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「もう壊れたの?」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

今日からまたストック作っていかねば!

 急ピッチで進めた換装作業を時間内に終えたカーマインが再び姿を表したときには、既にオベディーⅡは訓練場に出てきていた。


 二機が揃うと会場の興奮は更に高まって、本当の祭りのような騒ぎになっている。


「装備が変わってますね」

「そりゃそうだろ。今からやるのは実戦形式の模擬戦だ。魅せればいいデモンストレーションとは訳が違う」


 カーマインは背中のハードポイントに単発式の中口径ライフルを、何も装備していなかった左腕にはシールドを持っている。


 オベディーⅡはバズーカの代わりにアサルトライフルを腰に帯び、左手には柄の長い斧状の武器を装備していた。


 連盟軍の整備兵がやってきて双方の武器を調べ、装填されているのが模擬戦用のペイント弾かどうかを検査していく。


 どちらも問題がないことが確認されると、二機はそれぞれの所定の位置に誘導された。


 整備兵たちの引き上げが完了するとカウントダウンが始まる。数字が減っていくにつれて会場にも徐々に静寂が広がっていく。



 開始を告げるブザーが鳴った瞬間、アレンはホイールを逆回転させた。ほぼ同時にオベディーⅡがアサルトライフルを構え、一気にペイント弾をばら撒いた。


 シールドを上げつつ後退するカーマインは、左右にフェイントを入れながら後退する。


 青いペンキにべったりと染められた壁が命中しなかったペイント弾の数を物語っている。しかし、カーマインのシールドにも、いくつか痕が付着している。



 実弾ではないので衝撃はほとんどなかった。当然シールドが壊れることもないのだが、被弾数が増え過ぎると、審査をしている連盟軍側からシールドを投棄するよう指示されてしまう。


 アレンは回避を優先させつつオベディーⅡにライフルの銃口を向けた。


「見た目以上に動きますね」


 感心したようにユウキがつぶやいた。デモンストレーションでは装甲の堅牢さをアピールするためか避ける素振りも見せなかったオベディーⅡだったが、模擬戦では一転して回避行動も取っている。


「あの装甲でこれだけ動けるってことは、相当足回りを強化してるってこった」


 アレンの射撃も決して悪くはないのだが、命中した数よりも僅差で避けられてしまった数の方が多い。


 通常、アイメンドール同士の模擬戦では数十秒で決着がつくことがほとんどだが、お互い一定の距離を保ったままの銃撃戦が一分を超えている。


 決定打となるような攻撃が決まらない状況で、先にオベディーⅡの弾倉が尽きた。


 その隙を逃さずアレンは一気にカーマインを突っ込ませる。オベディーⅡがアサルトライフルに予備の弾倉を装着した時には既に両機の距離はほとんどなく、カーマインはすれ違い様に右腕を振り抜いた。


 当然ながら模擬戦用の刃の一閃はオベディーⅡを両断したりはしないが、その装甲には真っ赤なペンキの跡が一筋残っている。


 勢いそのままに背後に回り込んだカーマインが更に二度、オベディーⅡを斬りつけた。


「よし決まったっ!」


 珍しく興奮した様子のロジャーがグッと拳を握りながら椅子から立ち上がる。オベディーⅡは動きを止め、会場からは一際大きな歓声が上がった。


 バチンと何かが外れる音が辺りに響く。その音はだんだん増えていき、数秒後に十数回鳴ったところで収まった。


 直後、(アックス)がカーマインの頭部めがけて振るわれる。風を切る音がするほどの勢いの斧を、カーマインはシールドで受け止めた。


「驚いたぜ。よく反応したじゃねぇか」

「とどめの前に余裕を見せるパイロットは二流だ」


 短距離回線で話しかけてきたオベディーⅡのパイロットに、アレンはぶっきらぼうに返す。


 何が起きているのかと会場がざわめく中、オベディーⅡから赤いペンキのついた装甲が次々に剥がれ落ちていく。やがて現れたのは一回りスリムになったオベディーⅡだった。


 オベディーⅡが(アックス)を器用に振り回してから刃をカーマインに向けて構えると、観客から一斉に感嘆の声が上がった。


「こいつの仕掛け、いつ気付いたんだよ」

「わざとらしい隙を見せた時だ」

「なるほどな。ちっとは演技の勉強もしときゃ良かったぜ」


 カーマインがブレードで斬りつけると、オベディーⅡは素早く後退して刃を躱す。そのままアサルトライフルをカーマインに向け、きちんと狙いをつけないまま弾をばら撒いた。


 アレンはとっさにシールドを構えたが間に合わず、数発のペイント弾が右腕に命中した。


 するとコクピットに通信が入り、右腕は破壊されたという判断が下ったことがアレンに伝えられる。その話は待機室でモニターを見つめる三人にも聞こえていた。


「もう壊れたの?」

「みたい、だな。ちょっと判定厳しくないですか」

「何とも言えねぇな。確かに、あの口径で何発か撃たれただけで抜かれるほど薄い装甲じゃねぇはずだが、動作不良おこす可能性も捨てきれねぇ……模擬戦では審査してる側の判断優先っつうわけだ」


 アレンは大人しく右腕のブレードを収納する。何事かとざわつく会場にも、先ほどの攻撃が有効でカーマインは小破扱いになったことが伝えられた。


「右腕がない状態で、どうすれば勝ち判定が出るんですか」

「相手を組み伏せて行動不能にするしかねぇ」

「それなら、あっちは逃げまわって撃っていればいいだけなんじゃ……」

「今日はコンペだぞ。機体をアピールしてなんぼだ。ただ勝ちゃいいって戦い方しても、お偉いさん方は満足しねぇのさ」


 ロジャーの読み通り、オベディーⅡはわざとらしくアサルトライフルを放ってみせると両手で斧を振りかぶる。

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