「おかえり、と言ってもいいのかな?」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
うだうだしていたら更新を忘れていました。
ちなみに、最近8章にとりかかったため、5、6、7章はまるっとストックになっている状態です。
更新がない時はエタってるんじゃなくてヘタっていると思っていただければ(笑)
ご意見ご感想、ブクマに評価、ライトニングソニックからバーニングディバイドまで、何でもお待ちしておりますm(_ _)m
彼方にポツリポツリと並ぶ大岩が長い影を伸ばし、荒野を舞う赤茶けた砂塵は夕陽に染められてなお赤い。少し視線をずらすと一面の大自然とは対称的に、数棟の巨大な白塗りの人工建築物が鎮座している。
モニター越しに広がる光景に、ユウキは安堵半分落胆半分といった何とも微妙な表情を浮かべた。ここまでの流れで次元跳躍の行き先を予測してはいたが、実際にそうなってしまっても全く動じないかと言われればそうではない。
「またディアナ社のラボに来ちゃったか」
テルスに戻るきっかけや方法も分からないまま、ただ次元穿孔システムに流されるように放浪の旅を続けている。あまり考え過ぎないことに決めたとはいえ、テルスではあれからどれほどの時間が経っているのかというのはやはり気になってしまう。
「これまでの次元跳躍の結果、前回次元穿孔システムを起動させた座標に再転移するとされる。システムに位置情報がインプットされているか、座標をマーキングしていると考えられる」
「もしくは、システムに影響を及ぼす何かが、ここと大野エネルギー研究所にあるか、だな」
「その可能性は限りなく低い。この世界に初めて転移した時はここから約十キロ先の地点に出た。でも、前回と今回はここに出た」
「……確かに」
「やぁウィスちゃん、ユーキくん。おかえり、と言ってもいいのかな?」
通信機からアリスのはつらつとした声が聞こえてくると、ウィスの顔色がパッと明るくなった。ユウキも肩の力を抜いて、シートに体重を預ける。
万が一新しい世界に転移してしまったとして、その時もまたアリスや双葉博士のような自分たちの話をそのまま信じてくれる人に会える、と信じられるほど、ユウキは楽観的な思考を持ち合わせてはいない。
「こんにちは、アリスさん。また戻ってきちゃいました」
「ボクは大歓迎だよ。ウィスちゃんも元気だったかい?」
「健康状態に異常はない」
「それは良かった。パルチザンはいつもの所に運んでくれ。話は通しておくよ」
いつもの所、で話が通じるくらいお世話になっているんだな〜と思いながら左のペダルを踏む。脚部にホイールが展開したことがモニターの端に表示されたことを確認する。
ユウキはそっと右のペダルに足をかけると、踏み込み具合に応じてホイールが回転し、パルチザンはラボに向かってゆっくりと走り始める。
さっきまで閉まっていたラボの入り口がゆっくりと開いていく。パルチザンがラボの敷地に入るのとほぼ同時に、レーダーの端にアイメンドールを表す青い点が二つ映った。
かなりのスピードを出し蛇行しながら走っており、一見すると戦闘中のような動きにも見える。しかし、周りに赤い点が見当たらない。そして、その識別信号には覚えがある。
「あのアリスさん。ここから南西方向にバグズが出たんですか?」
「バグズ? あぁ、カーマインとセルリアンのことか。心配しなくていいよ、じき戻るからね」
パルチザンから降り、既に顔見知り程度には親しくなった整備スタッフに挨拶をする。前回来た時はコンペティションの前後で、全員が忙しさに追い回されている印象だった。
今回も決して暇というほどではないが、この間のような慌ただしい空気はスタッフの中には感じない。
しばらく待っていると、アリスの言った通り、やがて赤と青のデザイアが格納庫に帰ってきた。どちらの武装も全てハードポイントに懸架してあり、ついさっきまで使用していた様子もない。
「よっ久しぶり。つうか、また来ちまったのか」
「元気そうだな」
まず軽い調子で笑うドミニクが、その後ろから仏頂面のアレンがユウキたちの所へ歩いてきた。二人とも衝撃吸収性の高い素材で作られた黒いパイロットスーツに身を包んでいる。
ドミニクの自慢の金髪は一つにくくられてヘッドギアから飛び出ている。その顔には緊張感が全く無く、とても戦闘の直後には見えない。
「お久しぶりです。お二人はさっきは何をしていたんですか? 敵もいないのに戦闘みたいな操縦でしたよね?」
「おっ、見てたのか。敵ならいたぜ、ほれ」
ドミニクがひょいと指を指す。ユウキがその先に視線をずらしていくと、ドミニクと並んで立つアレンにぶつかった。
「どどどういうことですか!?」
「おい、あんまりからかうな」
ユウキの反応に笑いを堪えているドミニクを、アレンが手に持っていたヘッドギアで小突く。
「模擬戦?」
「そうだ」
「正確には、訓練を兼ねたデータ取りってとこだな。これから我らがボスのところにこいつを持ってくんだけど、一緒に来いよ」
ウィスとアレンの会話は一言で成立している。ドミニクは派手な蛍光色が目立つ親指大のデータ端末を手の中で弄んでいる。
ユウキは心の中で「似た者同士の会話はあれで成立するのか」と感服しながら、ウィスと一緒に二人についていき格納庫を後にした。
ラボの最高責任者の部屋へと続く廊下を、それぞれキャリーバッグと紙袋とデータ端末を持った男女四人組が並んで歩いている。
なんともシュールな取り合わせだが、アレンが数回ノックすると、すぐに部屋へ入るようにという声が返ってきた。
「ウィスちゃーん! 会いたかったよ!」
ドアを閉めるなり、襲いかからんばかりの勢いでアリスが駆け寄ってきてウィスに飛びついた。大人しくアリスに抱き付かれ頬ずりされるがままになっているウィスだったが、ユウキが見る限りでは決して嫌がっているわけではなさそうだった。




