「君に会いに、ね」
お久しぶりです。
精神的な余裕がなく、ストックはあったのに更新していなかった屑タスクです。
こういう時のためのストックだったのに、まったく俺は何をしているのやら……
またよろしくお願いしますm(_ _)m
「派手」
「感想が見たままだな。ここは宮殿、なのか?」
巨大な門に施された装飾にユウキはほうと息を漏らした。目の前の建造物が何なのかはよく分かっていなかったが、ウィスもユウキと共に興味深そうに門を見上げている。
「えっと、ここは神様を祀っている所でーー」
「適当なこと言っちゃダメでしょ。ここはお寺なんだから仏様……あ、観音様だって」
「何が違うんだよ。だいたい、異世界に仏教なんてあるか分かんねぇだろ」
その辺りのことに関心が全くないらしく、竜成はパックリと口を開けた狛犬を覗き込みながら思いつきで話す。一方真面目な薫は、事前にどこかで入手したであろうパンフレットを目で追いかけている。
「たしかに神と言われた方が、僕としてはイメージしやすいね」
「……な?」
「ふ、双葉さんの正確な情報もありがたいよ。知らないことばかりだから勉強になるし」
勝ち誇った様子の竜成がニヤリと笑いながら振り向けば、薫は目を細めて拗ねた表情を返す。慌ててフォローを入れるユウキだったが、その時には既に竜成が門をくぐって先まで行っていた。
「早く行こうぜ。目的地はもっと先だろ」
「この坂を上るの?」
「そうッスよ。舞台までは十分くらいかかるって書いてあったかな」
「舞台?」
竜成の言葉に興味が引かれたのか、ウィスが思いのほか早足で参道を歩いていく。ユウキたちもウィスを見失わない程度のペースを維持しつつ、立ち並ぶ御堂を鑑賞しながら境内を進んでいった。
「あれが舞台か」
「正確には本堂ですけどね。伝統的な劇なんかを奉納してたみたいですね」
「すごい柱だな。パルチザン並みに高い」
根元に立つと、ほぼ垂直に見上げなければ柱の先を見ることができない。立ち並ぶ柱の高さと本数に、ユウキは感嘆の表情を浮かべている。
「あっちにも人がいる」
「音羽の滝ですね。後で行きましょう」
本堂に入ってから少し歩き、再び外に出てきた。朱色の門をくぐってからここに来るまでに見えた御堂、竜成たちと合流した駅の周りに建っていたビル群、緑が深まりつつある周囲の山々まで、街中を一望できるような景色が広がっている。
「これは、圧巻だな」
「清水の舞台から飛び降りるってのはここだよな?」
縁から下を覗き込むと、高さのせいかさっき柱を仰ぎ見た場所がはるか下のように感じられる。ユウキの隣に来て下を見た竜成は、背中にざわざわくるような身震いを一つして縁から離れた。
「なぜ飛び降りるの?」
「それはあくまで表現で、かなりの覚悟を決めて何かをするときに使うんです」
薫に尋ねながらユウキたちと同じく下を覗いたウィスは、ものの数秒で顔を引っ込めてしまった。相変わらずの無表情を装っているものの、よく見るといつもより三割増しで表情が固い気もする。
「もちろん実際に飛び降りた人もいるけどね。死亡率二〇パーセント未満らしいから、意外と生きてるよね」
聞き覚えのある声に振り返れば、数日前シンジュクを一緒にまわった金髪の少年が立っていた。
「ジル!?」
「こんにちは竜成。皆さんも」
「お前、何でこんなとこにいるんだ? 明日には帰るって、この間言ってただろ」
少し驚いているものの、嬉しそうに竜成がジルの方へ歩み寄る。前に会った時と同じようにジルは微笑んでいるのだが、ユウキは何故かそれに違和感を覚えて、小さく首を傾げた。
「昨日出国したよ。で、また来たんだ。君に会いに、ね」
「竜成ダメ!」
今まで聞いたことのないウィスの大声にユウキが反応した。とっさに制服の襟首を掴み、竜成を引き寄せる。直後、ヒュッと空気を裂く音と共に何かが竜成の鼻先を通り過ぎた。
「あれ、残念」
「……へ?」
いつの間にかジルの手には警棒が握られている。竜成は呆然としながら、太陽を反射して鈍く光る警棒の先端とまるで貼りつけたかのようなジルの笑顔へ交互に目をやった。
「まさか気取られるとは。ウィスさんはなかなか鋭いね」
「どういうことだ、ジル!」
「どうもこうも、見た通りだよ。ボクは君に会いに、殺しに来た。それだけ」
竜成がジルを睨みつける。薫はまだ状況を飲み込みきれていないのか、竜成の後ろで立ちすくみながらウィスの袖をぎゅっと握っている。
騒ぎに気付いた観光客が、何事かとこちらを遠巻きに見つめている。そんな中でも、つい数日前に一緒に服を選んでいるときと同じ口調で、同じ笑顔で、ジルは言葉を続ける。
「君は戦士としての自覚が無いんだよ。緊張感の欠如、とも言えるね」
「お前、ギスティロの仲間なのか」
「仲間? ハハハハ、まさか」
腹を抱えて笑いながらも、ジルの瞳はギラギラと輝いている。そこに人懐こいあの笑顔はもう貼り付いていない。
「どうやら想像力も足りないらしいね。ボクは天才なんだ、あんな凡夫と並べないでくれるかな。ま、ドクトルτはさすがだったけどね。ボクの才能にすぐ気が付いたよ」
「奴を知ってるのか!」
「少し前に会いに行ったんだ。ボクにかかれば、あんなのは隠してるうちに入らないからね」
ジルは警棒を無造作に放り投げるとゆっくり歩きだした。ユウキと竜成は、ジルが少しでも近づこうとする素振りを見せたら応戦しようと身構える。
しかしジルは一定の距離を保ったまま、ユウキたちを避けて迂回するように舞台の縁まで歩を進めていった。
「奴はどこにいる!」
「頭使いなよ。そんなの、教えるわけないじゃん」
小馬鹿にするように笑いながら、ジルは身軽に柵の上へ飛び乗るとくるりと振り返った。周囲のざわめきの中に、小さく悲鳴が混じる。
「ドクトルは言ったんだ。君を倒せば、あの施設を今までの研究データごと全部ボクにくれるってね。だから、大人しく殺されてよ」




