「ショッピングに行くわよ!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
最近、グリッドマンのOPがずっと脳内再生されています(笑)
「あれからもう二週間くらい経ってるから、てっきり自分の世界に帰れたんだと思ってたぜ」
「残念ながらまだふらふらしてるよ。また前の所に戻っちゃって、今はここだ」
「ユウキさんの世界から最初の世界に行って、それからこっちに来て、また最初の世界に行って、でこっちに戻ってきた、と」
「えっと、うん? ……うん、それで合ってる」
指折り数えつつ、我ながら随分入り組んだ状況になってきたなと思う。竜成が言った二週間というワードも少し気にはなったが、悩んでも仕方ないと深く考えるのは止めた。
「あれからメタルリザードは出たのか?」
「一回だけ出たぜ。装甲がやたら硬い上に尻尾にハンマーが付いてるやつでさ。モデルはアンキロサウルスかユーオプロケファルスあたりだと思うんだよな。実はサイカニアってパターンも……ってユウキさん、大丈夫か?」
「ごめんごめん。後半は何を言ってるのか全然分からなくてさ」
ハハハと苦笑いするユウキに、竜成は驚嘆の眼差しを向けている。
「もしかしてユウキさん、恐竜に興味ない人なのか?」
「興味も何も、テルスにはあんな生物はいないからね。ということは、この間のボルケンなんとかに似たキョーリューもいたってことか」
「そういうこと! 竜脚類っていう分類のーー」
「ほれ竜成、こんなところで講義を始めるんじゃない。立ち話しとらんで、家でゆっくりすればいいじゃろ」
双葉博士がこのまま放置すれば数時間でも語り続けそうな竜成をたしなめた。自分も聞き入りそうだったユウキは、ドミニクからの土産の存在を思い出して持っていた紙袋を双葉博士に手渡す。すると、それに気付いた薫が瞳を輝かせながら駆け寄ってきた。
「それ、ラディレですよね!」
「ラディレ? なんだそりゃ」
「ま、竜成が知ってるわけないわよね。ちょっと前に日本初上陸したばっかりの、すっごく有名なお菓子のお店なの。とっても混んでて、人気商品は全っ然買えないのよ」
「無駄に小さい『つ』が多いな。あれだろ、一箱千円くらいする高級なやつ。俺は牛丼二杯の方がいいや」
あっけらかんと言う竜成に、薫は勝ち誇った顔でチッチッチッと人差し指を振ってみせた。
「倍よ、倍。しかもこれ、開店記念で発売された日本限定販売の新作なんだから! シンドウさんったら、シンジュクなんていつの間に行って……シンドウさん?」
ユウキがやけに難しい顔になっているのを見て、心配そうに薫が尋ねる。ふと我に返ったユウキは何でもないんだと手を振った。
「それは、ここに来る前の世界の人がお土産にって持たせてくれたものなんだ。その人も新作だとは言ってたけど、買ったのは、確かオーなんとか」
「ラディレ オーランド店」
「……だと言ってた」
「アメリカじゃな。なかなか興味深い話じゃ」
ウィスの助け船にユウキがホッとしているところに双葉博士も会話に入ってくる。
「多少の違いこそあれ、お前さんたちが行き来している二つの世界はかなり近いようじゃな。いや、もしかすると似た世界はもっとあるのかもしれん」
「アメリカとシンジュクって多少か?」
「世界が異なる点を考えれば、一万キロなぞ少々の差じゃろ」
「次元穿孔システムの補助パーツを失ったことで、ごく近距離の次元転移しか出来なくなっているのだとしたら……」
竜成と一緒になって議論を交わす祖父やそれに聞き入るユウキの姿を見て、薫はミイラ取りがミイラになったとため息を漏らす。
薫に咎められてはたと現実に引き戻された男たちは、やっと研究所を後にした。行き先は大野エネルギー研究所からほど近い、双葉博士の自宅。その夜はウィスは薫と、ユウキは竜成と夜遅くまで話し込んでいた。
「ショッピングに行くわよ!」
翌朝、双葉家のリビングで薫が宣言した。「突然どうしたのだろう」と考えながら、ユウキは薫の母親がよそってくれたご飯をせっせと運んでいた。
「ごめんなさいね、お客様を働かせちゃって。うちの子ったら、気が利かなくて」
「いえ、突然押しかけてご迷惑をおかけしているので、これくらいさせてください。薫さんのおかげでウィスも楽しんでいますし」
「あらそう? それなら良いんだけど。ウィスさんもたくさん召し上がってね」
話しかけられたウィスは、目の前に並ぶ純和風な朝食に目を輝かせながらこくこくと頷いた。
「で、なんでいきなり買い物なんだよ」
ユウキの心中を代弁した竜成の前に置かれた茶碗のご飯は、他のものより大盛りによそわれている。
「ウィスさんがあんまり服もって……きてないみたいだから、いいお店を紹介しようかなぁと思って。シンジュクの案内もしてあげたかったしね」
「シンジュク? あぁ、そういえば昨日話に出たな」
なんとなく意図を察した竜成が話を合わせる。薫の母親にはユウキとウィスのことを、外国に住む双葉博士の知り合いの教え子たちだと説明してあった。
ダイノ粒子やゴウダイナーに関わっていない一般人な彼女を事態に巻き込まないようにするためだったのだが、竜成と薫は使う単語にも気をつけつつ会話しなければならなくっている。
「僕もシンジュクには興味があったから、嬉しいです」
空気を読んでユウキも加わり、薫の母親にも聞こえるように少し大きめの声で話す。ちらりと隣を見ると、ウィスはフォークで紅鮭と格闘するのに夢中なようで、これならボロを出すこともないなとユウキも一安心する。




