「テスト項目」
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
予定では約1ヶ月前に投稿するつもりだったなんて、口が裂けても言えない楠たすくですm(_ _)m
連日の移動などで体力の限界だったアレンたちはそのまま自室で倒れるように眠り込み、つい先ほど昼食を逃してしまうからと何とか起きてきた。しかし疲れはまだ抜ける気配がなく、今もドミニクとロジャーはうつらうつらしている。
「オーランドに残ったところで、特にすることもないだろう」
「俺みたいな色男にはな、やることが山ほどあるんだよ!」
「今やることは寝ることだ。じゃあな」
ようやく朝食を終えたロジャーが席を立った。空になった食器を重ねながら「俺も寝るわ」と呟いたドミニクに、ロジャーが意地の悪そうな笑みを向ける。
「俺たち整備スタッフは休みってことになってるが、お前たちは昨日の報告書を書かにゃならないんじゃなかったか?」
「勘弁してくれよ、おやっさん。てか、報告書の提出期限は明後日なんだから今日はいいんだよ。そもそも、睡眠不足で報告書なんて書けるわけねぇ」
「機内でも寝ていただろ」
「いいかアレン、俺は一日九時間睡眠派なんだよ! 座って寝たとしても、そんなもんは睡眠に入るわけ……」
眠気からかおかしなテンションになり無駄に熱く語っていたドミニクだったが、何か思いついたらしくはたと口を閉ざした。
「そういや、ユーキとウィスちゃんは?」
「坊主たちならボスが連れてったぞ。パルチザン用に作ったパーツのデータを取るとかなんとか言ってな」
「パーツってあのホイール?」
「いや、オーランドに行ってる間にここで作ってたもんらしいぞ」
ドミニクは関心半分呆れ半分といった感じの間の抜けた声で「へぇ……」と漏らす。なんとも薄い反応だったが、ロジャーも似たような感想なので特に何も言わずに食器を返却口に持っていった。
「アリスって、燃料切れとかねぇのか?」
「好きなことやってる時は体力消費しないタイプなんだろ」
「もう部屋へ行くのか?」
唐突にアレンがドミニクとロジャーに尋ねた。その真剣な表情に、二人は無言で顔を見合わせる。
「そのつもりだが、なんかあったか?」
「急ぎじゃない。話は夜でいい」
「話? なんの?」
「これからどうするか、だ」
「二時間後にまたここに来てくれ。テストに付き合ってもらうよ。じゃ!」
輸送機からパルチザンを降ろし格納庫に搬入したユウキは、コクピットから出てすぐにアリスからそう告げられた。
色々と尋ねたいこともあったのだが、相変わらず必要最低限のことしか告げないアリスはあっという間に整備士たちの所へ行ってしまった。
二時間後、ユウキは「前にも似たようなことがあったような……」と考えながらウィスと共に歩いていた。そして、格納庫へ入るのと同時にその感覚の正体に気がついた。
「あぁ、この間の朝か……」
「朝? もうお昼」
「いや、そういうことじゃないんだ。何でもない」
「ゴメンね二人とも。ちょっとだけ押しちゃってるんだよ」
見慣れた白衣姿のアリスが見上げる先、そこにはまた少し姿を変えたパルチザンが立っていた。
脚部スラスターの上にハリソンの工房で作ったパーツが装着してあることには変わりないのだが、あったはずのホイールが今は見えない。
何より目を引くのはパルチザンの背面だった。シルエットだけならば、首元でくくった腰に届きそうなほどのポニーテールのように見えなくもない。
細長い逆三角形のパーツが、人間で言えば背骨に沿うように取り付けられていた。まだ完成していないらしく、パーツの周りには今も作業中の整備士たちの姿がある。
「アリスさん、あれは……」
「姿勢制御用の追加スラスター、テールバインダーだよ。感覚的に動かせるように、トランスヴァインで繋いであるんだ」
「あの、僕たち今回は何もしていないのに、ここまでしていただくのは……」
「大丈夫大丈夫、これからしてもらうから」
「へ?」
間の抜けた声を出したユウキに、アリスはにっこりと満面の笑みを向ける。ふと隣のウィスを見ると、何やら厚い紙の束を差し出していた。
「えっと、これは?」
「テスト項目」
「テスト? なんの?」
見なくても分かってはいるのだが、それでもウィスが黙って指差している先に目をやるとパルチザンがあった。先ほどまで作業していた整備士たちは、揃ってキャットウォークを歩いて引き上げている。
渡された書類の表紙には『デザイア用高機動ユニット試作一号テスト項目』と書かれている。試しに初めの数ページをペラペラとめくると、中には文字がズラリと並んでいる。
「これ、読んだ?」
ウィスがこくんと頷くのを見てユウキはそっと書類を閉じた。
「デザイアってカーマインとかセルリアンの正式名称ですよね。そのパーツのテストをパルチザンでするんですか?」
「あぁ、それは一応の名目だよ」
「本当にお世話になってばかりで、申し訳ないです」
「気にしないでいいよ。今日とれたデータを今後の開発に反映させるのは本当からね」
頭を下げるユウキの肩をポンポンと軽く叩くと、アリスは瞳を輝かせながらパルチザンを見上げた。
「パルチザンの、正確にはアームドウェアの、だね。とにかく、追従性の高さはアイメンドールの比ではないんだ」
「そうなんですか?」
「プラーナエクステンションという機構を元から使用していると実感がないだろうけどね。アイメンドールでやろうとすればかなり面倒なプログラムが必要になることでも、パルチザンならユーキくんの感覚ひとつで出来ているんだ。つまり……いや、技術的な細かい話は置いておこうか」