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「……ボク、泣くからね?」

1ヶ月以上更新が止まってしまいました。

ストックがあるにも関わらず……です。

いやぁ、監獄こえぇ。


ともあれ、ここまで読んでくださってありがとうございます!

「はい、分かりました。至急準備にとりかかります。はい、では……」


 電話が終わったらしく、アリスは両腕をだらりと下げながら深くうなだれて、また珍しく大きく長いため息をつく。


 数秒間その体勢で固まっていたアリスだったが、ぐっと体を起こした時にはいつもの勝気な表情に戻っていた。


「手伝う?」

「ウィスちゃんは優しいなーもう! でも大丈夫、今回はディアナ社に売られた勝負だからね!」


 そう言い残すと、アリスは目を輝かせながら鼻息も荒く部屋を飛び出していった。


「勝負って何のことですか?」

「文字通り、そのまんまの意味だ。これから模擬戦だとよ」

「相手はさっきのですか?」

「あぁ。デザイアとオベディーⅡを直接比較するためか、もしくは観客を喜ばせるサービスか……ったく、お偉いさん連中ってのは気まぐれであれこれ決めやがる」


 苦虫を噛み潰したような顔のロジャーがどっかと腰を下ろした。こちらはアリスと違いテンションは低く、ガシガシと無造作に頭をかいている。


「二対一……ということは、ありませんよね」

「出るのはアレンだ。セルリアンは対多用のチューンだしな」


 この事態では整備士のロジャーに仕事はもうない。ユウキたちと一緒に観戦する気でいるらしく、アリスを追って部屋から出て行くことはしない。


 アナウンスで観客に模擬戦が行われることが知らされると、会場は更なる盛り上がりを見せた。



 歓声が格納庫にも届いてくる。そんな中でディアナ社のスタッフは慌ただしくカーマインの調整を行なっていた。


「左腕、換装遅いですよ。何やってるの!」


 アリスの檄が格納庫にこだまする。指定された時間まではあまり余裕はない。


 実弾のキャノン砲を積んでいたセルリアンよりはましが、対戦となればカーマインも装備を変更しなければいけなかった。


「一気に忙しくなっちまって……お偉いさんたちには他所の都合ってのを、もうちょい考えてほしいもんだぜ。なぁアレン?」

「なら手伝ってこい」


 ドミニクは開いたままになっているカーマインのコクピットの端に腰掛けて、自身の端末で何かを見ていた。アレンはレバーを軽く握りながらじっと目を瞑っている。


「いま下にいると作業の邪魔になるわけよ、逆に。ここはプロの手に任せて、俺は大人しくしてんの」

「ならロジャーたちの所へ戻ればいい」

「そんな寂しいこと言うなよ。ほれ」


 アレンは(わずら)わしそうに片目だけ開け、差し出された端末を受け取った。


 表示されていたのは男の写真と彼の経歴らしきものが書かれたページで、ちらりと見ただけでろくに読まないままドミニクに端末を押し返す。


「知らないな」

「知り合いかどうかを聞いたんじゃねぇよ。ここ、ここ読んでみ」


 画面をコツコツと叩きながら再びドミニクが端末を渡すと、アレンは渋々ながらも今度はきちんと目を通していく。やがてドミニクが見せようとしていた部分まで読み進めてアレンは首を傾げる。


「ディアナ社の元社員で……配属は技術開発部?」

「コイツ、模擬戦の相手だぜ」

「ソール重工のパイロットなのか?」

「そゆこと。俺たちが雇われることになったのはコイツが原因ってわけだ」

「アリスはこのことを?」

「知らないだろ。一般に公開されてるのは機体データだけ、パイロットに関する記載はないからな」


 ドミニクがあまりにさらりと話すので、「その情報はどこで仕入れたんだ」という疑問をアレンは飲み込んだ。返ってきたとしてもろくな答えではないことは明白なので、ただ黙って端末を返すだけに留める。


「この急な模擬戦はそいつと関係あるのか」

「さぁな、さすがにそこまでは分かんねぇ。確実なのは、あちらさんはデザイアの性能を熟知してるってことだ」

「所詮模擬戦だ。負けても死にはしない」


 そういうとアレンは再び目を閉じて黙った。ドミニクの方も用件は済んだようで、端末をしまうとカーマインのコクピットから出ていった。


 ドミニクが行った数十秒後、アレンも機体を降りてアリスのもとへ向かう。


「少しいいか」

「何でしょう。いま少々立て込んでいるので、手短にお願いします」


 周りに人がいるので余所行き仕様の話し方でアリスが応える。この忙しいのに何事か、とも思ったが、アレンが用もなく話しかけてくるわけもないと考え直して、作業の手を止めることなく耳を傾ける。


「昨日話していたもの、付けられるか」

「今からか……コホン、ですか?」


 驚きで思わず素の話し方が出そうになってしまい、アリスはきょろきょろと辺りを見渡した。二人に気を留める余裕のある者もおらず、スタッフたちはそれぞれ自分の作業に集中している。


「出来なくはないですが……いえ、やはり駄目です。動作確認もまだですし、急ごしらえの装備は操作性の低下を招きます」

「バランスの調節ならこちらでやる。頼む」

「……分かりました。あとで納得のいく説明をしてくださいね」

「感謝する」

「これで負けるようなことがあれば……ボク、泣くからね?」

「了解」


 最後に敢えて小声で念を押してからアリスは通信機のスイッチを入れ、周囲のスタッフに作業の変更について指示を始めた。


 一方のアレンはコクピットに戻って、普段は整備士によって出撃前に決定される機体の各種設定値を順番に変更していく。

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