「……舐めてると、墜とすぞ」
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風邪まであと四歩な気配に戦々恐々している楠たすくです。
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「くそっ! 何だよこれ!」
急に襲ってきた衝撃と直後に生じた凄まじいGに、ジルは数秒ほど混乱に陥った。しかしすぐにラプトルキングは右手でブースターを払い落として、山間部に着地した。
「完璧な計画だったのに! さっきのロボット、あれは……」
衝撃を感じた直後、視界の外れに灰色のロボットが映った気がする。山を越えて現れたパルチザンの姿、特にその大きさを見て、ジルは報告書にあったロボットのことを思い出した。
「ねぇユーキさん。それ、ホントに研究所のロボットじゃないんですか?」
「流石にバレてるな。この間ギスティロって人にもそう言っただろ」
ジルに言葉を返しながら「パルチザンと自分たちの存在を隠すように」と言っていた双葉博士の言葉が頭をよぎる。しかしよく考えてみると、ジルとは一緒に買い物をしただけで名前以上のことは知られていない。
ジルの口ぶりからギスティロなどと上手く連携が取れているとは思えなかったので、ジルであれば名前だけなら問題ないなと結論づけた。
「ユーキさんに構っている時間はないんだ。そんな小さいロボットはさっさと潰すからね」
ジルが「小さい」というだけあって、ラプトルキングは目測でパルチザンの倍近く大きい。ゴウダイナーと比べるとやや細身な印象を受ける。
全体のバランスを考えると手足は長め、おまけに尻尾を生やしていたりと、二本足で立っているものの完全に人型とは言い難いフォルムをしている。
全身は金色の装甲で覆われており、先端が円錐型になった身の丈と同じくらいのランスを手にしている。
「これでもだいぶ頭にきてるんだ。竜成ほどじゃないけどね……舐めてると、墜とすぞ」
スッとユウキの双眸が細くなり、声のトーンが下がる。グリップを握る手にも力が入り、親指をゆっくりとトリガーにかけたり離したりを繰り返す。
「僕がボルケンβとやりあったこと、知っているだろ」
「ふんっ! ボクのラプトルキングを、あんなポンコツと一緒にするな!」
ラプトルキングが木々を薙ぎ倒しながら山の斜面を駆け上がり、パルチザンとの距離を詰めにかかる。その巨体に反してラプトルキングの敏捷性は高い。
歩幅の大きさも相まって一気にパルチザンへ肉薄すると、高々と掲げたランスを勢いよく振り下ろす。飛び退いたパルチザンが元いた場所にあった木々は圧し潰され、尾根に巨大な窪みが出来てしまった。
パルチザンが跳躍しながらマギアマグナムを構え、立て続けに三発連続で光弾を放つ。ラプトルキングの尻尾が鞭のようにしなって光弾のうち二発を弾き、残る一発は薙ぎ払われたランスによって防がれてしまった。
「その銃、ダイノニウム合金を無力化させるってヤツだよね? この前の戦闘の時は出てこなかったし、いらないかなぁって思ったんだけど、念のため対策しておいて良かったよ」
「その対策、全身にしてあるわけじゃないよな。もししてあるなら、わざわざ防ぐ必要がない」
「たしかにその通りだよ。特殊加工はラプトルキングの尻尾とランスにしかやってない。だって、それだけで十分だからね!」
ラプトルキングの目が光り、直後に赤紫色の光線が降ってきた。山の斜面を駆け下りるように移動するパルチザンを光線が追ってくる。
走りながら機関銃で光弾を撃ってみたが、やはりほとんどがラプトルキングの尻尾に防がれてしまった。
「そんな豆鉄砲だったら、ちょっと被弾してもどうってことないね。それでも黙って当てさせてあげるほどボクは優しくないよ!」
ラプトルキングがランスを連続で突いてくる。ユウキはなんとか躱していたが、切っ先が地面を穿って次々に大穴を作っていく。
横目でクレーターを見るとゾッとする。右へ左へ避け続け、時にはテールバインダーを展開して飛び上がりながら的を絞らせないよう移動しながら、ラプトルキングの背面に回り込もうとする。
「甘い、甘いよユーキさん!」
パルチザンが背後を取っても、光弾は尻尾に阻まれてしまう。突然、防御に徹していた尻尾がパルチザンに向かって伸びてきた。
直撃こそ避けたものの、尻尾が左腕の機関銃をかすった。その衝撃でパルチザンは空中でバランスを崩し、あわや墜落しそうになりながらもなんとか着地に成功した。
「まだやる? ボクとしては竜成さえ始末できればそれでいいから、大人しく通してくれるならユーキさんは見逃してあげるよ」
「飲むと思うか?」
「やっぱりダメか~。早くしないと竜成がどっか行っちゃうんだけど……あ、また脅せばいいのか。街を焼き払う、とか言えばすぐ出てくるだろうしね。アハハハハハ!」
「シンドウ君、あと三十秒もたせるんじゃ」
ジルの高笑いにユウキがチッと舌打ちしたとき、通信機から双葉博士の声が突然聴こえてきた。
「三十秒、ですか?」
尋ねながらパルチザンを走らせ、山を越えようとするラプトルキングに再び攻勢をかける。