「マジなんだよ」
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
やっとこさ4章終了です!
いよいよ物語も中盤にさしかか……るのか?
またお付き合いいただければ幸いです。
ご意見ご感想、ブクマに評価、夏目漱石から福沢諭吉まで、何でもお待ちしておりますm(_ _)m
「お帰り、竜成」
「おう、ただいま。一件落着だな」
エレベーターを降りた竜成が、ニッと笑って右手を挙げる。その意味に気付いた薫は、微笑み返しながら自身の右手を竜成の手に合わせた。ユウキとウィスが薫に倣って手を挙げると、竜成はそのまま続けて二人とハイタッチしていく。
「ほぼ無傷で帰還とは、さすがじゃな」
「まぁ素人パイロット相手なら……ってそうじゃねぇ! 博士、いろいろ聞かせてもらうぜ」
「えぇ、本当に今なの? ぐずぐずしてると点呼に間に合わなくなるわよ」
思い出したように双葉博士に詰め寄る竜成を尻目に、少し呆れ気味な表情で薫は自分の腕時計に目をやった。
研究所まで戻ってくるのにかかった時間を考えれば手遅れというわけではないが、ゆっくりしている余裕があるわけでも決してない。
「そう、それだよ! 俺たち、どうやって京都まで行くんだ?」
「ウィングダイナーで運ぶ。本来の巡航速度で飛べば、ものの数分だ」
背後から聞こえてきた男の声に、竜成と薫は同時に振り返った。そこにはヘルメットを小脇に抱えた男が立っていた。歳はユウキと同じくらいだろうか、黒髪を撫で付けたように固めている。険しい表情は細身の長身と相まってなお鋭い印象を与える。
「あんた誰……ん? どっかで見たことあるような」
「会ったばかりの年上の相手をあんた呼ばわり、先生が見たら悲しまれるぞ」
「親の仇みたいに睨んでくる人に言われたくないぜ」
「このバカ! さっき助けてくれたロボットの人と同じ声でしょ!」
薫が竜成の後頭部をペシッと叩き、半ば無理矢理に頭を下げさせる。
「この顔が素だ。気にするな」
「君も愛想笑いというのを覚えた方がよいぞ。竜成、彼は丹羽くんじゃ。彼は大野の教え子の中で一番優秀じゃったぞ」
「親父の? そうか、写真のーー」
前に見た父親の部屋に飾られていた写真の中に、彼の顔があったのを思い出す。
「丹羽翔士だ。これからよろしく、なんて言うつもりはないから安心しろ」
「おっ、そりゃ分かりやすくていいな」
竜成と翔士の視線が火花を散らさんばかりにぶつかり合う。ふと翔士が竜成の方へ歩み寄り、耳元に口を寄せて小声で言った。
「俺とウィングダイナーが揃った今、もうお前が戦う必要はない」
「ちょっと待て! どういう意味だよ!」
翔士の言葉に竜成が食ってかかったが、当の本人はくるりと踵を返してさっさと歩き出してしまった。
「二人は一緒に来い。京都へ連れていく」
「あ、ありがとうございます。ウィスさんたちは?」
「ここに残る」
ウィスが物足りなさそうに答えた。もう少し一緒にいられるだろうと思っていた薫の表情が驚きで曇る。
「今日はもう観光どころじゃないだろうからね。このままこっちにいることにしたんだ」
「そう、ですか……」
「双葉さんたちが帰るまではここにいるから、また明後日会えるよ」
機嫌をとるようにユウキが言うと薫もしぶしぶ納得したようで、「俺はあいつの世話になんかならねぇ!」とわめく竜成の首根っこを掴んで引っ張りながら翔士の後をついていった。
二日後、竜成と薫が息を切らして帰ってきたのは夕方のことだった。双葉博士が車で迎えに行き、家には寄らず学校から直接研究所に来た二人が作業場へ向かう。そこには、出発の支度を整えたユウキとウィスの姿がまだあった。
「間に合った~」
修学旅行最終日の予定は、ほとんどが移動だった。とはいえ、長時間座っているだけもそこそこ疲れるうえに、連日の睡眠不足もそこに重なり、竜成も薫も顔に疲労の色を滲ませている。
「わざわざ急いでくれてありがとう。ちゃんと二人の顔も見られたし、僕らもそろそろ行こうか」
「え~、もう行っちゃうのかよ」
気持ちは竜成と同じらしく、一緒になって残念そうな表情をする薫に、ユウキは苦笑いしながら「ごめんね」と謝った。
「あのシステムを無視すると、この辺り一帯が消し飛んじゃうらしいからね」
「げ、マジで?」
「マジなんだよ」
「どういう仕組みなんじゃ?」
「僕も詳しいことは……操縦以外はからっきしでして」
頷き合う男たちを余所に、薫はウィスに紙袋を手渡した。受け取った紙袋は重いというほどではなく、開いた口から包装された平たい箱が二つ見える。
「お土産です。生八つ橋、美味しいんですよ」
「嬉しい」
表情はほとんど動いていなかったが、ウィスにとってはこれが普通であり、また彼女がお世辞などを言わないことも既に薫は理解している。ウィスが傍らに置いてあるキャリーバッグに紙袋を仕舞おうとしているのを見て、常に手ぶらなウィスの姿しか記憶にない薫は、はてと小首を傾げた。
「ウィスさんってそんなバッグ持ってましたっけ?」
「昨日、博士に貰った。荷物がいろいろ増えたから。服とか」
「じゃあ、これはそっちの方がいいかな」
薫がバッグに何かを結びつける。ウィスが覗き込むと、バッグの取っ手に真っ赤な御守りがぶら下がっていた。
「旅行の安全を祈るものなんですよ。無事にウィスさんやシンドウさんの世界に帰れるようにって」
「わたしは、テルスよりも薫やアリスがいる世界の方がいい」
少し俯きながら寂しそうにウィスが言う。そんな彼女の手を取り、薫は両手で握りしめた。
「用事を全部片付けてから、ゆっくり来ればいいじゃないですか。私たちがドクトルτを捕まえても、異世界から侵略されるかもってなったら安心して遊びに行けませんよ?」
薫がニコッと笑うのを見て、やがてウィスは黙って頷いた。
ユウキは先にパルチザンに乗って起動させる。キャリーバッグを持ったまま昇降機を使うのは危ないということで、ユウキはパルチザンを跪かせると右手にウィスを乗せてコクピットまで運んだ。
向こうで手を振る竜成とウィスに小さく手を振り返してから、パルチザンは音もなくその姿を消した。
端末に表示された、重量センサーが何も検知しなくなったことを知らせる通知をそっと削除して、双葉博士は部屋の電源を落とした。
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「ただいま、おじいちゃん」
「うむ、お帰り」
「ただいま、博士……なんて言うわけねぇだろ! この前のアイツはどこなんだ」
「ここにはおらんぞ。あやつには自分の工房があるからの」
「今日はやめとこうよ竜成。もう遅いし、ずっと移動で疲れたよ」
「そうじゃ。また戦闘になれば顔を合わせることもあるじゃろ」
「ふん……ほら、お土産」
「おぉすまんの。大野よ、あの小坊主がこんなにも気を遣えるようになっ……こら竜成! なんじゃこれは!」
「何って、八ッ橋だけど」
「これは生八ッ橋じゃ! 八ッ橋と言ったら焼いてあるもんじゃろうが!」
「知るか! 俺はシナモン苦手だからどっちにしたって食えねぇよ!」
「ニッキといわんか、ニッキと!」
「ホント元気なんだから。次回、異世界放浪機甲兵 継接のパルチザン第五章「作戦と過去と代償」。当然、私たちの出番はありません」
「今から買い直してくるんじゃ!」
「あの飛ぶやつに頼めよ!」
「ちなみに、私はどっちも大好きです」




