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異世界放浪機甲兵 継接のパルチザン  作者: 楠たすく
狡猾! 謀略の京都
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「お約束だよ、様式美なんだよ」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

半端者には生きにくい世の中ですが、ぼちぼち書き進めています。

ご意見ご感想、ブクマに評価、ペヤングから一平ちゃんまで、何でもお待ちしておりますm(_ _)m

「もうすぐ左手に広い敷地が見えると思うんですが……」

「あぁ、来たよ」


 ユウキの言葉を「着いた」という意味かと思った薫だったが、直後に響いたジェット音で間違っていることに気づいた。すぐにユウキとの通話を切り、ショートカットに入っている竜成の番号にかけ直す。


「なんだよ、この、忙しい時に」

「パルチザンが来たわ。もう少し頑張って」

「簡単に、言うなよ。こっちは、巨人と、鬼ごっこ中、だぞ!」


 息を切らしているものの、スピーカー越しの竜成の声からは精神的な余裕がさっきまでよりも感じられるような気がして、薫は聞こえないようにそっと息を吐いた。


「まだ元気じゃない。階段を過ぎたら右ね」

「ったく、とんだ修学旅行だぜ!」


 地面を滑るようにブレーキをかけ、鋭角になっているカーブを右に曲がる。ちらりと見上げると枝の隙間からラプトルキングの顔がこちらを向いているように見えて、竜成は再び走り出した。




 轟音を響かせて突然空中に姿を表したパルチザンはジェットを噴射させながら、ゆっくりと車が全くない駐車場に降り立った。


 ラプトルキングから逃げてきた人たちに顔を見られないよう、ユウキとウィスは素早くコクピットに潜り込む。


「こちらシンドウ、搭乗しました」

「ブースターを遠隔操作できるようにしておいて正解だったようじゃな。このまま敵を清水(きよみず)に置いておくわけにはいかん。わしの言う通りに飛ぶんじゃ」


 双葉博士の声に耳を傾けながら、パルチザンの起動準備を進めていく。


「了解です。ウィス、ダイノエナジーの残量は?」

「あと十三パーセント」

「少ないな。プラーナエクステンションはとりあえず緊急モードだ。すぐに出るぞ」


 真ん中のペダルを一気に踏み込む。パルチザンを指差していた野次馬たちは、突然生じた強風から顔を守ろうと両手を掲げている。


 ユウキは装置を作動させてパルチザンの姿を消すと、ラプトルキングの位置を確認して方向転換して更にブースターを吹かせた。




「な~んか面倒くさくなってきたなぁ」


 木々をなぎ倒しながら竜成を追いかけていたラプトルキングが、突然ぴたりと立ち止まった。次の瞬間、ラプトルキングの頭部、恐竜の目の部分から赤紫の光線が放たれる。


 光線は竜成がいる所のすぐ近く、先ほど通り過ぎた階段の周り直径五メートルほどを吹き飛ばした。背後から襲ってきた衝撃波に押されて、竜成はバランスを崩して危うく転びそうになった。


「ねぇ竜成、これ、威力最大で街に撃っていい?」

「はぁっ!?」


 外部音声でジルが気怠げに話しかけてくる。ズシャっと砂を踏んで立ち止まった竜成は、木の幹の裏に身を寄せてラプトルキングの様子を伺う。


「こっちは大きいんだから森の中歩くの大変なんだよ。それなのにずっと影に隠れて逃げ回って、なんかズルくない?」

「何言ってんだアイツ」

「さっき撃った所まで来てよ竜成。じゃないとボク、駅とか撃っちゃうかも。あ、たしか薫さんはまだ敷地内にいるよね? この辺の木を引っこ抜いて、片っ端から御堂に投げてみようかな~。じゃあ十までね。(アン)(ドゥー)……」

「っ! あんの野郎……!」


 ゆっくりと溜めながら、ジルがカウントを進める。竜成は意を決して一歩一歩来た道を戻っていく。


「ダメだよ竜成! 竜ーー」


 竜成は薫の制止を聞かずに通話を切った。光線が撃ち抜いたところから陽が差し込んで、黒く焦げた地面を照らし出している。


「七(セぇ~ット)、八(ユイ~ット)……全く、全然分かってないな~竜成は。ヒーローだったらここは(ディス)の直前に出て来なきゃ。お約束だよ、様式美なんだよ」

「知るか、そんなもん。俺は『ただの高校生』なんだろ」


 木陰に覆われた森で、スポットライトのように指す陽の光の中に竜成が立つ。モニター越しに竜成の姿を見たジルは、コクピットで一人歪んだ笑みを浮かべながらレバーを握り直した。


「君に恨みはないけど、飽きちゃったからもう終わりだよ。最後だから決めていいよ。光線に消し飛ばされるか、それとも踏み潰されるかね」

「ちっ、どっちも御免だ」

「そんなワガママだめだよ。一緒に買い物したのはホントに楽しかったよ。じゃあね、竜成!」


 ラプトルキングがゆっくりと右足を上げる。次の瞬間、金属と金属が衝突する甲高い音が辺りに響いた。直後にパルチザンが突然空中に現れ、ラプトルキングがくの字に体勢を崩した。


「なんだコイツっ!」

「やれ、ウィス!」

「パージ」


 ユウキの合図でウィスがボタンを押すと、ラプトルキングにぶつかってもなお噴射を続ける長距離移動用ブースターがパルチザンから分離した。ブースターに押されて飛んでいくラプトルキングは、そのまま山頂の向こうへ消えていった。


「プラーナエクステンションを通常モードで再スタート。(ジル)を追撃する、双葉さんにそう連絡しておいてくれ」

「分かった」


 テールバインダーを展開して、跳躍の補助になる程度にスラスターを吹かす。モニターに竜成の姿が映っているのを確認すると、パルチザンは地面を蹴って大きく跳び上がり山間(やまあい)を目指した。

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