「少佐だった」
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
コンビニもすっかりクリスマスモードです。
どこへ行ってもMPを削られる時期になってきましたね……
「ジルのこと、考えてるのか?」
窓に流れる景色から目を離さずにウィスがこくりと頷く。一目惚れ? いや、まさかな……などと考えていると、ウィスが不意に口を開いた。
「思い出してた」
「……何を?」
「ジルの目。見たことがあった」
知っている人物の中に青い瞳の者がいたのだろうか、とユウキも記憶を掘り起こしてみる。
「少佐だった」
「少佐って、ガルティエ少佐か?」
再びウィスが縦に首を振った。しかし、資料で見たガルティエの目は宝石のような赤だった。そう言おうとして、ユウキは口をつぐむ。
「それは……どんな時だ」
「勲章をたくさん付けた人と話していた時」
それ以上ウィスは何も言わなかった。直接の面識のないユウキには、ガルティエがどんな目をしていたのか想像すらできない。しかし、ジルの目つきがウィスの中で引っかかったのは確かなのだろう。
元の位置にすっと戻ったユウキは、薫に「昔のことを思い出してたみたいだ」と小声で伝える。薫はホッとした様子だったが、ユウキは口を一文字に結んでいるウィスの横顔をずっと気にかけていた。
「じゃ、行ってきまーす!」
「楽しんでくるんじゃぞ」
翌朝、いつもより一時間早く竜成と薫は既に出かける用意を整えて玄関にいた。二泊三日の修学旅行へ向かう二人は、学校からバスと新幹線を使って京都へ行くことになっている。
口では「もっと他の場所が良かった」と言っていた竜成も、いざ当日になってみるとテンションが高い。
「シンドウさん、あっちに着いたら連絡ください。ウィスさん、また明日!」
「また明日、一〇時に」
普段の通学用かばんではなくボストンバッグを下げた薫が手をブンブン振ると、ウィスは手を小さく挙げてひらひらと振ってみせた。
次元穿孔システムが作動するまでまだ数日あるという話をしたところ、せっかくなので観光に行ってみてはどうかと双葉博士に勧められたユウキは、ウィスと共に一日遅れで竜成たちの後を追うことになった。
「ほら。それ貸せ」
「えっ、大丈夫だよ」
「いいから。筋トレの代わりだ」
玄関が閉まる直前、竜成が薫からボストンバッグを半ば強制的に奪うと、自分のボストンバッグをかけていない方の肩に担いでいた。見送りにと起きてきていたユウキたちは、朝の支度を済ませるために各々の部屋へ帰っていった。
「パルチザンも京都へ持っていくんですか?」
場所は秘密の作業場、そのコントロールルーム。二度寝から起きて研究所へやってきたユウキは、双葉博士から翌日の予定を知らされて思わず聞き返した。
「うむ。今日はそのための準備をする予定じゃ。取り外し可能な移動用モジュールの設置作業じゃ」
「何なりとお手伝いさせていただきます」
「では早速、工作の時間じゃ」
双葉博士がニヤリと笑いながらいくつかのボタンを押した。壁面のアームが同時に動き始め、パルチザンの全身にあれこれとパーツを取り付けていく。
「えっと、博士。これは一体……」
「設計図自体は何日か前に出来上がっておったんじゃがな、これでも一応そこそこ忙しい身での。今週末にでも試作して実験しようと思っとった装備じゃ。光学迷彩、と言って理解出来るかの?」
「こう、がく?」
眉間にしわを寄せてユウキが首をひねる。ウィスに目を向けてみたが、同じように首を傾げていた。
「お前さんたちの世界のようなファンタジーな所には存在せんじゃろうな。ボルケンβを回収していった空飛ぶメタルリザードがおったじゃろう」
「あの鳥みたいなやつですね」
「うむ。あのロボットは空中で姿を消したじゃろう。あれは光だけでなく音も遮断する特殊フィールドでロボットを包んでおるんじゃ。当然、ダイノエナジーの消費量も膨大じゃがの。あれと同等のフィールドを形成する装置を今からパルチザンに装着するんじゃ」
「おぉ!」
ユウキは素直に感動しているが、ウィスの方はまだ腑に落ちないといった顔をしている。
「両腕からのダイノエナジーで間に合うの?」
「良いところに気付いたのウィスくん。当然、足らん」
すっぱりと言い切る双葉博士に、輝いていたユウキの顔が一瞬にして凍りついた。
「そこで、こいつじゃ」
双葉博士が別の図面を表示させた。大型スラスターの上下に二機のタンクが設置してあるその装備は、図面によると、その装置はパルチザンの両腕に装着される予定になっている。
「あの、博士。これは戦闘中に邪魔になるのでは?」
「これは長距離移動用ブースターじゃからの。使い切りとまでは言わんが、基本的には到着後にパージするもんなんじゃ」
「これだけの装備を用意してまでパルチザンを京都へ運ぶ理由は何なんですか?」
双葉博士の話を聞いたユウキが、怪訝そうな表情を浮かべ尋ねる。
「博士は前に、パルチザンはなるべく人目に付かないようにした方がいいと仰っていたと思うんですが」
「この装備はまだ試作段階での。その稼働実験というのが一点。もう一つの理由は、万が一の場合に護衛を頼みたいのじゃ」
双葉博士は深刻な面持ちでそう言うと、「護衛」という何やら不穏な単語にユウキの表情が引き締まった。
「竜成たちを狙う組織があるということですか? まさかドクトルτが?」
「そこまでは分かっておらん。ある筋から、竜成の身辺に不穏な動きあり、という情報が入っての。パルチザンは保険といったところじゃな」




