「……こっちに戻るためじゃ」
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「このプラーナの感覚は……光弾?」
「ピーシングネイルが命中すると、自動で展開するように術式を組んだ。『装甲に穴を開けるだけでは決定打にならないから』って、双葉博士からの依頼」
「なるほど」
ラプトルキングの尻尾が鞭のようにしなってパルチザンを襲う。不意打ち気味の一撃をシールドで受け流すと、ユウキはラプトルキングの背面、尻尾の付け根付近をマギアマグナムで撃ち抜いた。
「少し特殊な状況だけど、一応僕も軍に籍を置く身でね。相手が素人でも、敵を撃つのを躊躇ったりしない」
ターゲットスコープを合わせながら、眼鏡の奥でユウキの目が冷たく光る。次の瞬間、ラプトルキングの頭部が胴体から離れて、そのままジェットを噴射して空へと昇っていった。
「くそっ、くそっ! こんなところでやられるか! ボクは、ボクは天才なはずだろ!」
光学迷彩で隠れていたヒメルρが姿を現した。飛んできたラプトルキングの頭部をかすめ取るように捕まえると、ヒメルρはそのまま東に向かって飛んでいった。
「竜成の所へ行け、急げ!」
突然、聞き慣れない声がパルチザンのコクピットに響いた。知らない男の声にユウキは一瞬警戒心を強める。しかし、ひどく焦った調子に加えて竜成たちのことも心配だったので、すぐにパルチザンを山の向こうへと向かわせた。
竜成と薫は既に一緒にいて、境内の影からパルチザンに向かって手を振っている。ちょうど双葉博士からも通信が入ったので、竜成と薫は無事だということとラプトルキングを撃破したことを伝えた。
「合流したら二人をパルチザンに乗せてやってほしいんじゃ」
「ここから移動するんですか?」
パルチザンを砂利が敷かれている開けたところに着地させながら尋ねると、双葉博士から否定の言葉が返ってきた。
「研究所に戻ってもらうんじゃ。狭いじゃろうが、ほんの少しの時間だけ我慢してくれんか」
「それは構いませんが……竜成、こっちだ!」
ハッチを開いて竜成と薫に呼びかける。話は双葉博士から伝わっていたようで、二人はすぐに差し出されたパルチザンの手に乗った。
ユウキがパルチザンの手をコクピットの高さまで動かすと、ハッチをくぐって竜成と薫がコクピットに入ってきた。
「お邪魔します……で、いいのかしら?」
「ユウキさんユウキさん! さっきの、あのガンッて攻撃、どうなってんだよ!」
ゴウダイナーにも乗ったことのない薫は、おそるおそるパルチザンのコクピットに足を踏み入れた。対称的に、竜成は興奮気味にユウキに質問を投げかける。
「僕も詳しくは……ウィスは知ってたのか?」
「発条の弾性力とダイノニウム合金の形状記憶能力を活用した刺突武器」
続きを期待するユウキ、竜成、薫の三人だったが、ウィスからそれ以上の説明が出てこない。竜成は黙ってスマートフォンを取り出すと、双葉博士に話の流れを説明した。
「セラトストライクに使われておるダイノニウム合金は、ダイノエナジーに反応して形状が変化するよう加工されておったことはもう話したかの」
「あぁ。ゴウダイナーの修理中に聞いたぜ」
コホンと小さく咳払いをしてから、双葉博士がやや興奮気味に話を再開させる。
「内蔵したばねの軸にダイノエナジーを流して縮め、敵に接近したところでエナジーを切る。こうすると弾性力でピーシングネイルが射出される、というわけじゃ。光弾の術を低威力拡散状態で発射することでより破壊力を高めておるんじゃが、まぁその話はいいかの」
「全部言っちゃってるじゃない」
薫が呆れた顔でハァとため息をつく。
「それより博士、なんで俺たちをパルチザンに乗せたんだ?」
「……こっちに戻るためじゃ」
双葉博士が答えた瞬間、コクピットが衝撃で揺れて機体がわずかに傾いた。竜成はとっさに手を壁について体を支え、薫はウィスが腰掛けているシートにしがみついる。
「このまま運ぶ。少し揺れるぞ」
通信機から聞こえてきた先ほどの焦った声の主は、シールドを運んできた白い翼竜型ロボットのパイロットなのだろう。
ふとモニターに目をやると、戦闘中に何度か見たアンカーがパルチザンの両腕を掴んでいる。とりあえず敵ではないことに安堵していると、境内や周囲の木々がだんだんと下へ流れていく。
やがて上昇が止まり、今度は急な加速で体がシートに押し付けられた。竜成たちと合流した駅や一緒に歩いた土産物の店が並ぶ通りなど、京都の景色がぐんぐん後方へ過ぎ去っていった。
「二人とも、すまんの。もう一体を倒したら、すぐにでも京都へーー」
「まだいるのか!?」
楽しい旅行気分から一転してテンションが急降下していた竜成たちだったが、双葉博士からの通信を聞くなりすぐに表情が真剣なものへ変わった。
「つい数分前に国連軍から連絡が入ったんじゃ。研究所から北へ約十キロの地点にメタルリザードらしいものを発見したそうじゃ」
「おじいちゃん、そのメタルリザードって、もしかして人型で金色?」
「そう聞いておる。シンドウ君が撃破したラプトルキングとやらの同型機と見て間違いないじゃろう」
「ジルの野郎、せこい手ばっか使いやがって!」
竜成は無意識に握った拳を叩きつけそうになったが、寸前にここがパルチザンのコクピットだと思い出して手を止める。しかしその目に宿る怒りの色は、収まるどころかさらに鋭くなっているようだった。
「報告ではまだ動き出しておらんらしい。今までのメタルリザードと違って、操者が乗り込む必要がある設計なのかもしれんの」
「博士、ゴウダイナーの準備しといてくれよ」
「もう暖機しとる。なるべく急ぐんじゃぞ」
「それはこのロボット次第よ。パイロットって誰なの?」
「……その話はまた後で時間を取るとしようかの。わしは作業に戻らねばならんからな」
妙な間の後、双葉博士との通信は一方的に切られてしまった。心の中で「ウソだな」「ウソね」と言いながら竜成と薫はお互いを見やり、二人揃って無言で頷いた。
「ユウキさんは博士から何か聞いてない?」
「いや、僕もこの機体を見たのはさっきが初めてだ」
「ウィスさんは?」
薫の問いに、ウィスは首を横に振って答える。
「今回は何も聞かされてないまま巻き込まれたって感じだぜ」
「博士は二人に旅行を楽しんでほしかったんだよ。余計な心配をしながらじゃなく、心からね」
少し不満気な竜成を、博士の側に噛んでいたユウキは苦笑いしながらなだめる。




