「秘密、乙女の」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
これにて3章は終了です。
これからユウキとウィスはどんな世界へ行くのでしょうね(棒読み)
「ウィスが乗ってなかったからって、どういうことだ?」
「わたしは次元穿孔システム起動の鍵、わたしのプラーナが次元穿孔システムの動力。出来損ないでも、わたしはDBSーP01の生体パーツだから」
「やめてくれ!」
アリスが口を開きかけた時、ユウキが語気を荒げてウィスを制止した。
「でも少佐はわたしをーー」
「でもじゃない! 仮にシステム的にはそうだったとしても、そうじゃない!」
「発言の辻褄が合わない」
「まぁまぁ、落ち着くんだユーキくん」
アリスは「任せるんだ」とユウキに目配せしつつ、自分に体を預けている少女の背中に向かって語りかける。
「ねぇウィスちゃん。ユーキくんはウィスちゃんに、自分のことを物みたいに呼んでほしくないんだ。ボクだってそうだよ。分かったかい?」
素直にこくんと頷いたウィスを見て、何故アリスの言うことは大人しく聞き入れるのだろうかとユウキは小さく肩を落とした。同時に、つい感情的になってしまったことへの照れに襲われて、少し視線を外して一度咳払いを入れる。
「そ、それなら、もしカウントがゼロになっても、ウィスがパルチザンに乗っていなければ何も起きないのか?」
ユウキの質問にウィスは首を振った。
「正常に次元転移が発動しない場合、システムがエラーを起こして……」
「起こして?」
「このラボくらいなら確実に消滅する」
思わず時計に目をやった。分かってはいたが、システムが作動するまでまだ二時間ほどある。
「ならしっかり準備して、集合は一時間後ということにしよう。ボクの城を消えたらたまらないからね。ところでウィスちゃん」
「なに?」
「その少佐さんは何故ウィスちゃんを『出来損ない』なんて呼んだのか、知っているかい?」
「ちょっ、アリスさん!?」
想像もしていなかったアリスの言葉に思わずユウキが大きな声を出す。アリスは肩を組むようにユウキにくっつくと、その耳元で小さく言った。
「いいかい、落ち着いてよく考えてごらん。ウィスちゃんの言葉が正しければ、次元転移は彼女の能力に起因することになる。それほどの存在を『出来損ない』なんて呼ぶかい、普通」
「それは、まぁ確かに……」
「言葉には必ず意味があるものだ。情報は得られる時に可能な限り入手する、これが勝利の方程式だよ。ウィスちゃんが侮蔑という感覚を理解してから聞くのは、それこそ酷だろう?」
数瞬の後、ユウキが小さく頷いたのを見て絡ませた腕を離す。アリスが向き直るまで、ウィスはきょとんとした顔で待っていた。
「わたしは小さな転移ゲートしか発生させられなかったから」
「つまり、ウィスちゃん以外の人はその転移ゲートを大きくできる、ということかな?」
アリスの問いにウィスがこくりと頷く。数秒ほど何か思案していたアリスが、不意にウィスのことを抱き寄せた。
「ウィスちゃんはいい子だよ。出来損ないなんて言葉、信じちゃダメだからね」
「で……分かった」
「うん、いい子だ」
アリスがよしよしとウィスの薄紫の髪を撫でる。少しだけ取り残されたような感覚を覚えつつ、あらゆる面で敵わないなとユウキは心の中で一人感嘆していた。
「ほれ、持ってきな」
時間になるとアレンたちが格納庫まで見送りに来てくれた。少し離れた所へウィスを呼んで、アリスは二人きりでなにやら話し込んでいる。一足先に搭乗しようと昇降機に手をかけたユウキに、ドミニクが紙袋を手渡した。
「ありがとうございますドミニクさん!」
明るい赤や黄色、薄い青や淡い緑で華やかに彩られた紙袋はそれほど重くない。中を覗くと白地に水色のストライプが入った箱が見えた。
「えっと、これは?」
「ラディレのオーランド店で限定販売してる新作、て言っても分かんねぇか。ま、美味いチョコだ」
「チョコレート……」
アイメンドールのパイロットを生業として、常日頃戦いに身を置く人が寄越す物としては結びつきにくいワードに、ユウキはまじまじと紙袋を眺める。
「手土産にしろよ。次に行くところで世話になった人に渡せばウケるぜ。なんてったって異世界のお菓子だからな」
「へぇ、お前にしちゃ気が利くじゃねぇか」
アレンも黙って首を振って同意を示した。そんな二人の反応にもめげず、ドミニクは自慢気な顔で胸を張っている。性格を考慮してみると、ドミニクならあり得るプレゼントかもしれない。
そうユウキも納得する。それと同時に、薫や竜成にこのチョコレートを渡したらどんな反応をするだろうかとふと考える。
「なら、俺もこれをやろう」
今度はアレンが大きく膨らんだ紙袋を差し出した。礼を言って受け取り覗き込むと、中身はシュミレーターのヘルメットだった。
「充電器も付けてある。訓練に使うといい」
「アレン、お前ぇ……もうちょい気の利いたもん渡せよ」
呆れ顔のロジャーに、何か問題があったかとアレンが無言で首を傾げる。
「こういう物もありがたいですよ。今の状況になってから、訓練が疎かになっていたのも事実ですから」
「ずいぶん楽しそうじゃないか。ユーキくん、待たせてすまなかったね。また会えることを楽しみにしているよ」
「なるべくなら僕はテルスに……いえ、またいつか、です」
差し出されたアリスの手を握り返してから、ユウキは今度こそ昇降機でコクピットに乗り込んだ。
「アリスさんと何の話をしていたんだ?」
「秘密、乙女の」
「おと……そ、そうか」
後方のシートに収まっているウィスの表情は分からないが、その口調はいつもと変わらない。十中八九アリスから吹き込まれたであろう言葉の意味を、ウィスが果たして理解して使っているのだろうかと考えながら、パルチザンを起動させる。
ホイールが収納されていることを確認してから足を踏み出す。出口の近くにいる整備士たちに向かって腕を振りつつ、格納庫の外へ出る。
「ウィス、次元穿孔システムの準備は?」
「出来ている」
「じゃあ、行くか」
ユウキの言葉にあまり気負った気配がないのは、すでに四度目の次元転移だからというだけではない。ディアナ社の面々に見送られて、パルチザンは再び虚空に姿を消した。
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「今回は無駄にあっちこっち移動させられて……さすがの俺も疲れが抜けねぇぜ」
「お前たちはまだ休めるだろうが。俺たちメカニックはすぐに仕事だぜ。あの模擬戦で機体に影響が出てねぇか、確認しねぇといかんしな」
「おやっさんもよく働くぜ。つうかさ……今回、俺の見せ場少なすぎだよな」
「しょうがないね。主人公はユーキくんとウィスちゃんだし、彼らがいなくてもメインは近接戦闘タイプと相場が決まっているだろ?」
「くそぉ、ガンナー系が主役でもいいじゃねぇか!」
「射撃中心のキャラが目立つ回があるとすれば、それはフラグが立った時だ」
「勝手に死亡させるんじゃねぇよ!」
「新しい相棒は近親者かそっくりな他人、というパターンが多いね」
「やめろ、やめてくれぇ!」
「まったく、こいつらに任せてたら終わりゃしねぇ。次回、異世界放浪機甲兵 継接のパルチザン、『狡猾! 謀略の京都!』 当然、俺たちの出番はねぇぜ」




