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「これでも一応、乙女の私室なんだよ」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

これからはまた月曜日に週一投稿できるよう、書いていきたいと思います!

 鮮やかな緑色のバグズの姿がそこにあった。全体的なデザインは他のバグズと大差ないが、その両腕には手がない。剣のような形状の物がその手首から先から生えていた。


「危なかった……ダイノエナジーの残量は?」

「五二%」


 ほぼ使い切っているかもしれないと覚悟していたユウキは、まだ半分を切っていなかったことに驚く。数日前にアリスが脚部パーツのエネルギー効率について話していたが、まさかここまで向上しているとは想像していなかった。


「それだけ残ってるなら、このまま空中から仕留め……おわっ!」


 緑色のバグズから放たれた砲弾がパルチザンをかすめて飛んでいった。背負うように備え付けられた砲身がバグズの左肩から覗いている。


 テールバインダーの出力を上げて空中を移動するパルチザンを狙って、二発三発と砲弾が放たれる。ユウキも反撃してマギアマグナムを撃つものの、予想以上に敵の運動性が高くなかなか命中しない。


「ユーキくん聞こえるかい。いま相手してるバグズはデータベースにないんだ。つまり新型なんだよ!」

「どこもかしこも新型か……流行りですね」

「流行りって、そんな悠長な!」

「落ち着けアリス。シンドウ、そのバグズ自体は新型だが、背面のキャノン砲はスカラベ型と同じものだ」


 シュミレーターで見たバグズの特徴を思い返してみる。ハリソンの工房で一人練習していた時に、その機体はいた。銃撃戦というより砲戦仕様な深緑色のバグズは、ローカスタよりも重火力だったが鈍重な動きをしていた。


「そのキャノーー」

「分かりました」


 アレンの言葉が終わる前に、ユウキがペダルから足を離す。重力に引かれて高度を下げていくパルチザンは、着地の瞬間にだけ再びスラスターを噴射して地面に降り立った。


 マギアマグナムを腰のハードポイントに戻し、敵を正面に見据える。


 いま対峙している新型はどう見ても接近戦タイプで、キャノン砲四門にミサイルまで装備していたスカラベ型とは全くの別物である。


 しかしそのキャノン砲が上下に広い射角を持つ一方で、左右への対応に難があったことをユウキは覚えていた。


「敵、チェーンソーを起動」


 バグズの方から聞こえていたモーター音がだんだん高くなっていき、そこに何かが高速で回転する音が重なってくる。相対する新型のバグズは、ここから逃がさないとでも言いたげに両手を大きく開いて構えている。


「ダイノニウム合金なら耐えられると思うけど……」

「試さなくていい」

「分かってるよ。毎度毎度腕を壊されるなんて、さすがに恥ずかしい」


 ユウキはパルチザンを敵の右側、キャノン砲の死角に回り込むように走らせた。キャノン砲で撃退することを諦めたのか、バグズはパルチザンとの距離を詰めにかかる。


 パルチザンも方向を変え、今度は正面から突っ込んでいく。衝突するまであと数秒というところまで距離が縮まった時、テールバインダーが火を噴いた。


 敵もすぐにチェーンソーを振り下ろしたものの間に合わない。手の甲部分の装甲がスライドして、パルチザンの右手を包むナックルガードに変わる。


 懐に飛び込んだパルチザンは、勢いそのままにバグズを殴りつけた。体勢を崩したバグズの前腕部を内側から押さえ、チェーンソーの自由を封じ込める。


「ここから、こう!」


 パルチザンが左腕の角度を僅かに変える。機関銃から放たれた光弾がバグズの頭部とキャノン砲の砲身を撃ち抜いていく。


 バグズの腕の力が弛んだ一瞬にパルチザンは跳び退り、そのまま飛び上がった。残る武装(チェーンソー)では空飛ぶ敵に対抗できないと判断したのか、バグズは反転して一直線に荒野を駆けていく。


 上空でマギアマグナムを構え、ユウキはじっくりと狙いを定めてからトリガーを引いた。背中から撃たれてバグズが爆炎に飲まれるのを見届けてから、パルチザンはゆっくりと地面に降りてきた。





「はぐれバグズ三機に、おまけに新型!? がっぽがっぽじゃねぇかよ。ユーキ〜、お前運良すぎだろ」

「どっちかってぇと悪運だな。まぁ何にしても、寝てる場合じゃなかったってこったな」

「……君たち。なんでボクの部屋で宴会開いてるんだい?」


 その夜、いつものメンバーがアリスの部屋に集まっていた。すっかり眠気から解放されたドミニクとロジャー、そして二人に付き合わされたユウキの手にはアルコールが注がれたグラスが収まっている。


「俺は止めたぞ」

「固ぇぞアレン! 食堂はもう閉まってるし、俺たちの部屋は大勢入れるほど広くねぇし、なぁ?」


 ラボの所長という役職を与えられているだけあって、アリスの部屋はかなり広い。住人であるアリスを含めて六人が集合しても余裕をもって座れるだけのリビングスペースがある。


 単純な面積はアレンたちが割り当てられている普通の一人部屋の倍以上ある。洒落た照明、二台のモニターが並んだしっかりした造りの木製デスク、個室にはないシャワールームまである。


「なぁって……これでも一応、乙女の私室なんだよ」


 まったく、とため息をつくアリスの手にもグラスはある。ロジャーは「乙女って歳でもーー」と呟いたが、笑顔から漏れ出るアリスの黒いオーラに気付いて慌てて口を(つぐ)んだ。


「で、どうしたんだい。ただ酒盛りをするためだけに押しかけたわけじゃないんだろう?」

「これからの話をしに来た」


 アレンの言葉に違和感を感じて、ユウキが首を傾げる。


「これから……って、どういうことなんですか? アレンさんたち、ディアナ社辞めちゃうんですか!?」

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