「本当に、彼らで大丈夫なんですか?」
ここまで読んでくださりありがとうございます!
「そんな状況で旅行に行かせて良かったんですか」
「ゴウダイナーのパイロットなんぞしておるが、竜成も薫もただの高校生じゃ。大人として、せめて日常くらいは守ってやりたくての」
「分かりました、出来る限りのことはします。ウィスもそれでいいか?」
ウィスが力強く頷く。昨日の何か思い悩んでいるような表情は消えていて、ユウキは内心ホッとしていた。
翌日のまだ薄暗い早朝、密かに開いた研究所の発進ゲートから現れたパルチザンのシルエットは、人型とはかけ離れたものに変わっていた。
計四機のエネルギータンクに挟まれたその姿は、人形の両腕をもいだ子どもが代わりにロケットの玩具を取り付けたように、見た目のバランスが悪い。
「こちらシンドウ、いつでも出られます」
「そんなに緊張せんでよいぞ。何かあると決まったわけではないからの」
「そうですね。分かりました、楽しんできます」
双葉博士がカウントダウンを始めたのを聞いて、ユウキは真ん中のペダルをわずかに踏み込んだ。両腕のブースターに火が入り、巻き上がる風で周囲の草木が揺れ始める。
続いてトリガーに指をかけた。いつもならば機関銃が発射されるのだが、今は光学迷彩のスイッチに切り替わっている。
両肩に取り付けられた装置の周りから徐々にパルチザンが消えていき、ものの十秒でその姿は完全に消えてしまった。周囲の物はブースターから吹き出す炎にあおられている。
しかし、透過したパルチザンがいる空間だけが切り取ったように凪いでいるように見えて、少し違和感のある光景が広がっている。
「これからすごいGがかかるぞ。ちゃんと呼吸するんだぞ」
「分かった」
「目的地は?」
「確認済み」
「ナビゲーション頼む。ーー行くぞ」
ペダルをさらに踏み込む。機体の振動が一気に大きくなり、シートにのめり込んでいるのではないかと錯覚してしまうほどに体が押さえつけられた。
あまりのGに思わず目を瞑ったが、だんだん慣れてきてユウキは薄っすらと目を開けてみる。夜の闇に包まれた街に灯った数えきれないほどの光が、ゆっくりと眼下を流れていた。
「……行きましたか」
「うむ、無事飛び立ったぞ。ブースターの調整も完璧じゃ」
いつの間にか、双葉博士以外には誰もいないはずの司令室にもう一つ人影が浮かんでいた。司令室の明かりはほとんど点いておらず、双葉博士がいるデスクの周りだけがモニターの光でぼんやりと照らされている。
双葉博士は発進ゲートを閉じる作業をしながら、振り返ることもなく声の主と会話を続けた。
「本当に、彼らで大丈夫なんですか?」
「前回の戦闘データは見せたじゃろう。人格的にも信頼できる青年じゃ」
「アレさえ間に合っていれば……」
鋭い眼光が特徴的な黒髪の男で、歳はユウキと同じくらいだろうか。彼がギリッと歯を食いしばっているのを見て、双葉博士は困ったようにやれやれと頭を振った。
しかしその表情は呆れているようなものではなく、むしろ微笑んでいるように見える。
「パルチザンから得られたデータと今日の実験結果を反映させれば、燃料に気兼ねすることなく運用できるようになるはずじゃ。君の出番はもうすぐじゃよ」
「はい教授。作業に戻ります」
「うむ。あまり根を詰め過ぎんようにするんじゃぞ」
司令室を出ていく男を見送ってから、双葉博士はモニターに向き直る。画面にはパルチザンの位置情報やエネルギー残量、そして新たなロボットの設計図が映し出されていた。
「お、いたいた。ユウキさーん!」
駅から出てきた制服姿の竜成がユウキとウィスを見つけて手を振る。人混みの向こうからユウキが手を振り返すのを見て、竜成は薫を連れて二人の所まで小走りでやってきた。
「おはようございます、シンドウさん、ウィスさん。結構待ちましたか?」
「双葉さんたちは団体行動だったんだから、気にしないで」
「散歩してた」
既にウィスの手には道中で買ったらしき「緑茶」と書かれた小さな土産袋が下がっている。荷物になるからと言ってウィスから袋を受け取った薫は、それを自分のバッグの中にしまった。
「博士が言ってたんだけど、パルチザンで来たんだろ? どこに置いてあるんだ?」
「学校だよ。博士の知り合いがそこの偉い人なんだけど、今日はソーリツキネンとかなんとかで誰もいないらしいんだ。そこの校庭に置かせてもらってるよ」
周囲に気を配りながら、竜成がユウキに耳打ちした。同じようにユウキも辺りをきょろきょろと見渡してから小声で答える。
「いくら誰もいないって言ったって、ロボットが置いてあったら騒ぎになるだろ」
「それも大丈夫。コーガクメーサイを作動してあるから」
「迷彩? あぁ、そういや最近、博士がなんか作ってたっけ」
「二人で何こそこそ話してるの。早く行こっ」
既に少し先まで歩いていた薫に呼ばれて、ユウキと竜成はその後を追いかけた。平日なのでそれほど多くはないが、それでも通りには観光客らしき人たちがあちらこちらに見られる。
だんだん増えていくお土産屋さんに目を引かれながら人の流れに乗って歩いていくと、やがて朱色に塗られた門が姿を現した。




