「脚」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
久しぶりの更新になってしまいました。
疲れていると、なぜか更新も忘れてしまってorz
何のためのストックなのか……反省です。
「他の理由は?」
表情をあまり変えずにアレンが問いかける。彼にとっては謎の仲介者の存在はどうでもいいものらしい。
「こいつは占拠されたトート・インダストリーの工場で撮影されたもんだ。まだ軍のアーカイブにも登録されてねぇ」
ロジャーが自身の端末に画質の荒い写真を表示させた。ユウキとドミニクが揃って画面を覗き込むと、映っていたのはピントのずれたバグズの写真だった。
「見たことねぇタイプ……だよな?」
ボケていて細かい部分は分からないが、ローカスタ型やコックローチ型、マンティス型と命名されたユウキが前に撃破した機体とも一致しないデザインに見える。すると、ウィスが小さく「あっ」と声を漏らしてから画面の一点を指差した。
「脚」
「……あぁっ!」
今度はユウキとドミニクが同時に声を上げる。ようやくアレンも興味を示し始めたようで、一人遅れて端末に目をやった。鮮明ではないが、写真のバグズの脚部にはホイールらしきものが写っている。
「いたずらじゃないのか? この程度の合成なら素人にでも作れるだろ」
「軍もそう考えてるんだろうな。決して多くはねぇが、目撃例もゼロじゃねぇ。こいつはーー」
「アレと関係あるかもしれない、だろ、おやっさん?」
ドミニクもいつになく真剣な顔をしている。ロジャーも黙って頷く。ここにいる人間にはこの情報と「アレ」で通じるらしい。
「あの、『アレ』って何なんですか」
ユウキの問いに答える者はない。無視をしているというわけではなく、皆どう言えばいいか迷っているという表情だった。
「……俺たちがまだ軍にいた頃のことだ」
「おいアレン!?」
一番に声を上げたのはロジャーだった。ドミニクも同じように驚嘆で目を見開いている。そんな二人のことをアレンは小さく頷くだけで制した。
「南極にあると思われるバグズの本拠地への攻略作戦があったという話はしたな?」
「……はい」
口調こそいつもの淡々とした様子だが、アレンの表情は彼が時折見せるあの怒りや後悔の入り混じった険しいものだった。ユウキも心の中でグッと覚悟を固めて耳を傾ける。
「俺はその作戦に参加していた。ドミニクもだ。当時俺は副隊長だった。結果を言えば、俺の部隊は壊滅した」
「えっ?」
「まず、隊長が仲間の一人を庇ってやられていた。同じ孤児院で育った人で、兄のような存在だった。俺が代わりに指揮をとってしばらく侵攻したとき、前方から一機のアイメンドールが現れて、突然襲いかかってきた。コクピットが無事で俺は生き延びたが、部隊のみんなは助からなかった」
「生存したアレンを俺の部隊が拾って帰還したんだ」
床の一点をじっと見つめたまま息もつかず語り続けるアレンの肩に、突然ドミニクが手を置いた。アレンがハッとして言葉を止めた隙に、ドミニクが話を引き継いだ。
「部隊っつっても、こっちも半分はやられちまってたけどな。でも俺たちはバグズにやられたんだ。俺もちらっとしか見えなかったけど、アレンたちの部隊を襲ったのはたしかにアイメンドールに見えた」
「上にも報告したが、結局情報は出てこなかった。だから俺はデバッカーになった。ヤツを自分で見つけ出すことにして、部隊のみんなの仇を討つために、だ」
アレンの眼光に圧されて、ユウキは口をパクパクさせるばかりだった。尋ねたいことは色々ある気もするのだが、言葉にまとまってくれない。
「その敵性アイメンドールの特徴は?」
「……シルエットはバグズだったが、サイズや挙動はアイメンドールに近かった。色は黒、腕にグローブをつけたようなシルエットで、俺が攻撃されたときも殴り倒された」
「もしかして、アレンさんが接近戦にこだわるのは……」
「まぁ、そういうことだ」
「今となってはソール重工も近接戦闘に力を入れてるみたいだけどね。まぁそれは置いておくとして、トート・インダストリーの件はどうするんだい?」
アリスが話を元に戻す。ユウキに至ってはアレンの過去で思考は埋め尽くされていて、奪還作戦のことはすっかり頭から抜けていた。
「もちろん行くぜ! な?」
「当然だ」
どうすると聞きながらもアリスは二人の答えは想定していたようで、すぐさまキーボードに手早く入力していく。
「あの、僕らも行ってもいいですか? そのミッションは報酬が出るんですよね」
「お金のことは気にしなくてもいいって、何回も言っているだろ?」
「お気持ちはありがたいのですが、気になってしまう質なんです」
「こりゃ言っても無駄だぜ」
ロジャーを見て、ユウキの方へ視線を移す。やがてアリスは諦めたと言う代わりに小さくため息をついて、入力した文字を打ち直す。
「分かったよ、三機乗せられるサイズの輸送機を手配するよ。作戦行動中は常時ホイールを展開しておくこと、これが条件だからね」
「はい、ありがとうございます!」
「ということは、明日の夕方か、遅くても夜には出発しないと間に合わないね。カーマインの調整プランは今夜中に仕上げておかないといけないのか」
アリスはぶつぶつと何かつぶやきながら画面に集中し始めた。こうなっては何を言っても届かないので、五人はそっと執務室を後にした。
「今回は徹夜コースに巻き込まれませんでしたね」
廊下を進みながら前を歩くロジャーに話しかける。ロジャーは振り返るとうんざりしたような表情でため息をつく。
「さすがに今夜は体力の限界だ。これ以上働かされたら、たまったもんじゃねぇぜ。だが、明日はなぁ……」
「どうしたんだよ、おやっさん。明日はカーマインの調整だけだろ?」
「頼まれてたもんの取り付けもやらなきゃならん」
ロジャーがちらりとウィスの方に目をやる。アレンにはその視線の意味は分からなかったが、どうやらウィスには伝わったらしい。
「できたの?」
「コンペ以来、ここも割と暇があったからな。一月もありゃ出来上がるぜ。問題はうまく繋がるかどうかってとこだ」