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異世界放浪機甲兵 継接のパルチザン  作者: 楠たすく
狡猾! 謀略の京都
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「普通だ」「普通です」

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます!

世の中、うまく回らんもんですハイ。

ご意見ご感想、ブクマに評価、なんでもお待ちしてますm(_ _)m

 ユウキは数十分ほど試着室に軟禁され、しばらくして白シャツと黒に近いグレーのカーゴパンツ、それと緑のベストを持ってレジに向かった。


「買い物に時間食うわけが分かったぜ」

「前にもあったのか?」


 本日二つ目の真理へとたどり着いた竜成は、げっそりした顔で手に持った店のロゴが入った袋に目を落とした。


「前に薫の買い物に付き合ったとき、すげー待たされたんだよ」

「女性のショッピングに付き合うことはジェントルマンの必須条件だよ、竜成。カオルというのは彼女?」

「か、彼女!? 違う違う、そんなんじゃない! 幼馴染というか、腐れ縁というか、相棒というか……」

「なるほどなるほど、大事な人なんだね」


 どうにも恥ずかしい表現ばかりが続いてこれも否定しそうになったが、下手な言い訳をすると更なる追撃がきそうな予感と妙に明るい表現で納得しているジルを見て、竜成はこれ以上なにも言わずに認めることにした。


「ボクも会ってみたかったな」

「薫に? 今から合流するけど、来るか?」

「いいの? なら、ボクがいい喫茶店へ案内するよ」


 それから三人は女性陣がいる店へと向かったのだが、ウィスと薫が入った店をうろ覚えだった竜成とユウキは、アーケード街を行ったり来たりするはめになった。


「こっちこっち~!」


 後方から声を掛けられて振り返ると、買い物袋を手に持った薫がこちらに手を振っている。そこは既に二度ほど通り過ぎた店だった。別れた時よりもメンバーが増えていることに気付いて、薫が小首を(かし)げる。


「竜成、そちらは?」

「ジル・フォレッツ。ジルって呼んで」

「さっき知り合って、ユウキさんの服選んでもらった」


 あっけらかんと言う竜成を見て、薫は「まったくもう……」とため息をついた。それからジルの方に向き直り、ぺこりと頭を下げる。


「すみません、見ず知らずの方に突然ご迷惑を」

「気にしないで。ボクも助けてもらったから。楽しいショッピングだったよ」

「薫、お前なんだかおかんっぽいぞ」

「誰があんたのお母さんよ! だいたい竜成は遠慮ってもんがね」


 二人でわーわーと言い合う様をジルは微笑みながら眺めている。一方のユウキはというと、ウィスの姿がないことを気にして辺りを見回していた。


「双葉さん、ウィスはまだ中?」

「え、あ、そうです。もうすぐ出てきますよ」


 現れたウィスは買ったばかり服に着替えていた。腰の部分をリボンで絞った若草色のロングワンピースに、長袖のベージュのカーディガンと、至ってシンプルな組み合わせになっている。素材がいいから派手にしない方がいいんですよ、と薫が自慢気に話す。


「うん、似合ってるよ。あれ? 靴も……」

「あ、気付きましたか! さすがシンドウさん。こういうちょっとした変化に気付けるのが大事なんだよ」

「どーせ俺は分からねぇよ」


 ウィスの足元を見ると、黒地に白い紐が通ったカジュアルなスニーカーになっている。竜成は自分の記憶をたどっていき、どうにか来た時は革靴を履いてたことを思い出す。


「仲がいいんだね」

「普通だ」「普通です」


 声を揃えて反応する竜成と薫を面白そうに見ながら、ジルは四人を先導して喫茶店へと案内する。アーケード街から歩いて十数分のところにあった喫茶店は一、二階が店舗になった赤レンガ風の外壁で、席もほとんどが埋まっていた。


「ここのホットサンドは絶品なんだ。帰る前にもう一度来ようと思ってたから、ちょうど良かったよ」

「じゃあ俺もそれに食おうかな。ジルはいつ帰るんだ?」

「明日だよ」


 店内に通されると、ウィスがすっと奥の席に座る。結果、ウィスの隣には薫、対面にユウキ、その隣に竜成とジルという順で並ぶこととなった。


「明日か~。俺たちは明日から修学旅行で京都だぜ。どうせなら沖縄とか、もっと楽しいとこが良かったけどな」

「いいじゃない、京都。ボクも今度行きたいな」


 竜成とジルはこの短時間でかなり打ち解けたようで、会話も弾んでいて終始笑いが絶えなかった。ユウキはいつにも増してウィスが静かなことを気にしていたが、それをこの場で尋ねるのは止めて話を合わせていた。

 日もだいぶ傾いた頃、名残惜しそうに何度も振り返りながら手を振るジルと別れて、四人は帰りの電車に乗り込んだ。


「ウィスさん、あまり気に入らなかったんでしょうか」


 ユウキにだけ聞こえる程度の小声で薫が言った。まだ本格的に混む前の時間帯だったが、座席は全て埋まっている。竜成は立ったまま器用に舟をこいでいて、ウィスは茜色に染まった高層ビルをじっと見つめていた。


「いや、そういうわけじゃないと思うよ」


 不安そうな表情の薫に微笑みかけてから、ユウキは手の動きで「自分がいってみる」と伝える。一歩近づき、名前を読んで軽く肩を叩く。ゆっくりとウィスが振り向いた。


「その服、自分で選んだのか?」


 ふるふると首を揺らしてウィスが答える。


「双葉さんか。やっぱり組み合わせが上手いな」

「……いい」


 薫にも聞こえるよう普通の声量で言ってみる。考えていることがほとんど表情に出ないウィスの感情を読み取ることは難しいが、この話ではないとユウキは判断した。


「僕のはジルに選んでもらった、よ」


 ユウキが話している最中からウィスの顔がさっきまでの無表情に戻った。何が違うのかはよく分からないが、服や薫の話をしているときよりも「固い」無表情な気がする。

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