「えぇい、やっかましい!」
ここまで読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m
今週はちゃんと更新できました(笑)
そろそろ歯医者いかないと……
ご意見ご感想、ブクマに評価、PSPからPS5まで、何でもお待ちしております!
「おぅ坊主、今どこだ」
端末越しにロジャーの大きな声が響く。反射的に端末を耳から離しつつ、ウィスとドミニクと食堂にいることを伝えた。
「なら好都合だ。嬢ちゃん連れて格納庫に来てくれ、じゃあな」
一方的に切られてツーツーと音の鳴る端末を持ったままドミニクに目を向けたが、無言で首を振られてしまう。そんな中、ウィスのフォークを動かす手が少しだけ速くなった。
「スラスターが付いたんですね」
ユウキがウィスと一緒に格納庫に着いたとき、ちょうどカーマインが搬入口から出て行くところだった。カーマインの背面には二機のスラスターが横並びに設置されている。
「パルチザンから取った稼働データでだいぶ楽にはなったがな。出力や角度の最終的な微調整は、ああやって実際に動かしてみねぇことにはどうにもな」
「明日の作戦用にですか?」
「いや。ちょっと前にまたバグズが出やがってな。その時はスラスターの調整をまともにしねぇまま出て、戦闘中に危うくコケそうになったんだ」
「また襲撃を受けたんですか!?」
バグズは世界各地に、そして規則性もなく出現していると聞いていた。自分がいる時で二度、さらに別の時にも現れたとなれば、原因は一体なんなのだろうかと、ユウキは頭をひねる。
「理由はボスも検討中らしいが、まだどうにもはっきりしねぇそうだ。さすがにお偉方も異常だと思ったんだろ、来週には警備部が増強されるらしいぜ」
「皆さんが無事なら、とりあえず安心です……って、こっちも何か付いてる」
パルチザンの腰の部分、その右側にはマギアマグナムが懸架されているのだが、今は左側にも何かが吊られていた。一見するとブレードのようだが、柄の代わりにワイヤーが繋がれている、そんな装備だった。
「わたしが頼んだ」
「ウィス?」
これまでアリスは、パルチザンに何か手を施す時は必ず自分に相談なり報告なりしてくれたのだけど、と考えていたユウキだったが、それまで静かにしていたウィスの言葉に反応して振り返った。
「ありゃ嬢ちゃん発案の装備だ。コードネームは『バイパー』、ちゃんと他のパーツの動作に干渉しねぇようにしてあるから安心しな」
「どうしてあれを?」
「戦闘が始めれば、わたしが役立てることはないから」
ユウキは「そんなことはない」と言いかけたが、止めた。パルチザンに乗り始めた当初はウィスに調整してもらわなければいけないことも色々とあったが、最近では一機のアームドウェアとしての状態はかなり整ってきている。
そんな中で、ウィスが自分にも出来ることを探した結果があの装備なのだろう。
「それで、バイパーはどういう装備なんだ?」
「ワイヤーの中にトランスヴァインが通してある。プラーナエクステンションで操作できる」
「言うなりゃ、三本目の腕ってとこだな」
ユウキが突然バッと振り返った。自信ありげなウィスとロジャーに対して、ユウキは愕然とした表情をしている。
「ちょ、ちょっと待った! あれ、誰が動かすんだ!?」
「わたし」
いつもの調子でさらりと答えるウィスに、ユウキはあんぐりと口を開けて言葉を失った。
「ウィス、今までアームドウェアを操縦したことは?」
「ない」
「いきなりあの装備って……大丈夫かな」
「どういう意味だ? 坊主たちの世界の人間はみんなプラーナってのを持ってるんじゃねぇのか?」
ロジャーが「前にそんなこと言ってなかったか?」と首を傾げる。
「プラーナはみんなに持っているんですが、操縦できるだけのプラーナ保有量の人間は多くないんです」
「別に機体そのものを動かそうってんじゃねぇだろ」
心の中で半ば呆れたように笑いながら、ロジャーは持っていたレンチで自分の肩を叩く。
「プラーナエクステンションは自分のイメージを機体に反映させるんですが、正確には自分の体と同じ感覚で機体を動かすためのものです。人体とは異なる装置を操作するのには向いていないんですよ」
「ユウキはテールバインダーを動かした。不可能ではない」
「あれはまだ鳥の羽とか参考にできるものはあったし、自分で言うのもなんだけど、僕はこれでもパイロットとしての操縦経験もそれなりにーー」
「えぇい、やっかましい!」
いつまでも思い切りの悪いユウキの態度に、黙って聞いているつもりだったロジャーがついに業を煮やした。格納庫にロジャーの喝が響くと、ユウキは反射的に口を閉ざし背筋をピンと伸ばす。
「うだうだ言ってねぇで、ちゃっちゃと試してこい!」
「はいっ!」
間髪入れずにハキハキと返事をすると、ユウキはパルチザンに小走りで駆けていき、その後ろをウィスがついていく。
「いやぁ〜おやっさんの怒号、久しぶりに聞いたぜ」
「なんだ、お前も来てたのか」
二人がパルチザンに乗り込むのを見届けてから、ドミニクはふらりとロジャーのもとへやってきた。
「前はよく若い整備兵に雷落としてたよなぁ。ま、デバッカーに転職してからは叱る対象がいなかったし、久々なのも仕方ねぇか」
「あの反応を見るに、坊主もいい上官に鍛えられてたみてぇだな。それと、落としてほしけりゃ遠慮なく言えよ。説教するネタはいくらでもあるぜ。職場の人間との距離間とか、な」
「おっと、おやっさんに気付かれてるとは思ってなかったぜ」
「なんだお前、俺のことを木の股から生まれたとでも思っていやがったのか? まぁ、ロートルは余計な口出しはしねぇがな。ーーおう、準備ができたなら外だ。パルチザンの動作に支障はねぇはずだが、とりあえず適当に動き回ってみろ。バイパーの試しはそれからだ」
インカムのマイクを通してユウキと会話しながら、ロジャーも格納庫の出入り口へと歩いていく。そんな後ろ姿を見ながらドミニクは小声で「こわいこわい」と一人つぶやき、自分はモニタールームに向かうことにした。




