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「すみませんロジャーさん、僕です」

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

先週は仕事でやらかしまくって大変でした……


ご意見ご感想、ブクマに評価、エビフライからメンチカツまで、何でもお待ちしています!

「……」


 眉間にしわを寄せ、いつになく険しい表情でウィスがじっと目の前のモニターを睨みつけている。モニターに映っているのは砂だらけの荒野にポツンと存在する赤茶けた岩。


 パルチザンから見ればほんの小石程度にしか見えないが、実際は成人男性とほぼ同じくらいの大きさはある。


「ウィス、大丈夫か?」

「……大、丈夫」


 その真剣な目つきは、とても大丈夫そうには見えなかった。よく見れば、ウィスの額に浮かんだしわがさらに深くなった気がする。



 結果から言えば、ユウキの予想通りバイパーは動かなかった。


 格納庫から出た後、まずはホイールを出したり収納したりしながら動き回ってみた。一通り試してみて、バイパーがパルチザンの挙動を阻害しないことを確認する。


「プラーナエクステンション、スタート」


 いつもはユウキが言う台詞を、ウィスが言う。突発的な事情でコクピットに誰かを入れたまま操縦するということはなくもないが、基本的にアームドウェアの操縦は一人で行う。


 ましてや、一機のアームドウェアの中で二人がプラーナエクステンションを使用したという前例は当然ない。


「……どうだ?」


 おずおずとユウキが尋ねる。違和感や動作不良など、危惧していたような不具合が起きている気配はない。試しに右腕を動かしてみると、パルチザンは正常に反応した。


「接続を確認。バイパーの動作実験を開始」


 そう言ったところまでは良かったが、肝心のバイパーが全く動かない。



「ウィス、少し場所変わってくれ」


 実験を始めて数分後、ユウキは立ち上がってウィスのシートの方へ行った。呼吸をするのも忘れていたのか、ウィスは一度ゆっくりと息を吸い込んでからシートをユウキに譲った。


「プラーナエクステンションの設定をパルチザン全体から部分限定に……してあるな。さすがにウィスがそんな初歩的なミスするわけないか。あとはトランスヴァインの接続か。プラーナエクステンションを解除、限定モードで再接続っと」

「なぜ切るの?」

「僕がプラーナエクステンションを使うと通常モード、つまり機体全体への接続が自動で行われるように設定されているんだ。限定モードは整備の確認のときくらいしか使わないからね」


 傍らで見ているウィスに説明しながら、ユウキは意識を集中させる。すると、腰の位置で吊られているバイパーがぎしっと音を立てた。


 パルチザンの足元で見ていたロジャーもその音を耳にしたが、動いたと言えるほどの変化は目視では確認できない。


「おい嬢ちゃん、今ちょっと反応したぞ!」

「すみませんロジャーさん、僕です」

「なんだ坊主かよ。ぬか喜びさせるんじゃねぇ」

「すみません。でも、反応したってことはトランスヴァインに問題があるってわけじゃないですね」


 目を瞑ったまましばらく粘っていたユウキだったが、やがてプハッと息を吐いてから席を立つ。結局、とても動いたと言えるほどの成果は出なかった。


「ごめんなさい。せっかく……」

「気にするこたぁねぇ。物作りにはトライアルアンドエラーが基本だからな」


 パルチザンを降りたウィスが、申し訳なさそうにしゅんとしながらロジャーに謝った。人の顔色を読むのが得意だと言えるほどではないロジャーですら、ウィスが気落ちしているのが分かる。


「それにだ、経費は我らがボス持ちってことになってるしな。気に病む必要はねぇ」

「ならアリスにも謝罪をーー」

「あぁぁ、そういうことじゃねぇよ! どうせ、あいつもモニターしてるだろ」


 ウィスを落ち着かせようとするがどうにも上手くいかず、逆にロジャーの方がだんだんと焦ってきてしまう。


「バイパーは動作不良のようだね」


 アリスの声がインカムから聞こえてきた。タイミングの良さに少し感心しつつ、ウィスのことは後から降りてきたユウキに任せる。


「みてぇだな。本体との接続やバイパー自体には問題ないらしい。坊主の言ってた通りになっちまったぜ」

「どういうことだい?」


 パルチザンに乗り込む前にユウキが言っていたことを伝えると、アリスはしばらく黙っていた。回線が切れたのかとも思ったが、時折ギッギッと椅子の軋む音が漏れ聞こえてきたので、そのままにして再度バイパーの点検を行ってみる。


「コンピューター制御にしてオートで動くようにする手段も無くはないんだけど……」

「そんなこと出来んのか?」

「まぁ、不可能ではないけどね。ただ動くってだけで、ボクたちが想定していたような性能は発揮できないんだよ。正直、あっても邪魔になるレベルかな」

「プログラムをいじっても駄目か?」


 しばらく「んー」という声が聞こえていたが、やがてアリスは「難しいね」と答えた。


「バイパーはあっても戦闘の邪魔にはなってないみたいだし、パルチザンはこのままの装備で明日の作戦に参加してもらおう。もしコンピューター制御に変えるにしても一日二日で終わる作業じゃないし、どちらにしても今はカーマインの調整が優先だよ」

「了解だ。坊主、嬢ちゃん、こいつの実験は終わりにするぞ。機体を戻したら少しでも休んでおけよ。明日は長丁場だからな」


 ロジャーは一方的に通信を切ると、先に格納庫へと向かっていった。ユウキは立ち上がり、ウィスの肩に軽く手を置いてからメインシートに座り直す。


 ウィスはしばらくユウキの背に目をやっていたが、やがて俯き気味に後部シートに腰掛けた。

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