「オノボリ?」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
歯医者でゴリゴリ削られて、わけもなく疲れた楠たすくです(-_-)
ご意見ご感想にブクマや評価、ジョーカーからエクストリームまで、何でもお待ちしてます!
「ワシが出掛ける時に合わせるなら駅まで送ってやろう」
「いいの? ありがとう、おじいちゃん」
朝食を済ませてから、四人は双葉博士の運転するバンに乗り込んだ。ユウキとウィスはいつもの軍服だが、上着は置いてきたので少々お固い雰囲気ぐらいの枠内に収まっている。
竜成は普段からファッションに気を使う方ではないのだろう、白のパーカーにジーンズというラフな格好をしている。
「ずいぶん決めてきたな。どうしたんだよ」
「べ、別にどうもしないわよ。今日はこういう気分だっただけよ」
竜成から問われた薫が、なぜか顔を赤らめながらしどろもどろと答える。フリルが印象的なブラウスの胸元には水色のリボンが添えられている。真っ赤なホットパンツから大胆に脚を出し、いつもは下ろしている髪を今日は高めで結ってポニーテールにしている。
「薫の服、いい」
「ありがとうウィスさん。かわいいの、選びましょうね。ウィスさんはスタイルもいいから何を着ても似合いそうですよね」
「ワシはまたパルチザンを見せてもらうぞ。昨日はあまりじっくり調べる時間もなかったからの」
女性陣が後部座席でキャッキャと楽しそうに話している。賑やかかつ華やかな彼女たちとはまた違う方向に、双葉博士のテンションが上がっていた。
「余計なことして壊すなよ、博士」
「ふん、そういうのを釈迦に説法というんじゃ」
「そうだよ竜成。どこの世界でも、本職の技術者はすごいから」
「そういうことじゃ。勝手に改造したりはせんから、存分に羽を伸ばしてくるんじゃな」
念のため、今は特に不具合はないことやアリスによって増設されたテールバインダーとホイールのことを伝えていると、やがてバンは駅に到着した。
薫が下車する直前に「シンドウ君たちの分じゃ」と言って数枚のお札を握らせると、双葉博士は研究所に向けて車を出発させた。
一度の乗り換えを挟み、電車に揺られること一時間。進むに連れてどんどん高層ビルが増えていく車窓からの景色に、ユウキの目はずっと釘付けだった。
シンジュク駅の改札を抜けると、眼前に広がる一面の人工建築物に、ユウキだけでなくウィスもせわしなく周囲を見渡している。
「ラボと違う」
「そうだな。どちらかといえばオーランドに近いか」
「おーいユウキさん。そんなにきょろきょろしてたらお上りさん丸出しだぜ」
「オノボリ?」
薫に先導で通りを歩く。スマートフォンで道を確認しながら歩くこと十数分、かなりの賑わいをみせる店の通りを挟んだ反対側で四人は立ち止まった。
「あれは……」
店から出てくる客の手にあるもの、その色とりどりの華やかな紙袋には見覚えがあった。ふと視線をずらすと、ショーウィンドウの上にアルファベットで「ラディレ」と表記されている。
通りを渡りショーウィンドウを覗き込むと、目立つ所に限定や新作と書かれた商品が置かれている。その中身は、昨晩双葉博士の家で皆で食べたドミニクからのプレゼントと全く同じものだった。
「ね? 本当に一緒だったでしょ」
「確かに……双葉さん、よくこんなとこ知ってたね」
「学校の女の子たちの間で話題になったことがあったんです」
「薫もガールズトークなんて出来たのか」
余計な一言のせいで薫から何度も小突かれる竜成を尻目に見ながら、ユウキはショーウィンドウに近づいた。〇がいくつも付いた値札を見ながら、これを買うのにどれくらいの仕事が必要なのかと考える。
次に会った時にはきちんとお礼を言わないといけないな、と考える一方で、心の中のもう一人の自分から「早くテルスに戻るんだろう」と指摘が入る。
そんな葛藤を知ってか知らずか、もしくはいつも通りか、ウィスは黙ってユウキの隣に並んで立っていた。
「何か買いますか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。別世界に同じ物があるって不思議だなと思ってね。じゃあ本来の目的地に行こうか。双葉さんとウィスの服を買うんだろ?」
「何言ってるんですか、シンドウさんの分もですよ」
「そ、そうだったのか?」
完全に傍観者の気分で油断していたユウキは少し驚いて、ふと自分の服装に視線を落とす。
整備兵の制服でも上着は着てないので、軍服感はだいぶ薄れている。しかし、周りと比べてみると確かに違和感があるように思えてきた。
アレンたちの世界のように戦いに従事している人間が多い所であればまだ目立たないのかもしれないが、ここのように至って平和な場所には適さないのかもしれない、とユウキも納得する。
ラディレから薫が行こうと思っていた店までは徒歩でもそれほどかからないらしく、四人は街を散策しながらそのまま歩くことにした。
「みんな違う服」
すれ違う道行く人々を目で追っていたウィスが呟く。ここまで多種多様ではないものの、当然テルスにも私服は存在する。
しかし、施設にずっといたであろうウィスにとっては、皆同一の制服ではなく様々な服装の人々は物珍しいのだろうと、ユウキは心の中で想像していた。
「着いたよ、ここです」
アーケード街に並んでいる洋服店を何軒も通り過ぎて薫が立ち止まったのは、それほど大きくはないものの明るい雰囲気な店だった。
ショーウィンドウからちらりと中を覗くと、淡い色使いが特徴の様々な格好をした数体のマネキンが立っている。
「えっと双葉さん、ここって女性物しか置いていないんじゃ……」
「そうですよ。男性物はもう少し先に何軒かあります。はい竜成、これはシンドウさんの分の軍資金ね。じゃ、行きますよウィスさん!」
薫に手を引かれてウィスが店内に連れ込まれていき、取り残されたユウキと竜成は薫から言われた通りに歩いてみることにした。しばらくすると、通りの両側に男物の服が置かれた店が現れる。
店先に展示してある上着の値札を見てユウキは愕然とした。さっき見たラディレのお菓子よりも〇が一つ多い。ふと隣を見ると、竜成も値札をめくりながら何とも微妙な表情をしている。
「何か探してるアイテーー」
「いえ見てただけです!」
人当たりの良い笑顔を貼り付けた男性店員を振り切って、ユウキと竜成は店を飛び出した。
「桁が……」
「道理で女って金がない金がないって騒ぐわけだぜ」
二人は揃ってため息を漏らす。ファッションにほとんど興味のない二人には、服にあれだけの金額をかける気には到底ならなかった。




