「預かりもんだ、手ぇ出すなよ」
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「くぁー、よく寝た!」
「ダメだ、俺はあんな椅子じゃ寝ても寝た気がしねぇ……」
飛行中ずっと座席で眠っていたアリスがうんと伸びをしながら輸送機を降りた。
その後ろからロジャーがあくびを噛み殺しながら現れる。時刻はすっかり夜なのだが、照明が煌々と輝いていて暗さはほとんど感じない。
「ここは比較的新しい基地でね。前にも話したけど、最近の連盟軍の主な活動は都市の防衛なんだ。基地が併設されるということは、それだけオーランドが大都市だということでもあるんだ」
「こっちの世界にはこんな場所もあるんですね……」
ラボ周辺の岩と赤土しかない荒野の景色とは打って変わって、輸送機が降りたった飛行場は見渡す限りの人工建築物に囲まれていた。
決して良い眺めというわけではないのだが、アレンたちに続いて降りてきたユウキは眼前に広がる夜景に思わず感嘆の声を漏らす。
「そりゃ地球も広いからな、あんな田舎ばっかじゃないぜ。テルスにはこういう所ってないのか?」
「そうですね。前にもお話ししましたが、長く続いた戦争とその後に起きた環境異変が原因で、今では荒野と廃墟ばかりになってしまいました。もちろん居住区はありますが、少なくとも僕がいた所はこんなに華やかで活気に溢れてはないです」
「この辺りはバグズの影響が比較的少なかったからな。よし、これから俺がゴキゲンな店を案内してやるぜ!」
「残念だけど、今から明日のブリーフィングだよ」
「痛っ、ちょ、冗談だって!」
ノリノリで夜の街へ繰り出そうとしていたドミニクだったが、アリスに耳をつままれたまま待機してあった車に連れていかれた。
似たようなやり取りがよくあるのか、アレンは特にリアクションを見せずに車に乗り込む。ユウキとウィスもそれについていこうとすると、ユウキだけロジャーに呼び止められた。
「坊主はこっちだ。パルチザンをトレーラーに乗せな」
「トレーラー、ですか? どこかへ運ぶんですか?」
「昔馴染みがやってる工房だ。パルチザンを軍の施設に持っていくわけにいかないからな」
「なるほど、確かに……」
アリスに付いて車に乗り込むウィスを見送っている時に、ふと脳裏に氷室中将の顔が浮かんだ。
軍が規律で成り立っている組織である以上、転移したパルチザンを最初に発見したのが軍だった場合は今ほど自由はなかっただろう。
そう考えると、会う人たちだけは恵まれているのかもしれない、とユウキは一人納得した。
「極秘で開発中の二足歩行式IDの試作機ってことになってるから、適当に話を合わせてくれ。それからーー」
ロジャーからあれこれと注文をつけられた後、ユウキはパルチザンをトレーラーに横たわらせた。
前回見たものはダーニングの格納庫を兼ねた中型トレーラーだったが、今日のトレーラーはパルチザンも収まるほどの大きさがある。
コクピットに待機したまま揺られること数十分、ロジャーから到着したと報告が入るとトレーラーの屋根が展開し始めた。
ラボにあったものと似たような設備が並んでいるが全体的に古く、広さも格段に狭い。
ロジャーの指示通り、開発中の二足歩行機ということで少々ぎこちなくゆっくりと誘導された窓際へ機体を歩かせる。
「へぇ、ホントに歩いてますね。どこで手に入れたんスか?」
「預かりもんだ、手ぇ出すなよ」
ユウキがコクピットから出ると、ロジャーが金髪の男性とパルチザンの足元で話していた。
降りてきたユウキが自己紹介をすると、青年も微笑み浮かべながら挨拶を返す。ハリソンと名乗った青年もロジャーと同じような油のはねたつなぎ姿をしていた。
「で、頼んでたもんは?」
「一応組み上がってるッスよ。調整はまだなんスけどね」
「手伝うぜ」
「あの、僕はこれから何を……」
状況がいまいち掴めていないユウキに、ロジャーはトレーラーから抱えて持ってきた大きな箱をユウキに渡した。包装紙を破り中を開けると、ローラーブレードが出てきた。
「えっと、これは?」
「パルチザンにIDと同じホイールをはかせる。こっちじゃスムーズに歩行できるIDはまだ開発されてねぇ。悪目立ちされて突かれるとお互い厄介だろ」
「た、確かに……」
「デザインはどうしようもないからな、せめて動きだけでもIDっぽくしておけっつうのがボスの命令だ。ま、あいつは他にも考えてるみたいだったがな。つうわけで、邪魔にならねぇところで滑ってろ。ホイール移動の感覚を身体で覚えるにはそいつが手っ取り早い」
ヘルメットと肘当てを放ると、ロジャーは大きな機械の下に潜り込んで作業を始めたハリソンのもとへと行ってしまった。
一人残されたユウキはいそいそと渡された物を装着していく。最後にローラーブレードをはいて立ち上がろうとした瞬間、ユウキは盛大に尻餅をついた。
「なんであんなことやってんスか? テストパイロットがIDの素人なんてわけないだろうに。そもそも、バランサーがあるんスからIDがコケるわけないッスよね」
作業は止めずにハリソンが横目でユウキを覗き見る。
自分よりもいくらか若いであろうパイロットは生まれたての子鹿のような体勢でよたよたと壁に手をついていて、その姿は滑っているというよりも歩いているという方が合っているだろう。
「余計な詮索してねぇで手を動かしやがれ。調整込みで今夜中に終わらせなきゃならねぇんだからな」
「へいへい、頂いた分はしっかり働かせてもらうッスよ。全く、すっかりお堅い会社勤めになっちゃったんスから〜」
ロジャーが不満気に鼻を鳴らすのを聞きながら、ハリソンは再び視線を目の前の機械に向けた。