミニクはロジャーのげんこつで叩き起こされ、引きずられるように積み込み作業へと連行されていくこととなる。
「いくら遅刻しそうっつってもよ……輸送機が大型化すりゃスピードが落ちるって、まぁ当然っちゃ当然だわな!」
ドミニクが愚痴りながら路上駐車してあったバンを躱す。
飛行中に出撃準備を整えていたユウキたちは、着陸したばかりの輸送機からカーマイン、セルリアン、パルチザンの順で飛び出した。すでに作戦の開始時刻まで一時間を切っている。
「いいから急ぐぞ。作戦概要の確認も同時にだ」
「いや、読みながら操縦は危ねぇだろ」
ドミニクから冷静な指摘が入る。いま三機は住宅地の中を走っていた。交通規制がかかっていて一般の車は全くないものの、アイメンドールが通ることなど想定されていない道路はかなり狭く感じる。
少しでも操縦を失敗すれば両脇の家屋を傷つけてしまいかねず、バイパス道路に出るまではとても気を抜くことなど出来ない。
「たしかに、今は他のことをする余裕なんて……ウィス、読んでもらえるか?」
カーマインやセルリアンですらあまり余裕のない道路では、一回り大きなパルチザンに乗るユウキは一瞬たりとも集中力を切れない。
「……」
「ウィス?」
「分かった」
おかしな間があり、心配そうにユウキはもう一度声をかける。ウィスは何事もなかったかのように抑揚の欠けるいつもの口調で送られてきた作戦プランを読み上げ始めた。
「Gエリアの第三班ねぇ。ま、どこだって変わんねぇか」
ウィスが作戦プランを読み終わった時には、すでに三機はバイパス道路に乗っていた。目標の工業地帯も確認できる距離で、その手前には集結したデバッカーたちのアイメンドールも見えている。
ダーニングもそこそこの数はいるのだが、やはりオベディーが大半を占めていた。
「一班が四機編成ってことは、もう一人いるんですか?」
「そいつから情報がきた。他の二班はすでにGエリアに進入しているらしい」
「まだ開始時間前だってのに、せっかちな奴らだぜ。俺らのお仲間まで先走って突入する前に、とっとと合流しようぜ」
ドミニクの軽口に反して、指定された箇所には一機のオベディーが待機していた。
装甲は茶色がかったデザートイエローに塗装されており、標準装備のものよりもやや長めの銃身のライフルを背面にマウントしている。
「待たせてすまない」
「なに、謝ることはないさ。君らが遅刻したわけじゃない、奴らが大人しくお座りしていられなくて、さっさと餌に食いついちまっただけさ」
機体を降りたアレン、ドミニク、ユウキを見て、オベディーの足元で待っていた男がにこやかに微笑む。年齢はロジャーほどではないが、アレンたちよりも上に見える。
顔立ちは整っていて、彫りが深い。輪郭はどちらかといえば四角に近く、かなりワイルドな印象を与えるパイロットだった。
「そう言ってもらえると助かる。アレン・ウルフグラム以下二名、そちらの指揮下に入る」
「サビーノ・フランコだ。本当にオレがリーダーでいいのかい?」
てっきりアレンがリーダーを務めると思い込んでいたユウキは、サビーノの言葉に一瞬驚いた。しかしアレンとの間で相談は済んでいるらしく、ドミニクもすんなりと了承する。
「こっちは作戦プランをざっと確認しただけだからな。他の班とも顔合わせしてるのもあんただけだし、任せるぜ」
「そうかい? なら、しっかり働いて、きっちり生き残ろうぜ。今夜の酒のために! 白いののあんたもいいか?」
「は、はい。あっ、でも僕はアルコール弱いので」
「ハハハハハ、OKOK! 無理に飲ませたりはしないよう気をつけるぜ」
陽気に笑うデザートイエローのオベディーを先頭に、パルチザンは工場地区の中へと入っていった。