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「いや、答えなくていい」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

執筆スピードが激遅になってしまいました……

 観客が固唾を飲んで見守る中、一気にホイールの回転音が高くなり、オベディーⅡが斧を構えたまま距離を詰めてくる。


 カーマインは後退しながら振り下ろされる斧を躱していたがやがて追いつかれてしまい、今度はシールドで斧を受け止めた。


「もう反撃してこねぇのか。まぁ右腕破損でシールド持ってちゃ攻撃できねぇよな。シールド捨ててボクシングでもするか、あ?」

「ザウル・ヴァレンタ、なぜディアナ社を辞めた」

「おっ、変なこと知ってんな。アンタ、どこで俺のこと聞いたんだ?」

「こちらが質問している」


 シールドと斧がギシギシと音を立てて軋む。膂力(りょりょく)は同等なようで、両機は拮抗したままその場から動かずに互いを押し合っている。


「そういうことは勝ってから聞きな!」

「なら、後で答えてもらおう」

「はっ! 口の減らねぇ野郎だ!」


 オベディーⅡがホイールを逆回転させて後退した。生じた距離を利用して勢いをつけながら、斧を振りかぶって再び距離を詰める。


 ほぼ同時にカーマインも加速、正面から突っ込んでいく。あわや衝突するかと思われたが、カーマインは左へ僅かにそれた。


 構わず振り下ろされる斧をシールドで受け止めつつ、左腕をずらしてその拳をオベディーⅡに向けた。



 直後、連続して発砲音が鳴った。それからすぐに模擬戦終了を告げるブザーがオベディーⅡのコクピット内に響く。


「なんだと!? どうなってやがる!」


 アナウンスがカーマインの勝利を宣言し、会場から賞賛の声が上がる。


 ハッチを開けてコクピットから飛び出したザウルが目にしたのは真っ赤に濡れるオベディーⅡの装甲だった。半乾きのペンキはまだ半乾きで、重力に引かれてゆっくりと垂れてている。


「お前がディアナ社にいた時にはまだなかった装備だ」


 ハッとしてザウルが見上げると、バイザーで顔を隠したアレンがコクピットから出てきていた。


 アレンが顎で指し示した方へ無意識に視線を動かすと、シールドの裏側に隠れた二門の銃口がオベディーⅡの方を向いていた。


「シールドに装備するタイプの機銃、だと?」

「どんな気分なんだ、捨てた乗機に負けるっていうのは」

「ちぃっ、貴様……!」

「いや、答えなくていい。もう一度戦うのは面倒だからな。ザウル・ヴァレンタ、約束通りさっきの質問に答えろ」


 促すようにアレンがザウルに向かって手を差し出す。二人の会話の内容など知る(よし)もない観客たちの目にはそれが握手を求めているように見えたようで、会場中から拍手が湧き上がった。


 歯をくいしばっていたザウルはチッと舌打ちを漏らすと、観念したようにため息を一つ吐き出した。


「パイロットが動く理由が金以外にあるかよ。倍だぞ、倍」

「俺にはあるが、それはいい。その話はソール重工から持ちかけられたのか」

「そんなことまで答える義理はねぇな。だがまぁ、仲介人がいた、とだけは教えといてやる。金に困ったら連絡しな。アンタにも紹介してやるぜ」


 会場の空気を察したザウルは、一瞬だけアレンの手を掴むとすぐにオベディーⅡのコクピットへと引き返していった。一方のアレンは、突然の不可解なザウルの行動に小首を傾げる。


 しかし遅れること十数秒、周囲の拍手の意味にやっと気がついて観衆に応えるように右手を掲げてみせた。歓声はカーマインが格納庫に戻ってからもしばらく続いていた。






「俺たち、何でこんなとこにいるんだ」


 椅子の背もたれに体重を預け、両腕と頭部を重力に任せてだらりとさせているドミニクが誰ともなしに呟いた。虚ろな瞳は天井をぼうっと眺め、話す言葉にもいつもの活力は感じられない。


 ロジャーに至っては、ここ数日間できちんと横になったのがハリソンの工房で作業した日の夜だけだった。ドミニク同様、疲労の蓄積のためか食欲もあまりないようで、元から小盛りの昼食が先ほどから一向に減っていない。


「帰ってきたからだろう」


 事もなげに返すと、アレンは皿いっぱいに盛られたサラダにドレッシングを二周りかけてからフォークを突き刺した。



 場所はディアナ社のラボの食堂。昼食というにはかなり遅めな時刻のため、食堂にはアレン、ドミニク、ロジャーの三人の姿しかない。


「……ツッコむ気力も起きねぇな。さっさと帰るつもりだとは聞いてたけどよ。せっかくオーランドまで行ったってのに、まさかホントにとんぼ返りするはめになるとは思わなかったぜ」

「老体にこの過密スケジュールはきつい過ぎるんだがな」


 デモンストレーションと模擬戦が終わると、アリスは早々に帰り支度を始めた。軍の関係者への挨拶回りなどはいいのかとロジャーが尋ねると、アリスは「苦手なんだ、そういうの」とさらりと言ってのけた。


 ディアナ社の方も彼女の性格や交渉の腕前は理解しているようで、わざとらしさを欠片も感じさせない爽やかな笑顔を貼りつけたスーツ姿のスタッフ数名が待機室に現れた。


 引き継ぎは数分の打ち合わせで引き継ぎを終了させると、アリスは足取りも軽く待機室を出て行った。



 カーマインとセルリアン、そして数名の整備士をオーランドに残ることになったので、帰りの輸送機にはパルチザンだけが積み込まれた。輸送機は夜中飛び続け、翌朝にはラボがある荒野に降り立った。

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