「あぁ、坊主たちだ」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は後書きのところに機体の紹介?などを書いてみました。
そちらも読んでいただければ嬉しいです。
……そもそも読者がいるのかなぁ(涙目)
「ったく、一日に二回なんて聞いたことねぇぞ」
モニターを確認していたロジャーの目が驚きで見開く。同じくモニターを覗き込んだアリスがハッと息を飲み、電話を取り出して素早く番号を打ち込んだ。
「……私です。えぇ、こちらでも確認しました。三チーム全部待機させて。状況によってはマシューのチームをこちらへ寄越してもらうかもしれないわ」
手際よく指示を出すアリスの表情もさっきまでと打って変わって険しい。ロジャーがハンドサインで何かを伝えると、アレンとドミニクもすぐさま部屋を出ていった。
「どうしたんですか?」
「今度こそ敵襲だ。最初に鳴った警報ではバグズの出現予想地点がマダル基地っつう、だいたい一〇〇キロ向こうにある連盟軍基地周辺だったんだが、今の警報だとこの先にあるディアナ社のラボが出現予想地点になってやがる」
「そこって、もしかしてアリスさんの……」
「あぁ、所長をやってる所だ。ここからラボまで一〇キロちょっと、俺たちの所にもバグズが来る可能性がある。坊主、具合は?」
左右の手をギュッと握ってみる。若干のだるさはまだ残っているものの、拳にしっかりと力を入れられるくらいには回復していた。
「もう大丈夫です」
「なら機体を運べ。急げよ」
「ウィスはどうする?」
部屋を出ていこうとしたユウキが、ドアノブに手をかけたところで立ち止まった。振り返り、ここまで全く会話に参加せずただ椅子に座っていたウィスに視線を合わせる。
「どうしたらいい?」
「自分で決めろ。俺はアレンさんたちの手伝いにいく」
「おい待て! 戦うつもりなのか!?」
ユウキの突然の宣言に驚いたロジャーが随分大きな声をあげる。
「あれがスクラップになっちまったら、どうやって自分の世界に帰るってんだ!」
「自分に出来ることがあるなら、僕はそれをしたいんです」
これ以上言っても無理だ、と諦めたロジャーは、溜め息を一つついてからさっさと行けと身振りで伝える。ユウキがドアを開けて一歩踏み出した時、椅子がガタリと音を立てた。
「……わたしも、行く」
「ウィスちゃんも?」
立ち上がったウィスは振り返って、アリスに向かってはっきりと頷いてみせる。
「これ、美味しかった」
「このお茶? 戻ったらまた淹れてあげるよ」
ウィスはもう一度小さく頷いてからユウキについて部屋を出ていった。
トレーラーから先行して荒野を走っているアレンたちのダーニングのレーダーが、二〇機近い『ローカスタ型』を捕捉した。
ダーニングと比べるとその胴体や腕は太く、がっちりとした印象を受ける。黄褐色の装甲で、六本の脚をせわしなく動かして段差の多い荒野を走っている。
大抵は両手に銃を持っているが、中には小型ミサイルや無反動砲などを装備しているものもいた。
「さーて、稼ぎますか!」
「先行する」
アレンたちが射程内に入るのと同時に、ローカスタは彼方から銃弾をばら撒いてきた。ドミニクのダーニングは大型ライフルを両手で構えて応戦し始めたが、アレンのダーニングにはこの距離でも有効な武器が装備されていない。
ダーニングの動作に干渉しないようにと選んだ小さめのシールドを左腕で構えつつも、機動力と運動性を駆使して弾幕を躱して徐々にローカスタとの距離を詰めていく。
十分に接近したところで更に機体を加速させ、シールドに刀身を乗せるように構えたブレードをローカスタに突き立てた。
アレンが使っているブレードは純正品ではなく、あってないような程度の切れ味しかない。
アイメンドールの武器は中遠距離からの銃撃戦を想定したものしか開発されていない。しかし、アレンから「弾代を気にせずに戦える武器が欲しい」と注文され、ロジャーが自分で製作した。
しかし、回収したバグズの装甲をそれらしく形成しただけのものでローカスタが斬れるはずもなかった。
当初は機体と比べて三分の一ほどの大きさの取り回しの利く細身だったブレードも、試行錯誤と改修を繰り返すうちに徐々に巨大化していくこととなる。
ついには「剣の形をした金属の塊」、斬撃というより重量と勢いにまかせた打撃がメインの武器となってしまった。
右手でブレードを引き抜きつつアレンは機体を後退させるのと、周囲にいた四機のローカスタが一斉に機銃を発砲するのはほぼ同時だった。
ブレードが開けた穴から火を吹いていたローカスタは、その銃弾を浴びた直後に爆発の炎に包まれる。
アレンはブレードを背面のハードポイントに戻してからマシンガンに持ち替える。近場のローカスタに向けて撃ったが、命中した数発の弾丸では撃破には至らなかった。
数種類あるバグズの機体の中で最も装甲の厚いローカスタは、当たり所によってはアレンが使っているような小口径の銃では破壊できないこともあるほど硬い。
「よーしよし、そこで大人しくしてろ……よっ!」
ブツブツと独り言を呟きながらスコープを操作するドミニクは、アレンを囲んでいた四機のローカスタのうちの一体に照準を合わせていた。
アレンのダーニングがローカスタから離れた直後にトリガーを引く。単発式の大型ライフルから放たれた弾丸は小型ミサイルを装備したローカスタに命中。
ミサイルの誘爆もあってかなり大きな火柱が立つ。その衝撃で一瞬動きを止めたローカスタとの距離を再び詰めたダーニングは、大上段に構えたブレードをローカスタに向かって振り下ろた。
叩き斬られたというよりは圧し潰されたような形でひしゃげたローカスタは火花を散らしながらも機銃をダーニングに向けたが、至近距離からマシンガンを連射されて今度こそ沈黙した。
残っていたローカスタは機銃をアレンのダーニングに向けて発射しつつ、十数発の小型ミサイルを一斉に発射した。
ライフルの弾倉を交換していたドミニクは警報を聞いて機体を巨大な岩の陰へ逃げ込ませ、突如目標を見失ったミサイル群は大岩に直撃。小さく砕けた岩の欠片がドミニクのダーニングに降り注いで乾いた音を立てた。
「おっと、今のはなかなか……どうなってんだ、全然減らないぞ!」
ダーニングは大岩の陰に身を隠しつつ、ライフルを二連射する。最初の一発は外れたものの二発目はしっかりと命中させた。
ローカスタが爆炎の中に消えると、その後すぐに目標を変える。アレンのダーニングの背後にいたローカスタに銃口を向け、すぐに引き金を引く。
「そうだな」
ドミニクの言う通り、先ほどから戦っている集団がまだ残っているにも関わらず、レーダーの端には後続と思われるローカスタの群れが映っている。
「お前たち、そっちは大丈夫か」
ローカスタの集中砲火を避けて、アレンもドミニクがいる大岩の陰へ機体を回り込ませる。ちょうどその時、ロジャーから通信が入った。
「今はまだ対処可能だ」
「この数、ラボのついでに攻撃してきてるってレベルじゃねぇぞ。援軍まわしてもらえないのか?」
「ラボにもかなりのバグズが出ているみたいだ。あっちからは無理だな」
「『ラボからは』?……まさか」
珍しくアレンが少し大きな声を出した。そしてロジャーの返事にはその心労ゆえに溜め息が混ざる。
「あぁ、坊主たちだ」
ダーニング
ディアナ社製の第二世代型アイメンドール(ID)。全高は九メートル。
他社のID同様、脚部にホイールがついておりアイススケートのステップに近い挙動をする。DBSーP01をはじめとするテルス産のアームドウェアと比較すると、機動力では分があるものの運動性でやや劣る。
開発コンセプトは「いかなる環境でも高水準の性能を発揮する機体」。しかしその分コストが割高になってしまい、連盟軍の正式採用機の座をソール重工の「オーべディー」に奪われてしまった。
負けたとはいえコンペティションで高い評価を得たことは事実で、デバッカーの中には好んで使用する者も少なくない。純正品の装備も存在するが、規格が共通なので他社のID用銃火器も使用可能。
接近戦に持ち込めるダッシュ力を得るために、アレン機の足回りにはロジャーによって改造が施されている。一般機よりも高い加速力を得た反面バッテリー消費が激しくなってしまい、外付けの予備バッテリーを積んでいる。
ドミニク機は追加装甲以外は特に手を加えていない。性能は一般機と変わらないので、扱いやすく整備に手のかからないのが利点。