「流れに乗れ。合わせろ」
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「あれから一ヶ月も経ったんですか!?」
ユウキは思っていた以上に大きな声を出してしまったことに自分でも驚いてしまった。
「あれか? 次元跳躍を行うと時間にズレが出るって話」
「そうです。ズレがだんだん大きくなっているのが気になって……」
「そういやウィスちゃん、次にシステムが動き出すのはいつなんだ? 最初は一泊、この間が五泊だったよな。この流れだと、そろそろ一週間超えがーー」
「三日後」
「って短くなんのかよ!」
ウィスの言葉に、ドミニクは肩透かしを食らったようにがっくりとする。そんな相棒のことは放っておいて、アレンは左手を親指から順に広げていった。
「作戦の翌日か。一日で片付ければ問題ないな」
「ま、そうなんだけどよ。でも大丈夫かアレン。戦いの前に希望的観測を言うとたいてい反対の目が出るってやつ、よく聞くだろ」
「オカルトに興味はない」
にべもなくあしらわれたドミニクは肩をすくめながらロジャーに目配せする。ロジャーの方も何か感じたらしく、無言で頷いてみせた。その様子が気になったユウキは、皆と分かれて自分の部屋へ帰った後にこっそりとロジャーに連絡を入れた。
「なんだ坊主、見てたのか」
「見ていたといいますか、見えてしまったといいますか……」
ばつが悪そうに言うユウキに、ロジャーは「別に責めてるわけじゃねぇ」と前置きした上で語り始めた。
「例の件が絡むと、あいつは強引に突っ込んでく癖があるからな。傾向って呼んだ方がいいかもしれねぇな。まぁ何にせよ、俺たちがブレーキになってやらなきゃいけねぇときもあるってこった」
「あの冷静なアレンさんが、ですか?」
自分にあれこれと適切なアドバイスをくれたアレンは常に寡黙で、無謀や熱さといったものとは反対にいる存在に見えていた。だが言われてみれば確かに、時折アレンの瞳の奥に激しい感情が見え隠れした瞬間をユウキも覚えている。
「最近はだいぶマシになってきた。口数の少なさは相変わらずだったが、軍を辞めてしばらくは猪か火の玉かって操縦だったからな。あそこまでいくと、戦闘っつうよりむしろ憂さ晴らしだ」
「分かりました。今度の作戦、何かあったら僕もストッパーになれるように気をつけます」
「あぁ、やめとけやめとけ」
即決かつあっさりと止められてしまい、ユウキは「へ?」と間の抜けた返事をしてしまう。
「あれ? いや、でも、今のはそういう話だったのでは……」
「いいか、物事には流れってもんがある。流れを作る側の人間も確かにいるが、坊主みたいなタイプは下手に流れに逆らっても巻き込まれて溺れるのが関の山だ」
「じゃ、じゃあ僕は何をすれば?」
「流れに乗れ。合わせろ」
「合わせる、ですか?」
ロジャーの言っていることに薄っすらと身に覚えを感じつつも、いまいち要点を掴めきれない。
「もしアレンが突っ走るようなら、ついてけ。で、協力してちゃっちゃと事を済ませろ。それが結果的にあいつの助けになる」
「なるほど、分かりました」
「いい返事だ。存分に暴れられるようにするのが俺の役目だ。戦闘中のことは任せたぜ」
「はいっ!」
その後すぐに通話を終え、ユウキもベッドに入った。ウィスに言っていた「頼まれたもの」という言葉と「存分に暴れられる」という表現が若干気になったものの、明日になれば分かるだろうと思い直してユウキは瞳を閉じた。
翌朝、ドミニクに誘われて食堂へ行ったのだが、そこにロジャーとアリスの姿はなかった。
「おやっさんならとっくに朝食すませて、もう格納庫だぜ」
「こんな時間からですか?」
壁の時計はまだ就業時間を指していない。周りにもまだ職員は多くいるが、よく見てみると顔馴染みの整備スタッフの姿もない。
「カーマインの改修案が出来上がったのが今朝方だったらしいからな。それもあくまで案だしな。調整込みで夕方までに仕上げねぇと、明日の作戦に間に合わねぇって言ってたし」
他人事といった感じで気楽そうにしゃべりながら、ドミニクはフォークで刺したレタスを口に運ぶ。
「そんなにギリギリに着いても大丈夫なんですか?」
「作戦の詳細は直前にデータで送られてくる。開始時刻に間に合えば問題ない」
「そういうものなんですか?」
「スタンフォードは明日の作戦に参加するデバッカーで溢れてるって聞いたぜ」
ドミニクは端末に表示したメールを見ながら答えた。知り合いのデバッカーから情報を仕入れていたらしい。
「ま、まぁやり方は人それぞれですよね」
「俺はもう行く」
ユウキがうまくまとめようとあたふたしていたが、そんなことは全く気にせずにアレンは席を立った。ユウキ、ウィス、ドミニクの皿にはまだ朝食が残っている。思い返してみればアレンはいつもより手早く食事を取っていたし、そもそも量が元から少なかった。
「格納庫ですか?」
「あぁ。ロジャーに呼ばれてる」
「俺も後で行くわ」
少し手を挙げて了解の意思を伝えると、アレンは一人食堂から出ていった。
「十五分前行動、真面目だねぇ。実際に動かしてみないと最終調整に入れないって、おやっさんも言っていたけどさ」
「昨日から気になってはいたんですが、デザイアに何かしてるんですか?」
「デザイア、ってかカーマインにだな。スラスター付けてんだよ」
「スラスターって……飛ぶんですか!?」
何を期待しているのか、ユウキの瞳がぱっと輝く。そんなユウキを見て、ドミニクは吹き出すのを堪えながら「いやいや」と手を振ってみせた。
「他の世界じゃどうだか知らねぇけど、アイメンドールに飛行能力はいらねぇよ。あれは直進のみの加速用だ」
「加速用……」
パルチザンのテールバインダーを垂直に立ててスラスターを吹かした状態を思い浮かべる。
「そういや、お前らのデータ使ったって言ってたな」
「前回来た時に、パルチザンであれこれテストしたんですよ。アリスさんは開発に使うデータだと言ってたんですが、てっきり良くしてくれるための建前だとばかり……」
「アリスは方便なんて吐ける性格じゃねぇさ。あいつが使うと言ったら、間違いなく使うぜ」
「あの、ドミニクさんはアリスさんと何ーー」
突然、アリスに持たされた端末がビービーとなり始め、ユウキは慌てて通話ボタンを押した。




