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「さっきも同じようなことされたから」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

 すぐさまアレンが部屋を飛び出してコンテナへ向かい、ドミニクもその後に続いて出て行った。一方のアリスは窓際に張り付いて、食い入るようにそのロボットを見つめている。


「素晴らしいID(アイメンドール)だ。バグズ、なわけはないか。ソール重工でもない……ここからじゃよく分からないな」

「安全の確認ができるまでここから出るんじゃねぇぞ」


 玄関めがけて歩きだしていたアリスだったが、ぶっきらぼうな口調のロジャーに引き止められると玩具を取り上げられた子どものような顔でふり返った。


 アリスは目で必死に訴えかけていたが、トレーラーの外を映すカメラから送られてくる映像をモニターに表示しているロジャーを見ると、諦めた様子でソファーに腰を下ろし冷めかけたコーヒーに口をつけた。


「動く気配はないし、ボクは大丈夫だと思うんだけどな」

「レーダーにも引っかからねぇ機体だぞ。出所の分からんものは警戒しろ」

「ベックさんも研究者こっち側だと思っていたんだけどな。意外とお固いんだね」


 イタズラっぽく笑うアリスに対して、ロジャーはモニターから目を離さずにフンッと鼻を鳴らした。


「これでも元軍人だからな。それと、ロジャーでいい」




 アレンがトレーラーを出てコンテナのドアを開けると、そこには深緑色のID『ダーニング』が横たわっていた。


 全長は一〇メートル弱、両手両脚はやや太めで、つま先とかかとにホイールがついている。まだ暗いままのゴーグルは大きめで、頭部の約半分をしめている。


 機体に乗り込んだアレンがコクピット内のスイッチを入れていくと、モニターが順番に点灯していって、唸うなるようなエンジン音がだんだんと大きくなっていく。


「目標に変化なしだ。動き出す気配も今はねぇ」


 コクピットに置いてあったヘッドギアを装着すると、耳元の通信機からロジャーのしゃがれた低い声が聞こえてくる。


「通信感度良好。起動シークエンス四番から九番を省略。エネルギーバイパス正常、火器リンク確認。戦闘システムチェック……完了、スタンバイ」

「アレンでも二言以上話すことがあるんだね」


 いつもと違う声が通信機から聞こえてきて、アレンの眉がピクリと動く。


「……必要ならな」

「こちらドミニク、ばっち聞こえてるぜ。起動完了まであと三〇!」

「開けてくれ」


 ロジャーがいくつかボタンを押すと、コンテナの屋根と壁が折りたたまれて収納されていく。


 横たわっていたダーニングはゴーグルアイに淡く光を灯してゆっくりと体を起こし、その両脚で大地を踏みしめる。


 少し遅れてもう一つのコンテナの屋根が開いていき、大口径のライフルを構えていたダーニングがアレンの機体に並ぶように立ち上がった。


「ホントに動いてないんだな」

「ドミニク、怪しいと思ったら撃て」

「了解っ」

「ボクとしては無傷で鹵獲してほしいな」


 スピーカーの向こうでアリスが呟くのを無視し、アレンはゆっくりと機体を走らせて謎のロボットに近付いていく。


 よく見ると、装甲は白というよりも明るめの灰色だった。


 ダーニングを含む他のアイメンドールと比べてもかなり人間らしいフォルムで、用途の分からないクリスタル状の青い発光体が両腕に取り付けられている。


 跪ずいているので正確には分からないが、立ち上がればダーニングよりも頭二つほど大きくなりそうにも見える。


「機体を停止させてハッチを開けろ」


 ハンドガンの銃口を灰色の機体の腹部に向けながら、アレンは拡声器を使って呼びかける。しかしコクピットが開く気配はなく、かといって動きだして抵抗するような素振りもない。


「繰り返す。その機体のパイロット、聞こえているなら今すぐハッチを」

『ちょっと、待って……ください。今……』


 その後の言葉が続かない。灰色の機体から発せられた声は苦しげで、ひどく途切れ途切れだった。


「どうするロジャー」


 判断を任された最年長は無精ひげが残るあごを撫でながら少しの間黙っていたが、やがて音声がアレンの機体から出力するように設定を変更してからマイクに手を伸ばした。


「あ〜……このままの状態が続く場合は拘束して軍に引き渡すしかなくなる。が、戦闘の意思がないのなら、悪いようにはしない」

「軍に渡したら、あの機体をボクが調べられなくなるじゃないか!」

「いや、今の問題はそこじゃないだろ」

「動くぞ」


 その一言で他の三人は各々の目の前のモニターに食いついた。アレンが銃口を向けていた場所の少し上、ロボットの胸部がゆっくりと開いていく。


 やがて装甲が上がりきりコクピットが露わになると、中から青白い顔をした青年が現れる。顔を出した数秒後には、コクピットの縁にもたれかかるように膝をついた。


「助けてやれ。一応注意しておけよ」

「了解」


 アレンは機体を降りて灰色の機体に飛び移る。念のため拳銃を構えてコクピットを覗き込むと、そこには少年が力無く倒れ込んでいた。


「大丈夫か、おい」


 アレンは、自分よりも少し年下に見える青年の頬を軽く叩いてみる。外傷はなく脈はしっかりしているものの、反応は全くない。


 仕方なく少年を背負おうとアレンがしゃがみ込んだ時、操縦席のその奥に薄紫色の髪を重力に任せて垂らしている無表情の少女と目があった。


「動くな!」


 拳銃を抜き、少女に銃口を向ける。そのまま数秒が流れたが、少女は眉すら動かすこともなくじっとアレンの方を見ている。


「アレン、どうした」

「コクピットにもう一人いた」

「なにっ!?」


 少女は銃を見ても声をあげるでも慌てるでもなく、ただじっとしている。


「誰だ」

「わたしは、ウィス」

「この状況でよく落ち着いてるな」

「さっきも同じようなことされたから」

「……お前も降りろ」


 ウィスの言葉に疑問を抱きつつも、特に危険性はないと判断したアレンは再び拳銃をしまってアレンを背負った。振り返ると、ウィスはまだシートに座ったまま動いていない。


「降りろと言った」

「もう……命令は、ないんだぞ」


 背中から聞こえてきた苦しげな声が何を意味しているのかはよく分からなかったが、青年から少女に向けたものであろうことを察したアレンは黙って少年を下ろした。


「さっき、言われただろ……これからは自分で、決めろ。全部だ」


 肩で息をしながら声を絞り出している青年の言葉が少女に向けてのものであろうことを察して、アレンは黙って顛末を見守っていた。


 じっと少年を見つめていたウィスは、やがてベルトを外してシートから立ち上がった。


「大丈夫か。名前は?」

「ユウキ、ユウキ・シンドウです」

「歩けるか?」

「なんとか……頭がグワングワンしてますけど」


 ユウキはアレンに支えられながらコクピットを出ると、その後からウィスがついてきた。その様子をモニター越しに確認したドミニクは、構えていた大型ライフルを下ろして機体をコンテナの中へ移動させた。





 なんとかトレーラーに辿り着いたユウキだったが、入り口をくぐったところでガクッと膝から崩れ落ちてしまった。


「おいおい大丈夫か」


 慌てて駆け寄ってきたロジャーとアレンに抱えられて運び込まれたユウキは、そのままソファーに横たえられる。


「ご迷惑、おかけします」

「それは構いやしねぇが、なんでそんな具合悪そうなんだ?」

「次元境界壁突破適正の低い者が次元穿孔システムによる転移を行うと、その負荷により体調に異変が生じる、と言われている。具体的な症状として、頭痛、吐き気、全身の倦怠感、それと」

「あぁ〜待て待て! そいつは何言ってんだ」


 顔を見せた瞬間に淡々と語り出す少女を唖然とした表情で見つめていたロジャーだったが、ふと我に返って急いで静止させた。


 一方のアレンはウィスの奇行にもすでに慣れたようで、我関せずといった表情で黙っている。


 説明を求めてユウキに視線を送るロジャーだったが、困った顔で「スミマセン」と小声で返されただけだった。


「とりあえず頭痛薬と酔い止めだね」


 混乱気味のロジャーと違い、アリスは落ち着いた様子でいくつかの錠剤を選んで水と共にユウキに渡す。受け取った薬を流し込んだユウキは、ものの数秒で気を失うように眠りに落ちてしまった。


「詳しいことはこの子が回復してからかな。ドミニクが戻ったらとりあえず依頼の話に戻ろう。君、名前は?」

「ウィス」

「ボクはアリス・セレーネ。こっちにおいでウィスちゃん」


 ウィスはこくりと頷くと、アリスの隣に腰掛けた。ちょうどその時ドミニクがトレーラーに戻ってきて、部屋の中をグルリと見渡した。それぞれの表情から何かを察したようで、彼は自分が先ほど座っていた椅子に黙って腰を下ろした。

次あたりからキャラ紹介でも入れてみようかな……

読む人いるのかな? いると言ってよバーニィ

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